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第26話 思惑
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それは突然のことだった。
遠くで何か大きな音がいくつかした、とアレクシアが思った時、その喧噪は少しずつ近付いてきた。
何が起きているの?
剣戟を思わせる音も聞こえ、アレクシアは一度目の生の最期が思い浮かび、とっさに壁際に寄った。
窓は板で塞がれているので脱出路には使えない。
まだ死にたくない。
――居たか?
――いや、まだだ!!
あちらこちらで扉を開け閉てする音と怒鳴り声が聞こえ、アレクシアはまたか、と思った。
結局一度目の生の最期とほとんど変わらない結末を迎えるのね。
脳裏をよぎったのはやはり彼の顔だった。
想うだけならいいでしょう。
アレクシアがいる部屋の扉が乱暴に叩かれ、やがてせわしなく錠を壊しているような音がした。
歪な形にされた扉が開き、騎士たちが数人踊り込んでくる。
彼らが身に纏う鎧を見てアレクシアは少しだけほっとした。
少し意匠は古いがそれは王家直属の騎士に使われるもので、実際に会ったことはほとんどないが書物で見て知っていたのだ。
彼らはアレクシアを見付けると、跪いた。
「失礼ながらアレクシア・フォンデル公爵令嬢とお見受けします。我が主の命によりお迎えに参じました」
態度こそ丁重なものの、所属や名を言わないところから誰かの密命を受けたものと思われた。
もしかして国王陛下からかしら。
王妃はユクトル贔屓なので有り得ない、と除外する。
跪かれているが、アレクシアに選択肢はない。
「分かりました。行きましょう」
アレクシアはそう答えるしかなかった。
次にアレクシアが連れて来られたのはこれまでとは趣が違った建物だった。
とは言っても目隠しをされて移動させられたので、詳しい場所はまったくわからない。
ただ、室内の調度品は古典的な意匠のものが多いことと、少し色褪せた壁紙のようすからかなり古い建物だと思われた。
やはり窓は打ち付けられていたが。
しばらくすると侍従が呼びに来て、アレクシアは廊下へ出た。
ここも意匠は前時代的であるものの、かなりよい素材を使用している思われる内装だった。
どこの貴族かしら。
脳内の貴族名鑑を捲るが、なかなか該当する貴族は思い当たらない。
これほどの邸を維持できるのなら、由緒ある貴族だろうが、そういった貴族は王族へ逆らうという思想を持つことは少ないはずである。
何事にも例外はあるが、とっさに具体的な名前までは出て来ず、悶々とするアレクシアはいつの間にか重厚な扉の前へ案内されていた。
貴族の格を知るには侍従の所作を観察するのがよい、と言われているがここの侍従は動きに隙が無く、また品も保っており、かなり名のある貴族だと思うがアレクシアには思い当たる節がなかった。
侍従が隙のない動作で扉を叩くとすぐに応えが返ってきた。
「なんだ?」
この声は――
「アレクシア・フォンデル公爵令嬢をお連れしました」
「入れ」
扉を開けられ、一歩中へ足を踏み入れたアレクシアはカーテシーをしたが、苦笑したような気配がした。
「それはしなくていいと言わなかったか」
「目上の方への礼儀にございます。……サンダルフォン様」
アレクシアの言葉に王弟サンダルフォンはソファーの上でくつくつと笑う。
「まあ座れ。それにしても度胸があるな。流石クラスター公爵が女王へと推すだけのことはある」
「……失礼いたします」
示された対面のソファーへ腰を下ろしながら内心アレクシアは驚いていた。
女王? クラスター公爵はユクトルとの婚約継続を望んでいたはずでは?
そう問い掛けると王弟サンダルフォンは緩く首を振った。
「いや。あ奴は表面上は俺の味方をしていたが本心はまったく別だ。ユクトルより能力のある姪御殿の方を取ったのだろう」
まるでのんびりと天候の話でもしているかのように告げられたため、一瞬反応が遅れた。
続けてサンダルフォンはとんでもないことを言った。
「だからひとまず地下牢へ放り込んでやった」
――は?
