死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

文字の大きさ
26 / 42

第25話 葛藤 (アレクシアside)

しおりを挟む
 移動させられてから四日がすぎ、アレクシアは忸怩たる思いを抱えていた。

 王弟サンダルフォンやクラスター公爵とはあれ以降会っていなかった。

 この身に流れる血が彼らに取って大事だというのは分かるが、それを具体的にどうするのかという点についてはなにも分からないままだ。

 あの時クラスター公爵は何と言っていただろう。

 なんとなくクラスター公爵と王弟サンダルフォンとではこの件に関してベクトルが違うような印象を受けた。

 ユクトルはどうなったのかしら?

 ひどいことばかりされてきたが、流石に命を落とせばいい、とまでは思っていない。

 現在アレクシアは監禁されているが、手足の拘束はなく部屋の中だけなら自由に動くことができた。
 
 食事は質素ながらも運ばれてくるし、一度目の生のことを思えばだいぶ恵まれているとアレクシアには思えた。

 もしかしたら私とクラスター公爵の子息の誰かを結婚させてその子を次王にさせたいのかしら?

 そうなるとまだ王位継承権を放棄してない王弟サンダルフォンの存在は邪魔になるが、今の時点では向こうの方が身分は上なので下手に出ている、といったところだろうか。

 王弟サンダルフォンはいったい何の目的でクラスター公爵と共謀しているのだろう。

 やはり自分が王位に就きたいから?

 それならアレクシアの存在は邪魔にしかならない。
 
 さまざまな憶測が頭の中に広がり、アレクシアを悩ませる。

 いっそのこと、国外へ出たほうがいいのだろうか。

 ユクトルには厳しい指導係でも付けて貰えば少しは矯正できるだろう。

 その上で権限を狭めればなんとかなるかもしれない。

 国を捨てる――私が。

 人々の生活を成り立たせるためにはさまざま決断が必要だった。

 それは貴族としての義務でもあり、アレクシアが一度目の生で学んだことだった。

 私はこの国を捨てられるの?

 ユージーンの顔が頭をかすめる。

 帝国に嫁せばこの状況から逃れることはできるが、それではこの国の国民はどうなる?

 そこまで考えたとき、アレクシアの脳裏にとある可能性が浮かぶ。

 まさか、ユージーン様にも一度目の生の記憶がある?

 他にもいい候補があるはずなのになぜかこの国へ留学してきた彼。

 そもそも自分のような地味な女になぜ、と思っていたのだけれどもし彼にも一度目の生の記憶があるのなら納得がいく。 

 もし自分に王族の血が流れていることを知っていたなら。

 ユクトルが王太子から外れ、王弟サンダルフォン夫妻に子供はいない。

 そんな状況でアレクシアとの婚姻は内側から王国を切り崩すもっともよい布石になるだろう。

 それにケインはどうなるのだろう。

『お初におめもじ遣わさります。シグルド帝国が第二王子ユージーンの第一子ケインにございます』

 まだ五歳だというのに定型文をしっかりとこなし、所作も会得しているその子供の目に生気はなかった。

 第二王子の王子妃がどのような目に遭ったのかは聞いている。

 母親をそのように失くしては無理もないだろう、とアレクシアは外交の場で周囲がいつも通りに邪魔できないことを利用してケインへ気を配ることにした。

 休憩時間になってケインに与えられた部屋に入ると、ケインは椅子に腰かけ本を広げていたがその背筋はピンと伸び、ページをめくる小さな指の先までもある種の緊張を含んでいるように見えた。

『今、よろしいかしら?』

 声を掛けるとすぐに本を置いて立ち上がるケインにアレクシアはそのまま座るように促す。

『座っていていいのよ』

『そのような訳にはまいりません。僕の行動で我が帝国に対する印象が決まると言われておりますので』

 それらの言葉にはアレクシアも身に覚えがあった。

 ――はしたない真似はなさらないように。

 ――あなた様はいずれ王妃となって国王陛下を支えるのです。

 ――国中の女性の模範となられる身ですから、御自重くださいませ。

 厳しい教育の中で得たものはあるが、失ったものも多かった気がする。

 一度目の生で、同年代の友達は一人も出来なかったわね。

 幼少の頃から淑女教育を施される令嬢は一定数いるが、アレクシアほど厳しく課された令嬢はいなかったようで、学園に入学してもアレクシアと話してくれる令嬢は存在しなかった。

 ケインを見ているといずれ彼も自分と似たような道を歩みそうで怖くなってくる。

 だから余計なことかもしれなかったが、アレクシアはケインと話そうと思った。

『それはとても素敵な心掛けですね。ですが今は休憩の時間ですので、そこまで気になさならなくでも大丈夫ですよ』

 笑みを作り、何の本を読んでいたのか柔らかな態度を心掛けて聞くと、五歳児が読むにしては堅苦しい題名が返ってきた。

『地方財政概論? 今からそのようなものを読めるなんてすばらしいわね』

 そう褒めるとケインは顔を俯かせる。

『読まなければならないんです』

『どこかわからないところでありましたか?』

 ページを横から見ると大人でも読むのは難しいと思われるものだったが、アレクシアも幼少の頃に似たような本を読むことを課せられていたのでその心境はわかるつもりだ。

『分からないことを聞くのは恥でもみっともなくもありませんよ。私も何度も聞いて教師達の手を煩わせたことがあります』

『ですがあなたは教師や世話係ではありません』

『それではケイン様とご一緒に学ぶというのはいかがでしょう? 私もおおまかなことは分かりますが帝国語で書かれたものはあまり得意ではありませんので』

 そう告げるとやはりまだ五歳ということもあるのか、顔を輝かせてケインが答える。

『いいの? ……いいんですか? コントワーズ妃』

『勿論です。それと今は公式の場ではないのでアレクシア、と呼んでいただけると嬉しいのですが』

 アレクシアが要望を述べるとケインが少し口ごもったように告げた。

『それでは……アレクシア様』

『はい。ケイン様』

 その後は帝国語の辞書も使いながらケインとふたりで本を読んだ。

 他にも隙を見てもう少し簡単な内容の本を読んだり、お菓子の品数を増やしたり、とこれまでにない経験ができ、アレクシアが唯一楽しかったと言える思い出である。

 ケインの母親は帝国内の上位貴族だと聞いた。

 もちろん第二王子であるユージーンとは十分に釣り合う身分なのだろう。

 しばらくケインとの思い出に浸っていたアレクシアだったが、そこでふと我に返る。

 やっぱり私は彼と結ばれるわけにはいかない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

【完】隣国に売られるように渡った王女

まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。 「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。 リヴィアの不遇はいつまで続くのか。 Copyright©︎2024-まるねこ

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

処理中です...