目を見開くアレクシアの前でサンダルフォンは楽し気に笑う。
それは幼子のように邪気のないものでそのことがさらに異様な風体を成していた。
「たかが生まれるのが一年遅かっただけで一方は王になり、もう一方はやがては家臣とされる。なんて理不尽だと思わないか?」
ぞくり、と皮膚が泡立つのを感じ、空気を変えようとアレクシアは必死に話題を逸らした。
このままではもしかしたら殺されるかもしれない。
それもただ穏やかに会話を交わしている最中に。
「少しよろしいでしょうか?」
「何かな」
「クラスター公爵は私が国王陛下と聖女様の御子である、と言いましたが私の容姿は少しもお二方ににておりません。もしかしたら皆様勘違いをされておられるのでは?」
アレクシアの髪はよくある茶髪で、瞳も同様に国民であればよく見る色合いの青色である。
王族独特の色味の青ではなく、また聖女が持つとされる珍しい髪色でもない。
アレクシアがそう告げるとサンダルフォンは王族特有の青い瞳を輝かせた。
「そうそう。それなんだ。王族にはそれなりの特徴がある。なかでも『王族の青』を持つ瞳は必ず受け継がれることになっているが、心配はいらない」
疑問に思うアレクシアの前でサンダルフォンが続ける。
「君は知らないか。まあ、そうだね。誰も生まれた時から自分の髪色や瞳の色が変えられているとは思わないものだしね」
それはどういうことか、と聞こうとしたときアレクシアの胸元で何かが割れるような乾いた音がした。
え、と思ううちに音は次々と聞こえ、それがアレクシアの体質を改善してくれていた魔道具のペンダントだと思いい当たったときにはすでにその魔道具は粉々に砕け散っていた。
サンダルフォンがやれやれと肩を竦めた。
「どうやら向こうは気が短いようだね」
は、と声を出そうとしたアレクシアのこめかみから流れる髪は茶色ではなかった。
茶色よりずっと明るく、存在を強調するかのような珍しいその色は――
唖然とするアレクシアの前でサンダルフォンがどこか満足げに呟く。
「うん。その色がよく似合っている。きっとユクトルも気に入るだろう」
遠くで何か大きな音がいくつかした、とアレクシアが思った時、その喧噪は少しずつ近付いてきた。
何が起きているの?
剣戟を思わせる音も聞こえ、アレクシアは一度目の生の最期が思い浮かび、とっさに壁際に寄った。
窓は板で塞がれているので脱出路には使えない。
まだ死にたくない。
――居たか?
――いや、まだだ!!
あちらこちらで扉を開け閉てする音と怒鳴り声が聞こえ、アレクシアはまたか、と思った。
結局一度目の生の最期とほとんど変わらない結末を迎えるのね。
脳裏をよぎったのはやはり彼の顔だった。
想うだけならいいでしょう。
アレクシアがいる部屋の扉が乱暴に叩かれ、やがてせわしなく錠を壊しているような音がした。
歪な形にされた扉が開き、騎士たちが数人踊り込んでくる。
彼らが身に纏う鎧を見てアレクシアは少しだけほっとした。
少し意匠は古いがそれは王家直属の騎士に使われるもので、実際に会ったことはほとんどないが書物で見て知っていたのだ。
彼らはアレクシアを見付けると、跪いた。
「失礼ながらアレクシア・フォンデル公爵令嬢とお見受けします。我が主の命によりお迎えに参じました」
態度こそ丁重なものの、所属や名を言わないところから誰かの密命を受けたものと思われた。
もしかして国王陛下からかしら。
王妃はユクトル贔屓なので有り得ない、と除外する。
跪かれているが、アレクシアに選択肢はない。
「分かりました。行きましょう」
アレクシアはそう答えるしかなかった。
次にアレクシアが連れて来られたのはこれまでとは趣が違った建物だった。
とは言っても目隠しをされて移動させられたので、詳しい場所はまったくわからない。
ただ、室内の調度品は古典的な意匠のものが多いことと、少し色褪せた壁紙のようすからかなり古い建物だと思われた。
やはり窓は打ち付けられていたが。
しばらくすると侍従が呼びに来て、アレクシアは廊下へ出た。
ここも意匠は前時代的であるものの、かなりよい素材を使用している思われる内装だった。
どこの貴族かしら。
脳内の貴族名鑑を捲るが、なかなか該当する貴族は思い当たらない。
これほどの邸を維持できるのなら、由緒ある貴族だろうが、そういった貴族は王族へ逆らうという思想を持つことは少ないはずである。
何事にも例外はあるが、とっさに具体的な名前までは出て来ず、悶々とするアレクシアはいつの間にか重厚な扉の前へ案内されていた。
貴族の格を知るには侍従の所作を観察するのがよい、と言われているがここの侍従は動きに隙が無く、また品も保っており、かなり名のある貴族だと思うがアレクシアには思い当たる節がなかった。
侍従が隙のない動作で扉を叩くとすぐに応えが返ってきた。
「なんだ?」
この声は――
「アレクシア・フォンデル公爵令嬢をお連れしました」
「入れ」
扉を開けられ、一歩中へ足を踏み入れたアレクシアはカーテシーをしたが、苦笑したような気配がした。
「それはしなくていいと言わなかったか」
「目上の方への礼儀にございます。……サンダルフォン様」
アレクシアの言葉に王弟サンダルフォンはソファーの上でくつくつと笑う。
「まあ座れ。それにしても度胸があるな。流石クラスター公爵が女王へと推すだけのことはある」
「……失礼いたします」
示された対面のソファーへ腰を下ろしながら内心アレクシアは驚いていた。
女王? クラスター公爵はユクトルとの婚約継続を望んでいたはずでは?
そう問い掛けると王弟サンダルフォンは緩く首を振った。
「いや。あ奴は表面上は俺の味方をしていたが本心はまったく別だ。ユクトルより能力のある姪御殿の方を取ったのだろう」
まるでのんびりと天候の話でもしているかのように告げられたため、一瞬反応が遅れた。
続けてサンダルフォンはとんでもないことを言った。
「だからひとまず地下牢へ放り込んでやった」
――は?
目を見開くアレクシアの前でサンダルフォンは楽し気に笑う。
それは幼子のように邪気のないものでそのことがさらに異様な風体を成していた。
「たかが生まれるのが一年遅かっただけで一方は王になり、もう一方はやがては家臣とされる。なんて理不尽だと思わないか?」
ぞくり、と皮膚が泡立つのを感じ、空気を変えようとアレクシアは必死に話題を逸らした。
このままではもしかしたら殺されるかもしれない。
それもただ穏やかに会話を交わしている最中に。
「少しよろしいでしょうか?」
「何かな」
「クラスター公爵は私が国王陛下と聖女様の御子である、と言いましたが私の容姿は少しもお二方ににておりません。もしかしたら皆様勘違いをされておられるのでは?」
アレクシアの髪はよくある茶髪で、瞳も同様に国民であればよく見る色合いの青色である。
王族独特の色味の青ではなく、また聖女が持つとされる珍しい髪色でもない。
アレクシアがそう告げるとサンダルフォンは王族特有の青い瞳を輝かせた。
「そうそう。それなんだ。王族にはそれなりの特徴がある。なかでも『王族の青』を持つ瞳は必ず受け継がれることになっているが、心配はいらない」
疑問に思うアレクシアの前でサンダルフォンが続ける。
「君は知らないか。まあ、そうだね。誰も生まれた時から自分の髪色や瞳の色が変えられているとは思わないものだしね」
それはどういうことか、と聞こうとしたときアレクシアの胸元で何かが割れるような乾いた音がした。
え、と思ううちに音は次々と聞こえ、それがアレクシアの体質を改善してくれていた魔道具のペンダントだと思いい当たったときにはすでにその魔道具は粉々に砕け散っていた。
サンダルフォンがやれやれと肩を竦めた。
「どうやら向こうは気が短いようだね」
は、と声を出そうとしたアレクシアのこめかみから流れる髪は茶色ではなかった。
茶色よりずっと明るく、存在を強調するかのような珍しいその色は――
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