死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第30話 王冠の重み

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「大変光栄な申し出ですが、お受けすることはできません」

 アレクシアとしては本当なら違う言葉で答えたかった。

 だけどケインのことを考えるとできない。

 葛藤するアレクシアの前でフォンデル公爵が少し驚いたようにアレクシアを見た。

「もしやもうあのことを知って……? いやそれにしても身分を明かせば帝国の第二王子ならば最適解のはずだが」

 フォンデル公爵の発言は何かおかしかった。

 アレクシアは跪いていたユージーンを立たせ、ソファーへ促してからフォンデル公爵へ向き直る。

「それはどういう意味でしょうか?」

 フォンデル公爵は言い淀んでいたが観念したように口を開いた。

「アレクシア……様でよろしいですな。アレクシア様には誕生の折から不自由をかけて誠に申し訳ありませんでした。代わってお詫び申し上げます。そしてあなた様の正しいご立場について説明させていただきたく」

「わかりました」

 しっかりとしたアレクシアの口調とその態度に軽く目を瞠ったフォンデル公爵が静かに話し出した。

「大概の国ではその血筋で王が決まります。ですが、コントワーズ王国ではそれはまた違った意味も持ち合わせているのです。……アレクシア様はこのコントワーズ王が被る王冠に触れたことがありますな?」

 おかしな質問だった。

 通常、王が被るべき王冠は儀式に合わせて作られており、何種類もある。なかでも戴冠式で使用されるものは厳重に管理されている。

 そこまで思考を巡らせたアレクシアは、疑問を生じた。

 子供の頃に王宮で迷い込んだ部屋にあった王冠はなぜ触れることができたのだろう?

 あの時周囲に人の姿はなく、幾つもの宝石で飾られた王冠はとても煌びやかでアレクシアの目を引いた。

 きれい、と思って触れたとき、細やかな細工を施された宝石がさらに輝きをましたように見えた。

 一瞬のことであり、アレクシアはつい先ほどまで忘れていたことだった。

 そう告げるとフォンデル公爵は更に質問を重ねる。

「王冠に触れて何も異常はなかったのですね?」

 何も異常はなかった、とはどういう意味だろうか。

 まるで王冠に意思があるかのような問い掛けに聞こえた。

「ええ」

 アレクシアの答えを聞いたフォンデル公爵が頷く。

「やはり正統な王位継承者はアレクシア様でしたか」

「どういうことでしょう?」

 そこでフォンデル公爵はユージーンの方を気にしたようだったが、今更かというふうに肩を竦め、話を続けた。

「この話はごく一部の者にしか知らされていないのですが、コントワーズ王国の王冠は王家の血が濃い者――もっと言えばその上で王たる資質のある者にしか被ることができず、また触れることすらできない、とされているのです」

 は、とアレクシアは半ば開き掛けた口が止まるが、その間にもフォンデル公爵の話は続いている。

「あくまでその時代の中でもっとも王に相応しい者にしか触れることが出来ない、とされていますので、王冠の間は厳重に警備がされております。……通常ならば」

 フォンデル公爵によるとまれにこうした事態は起こるという。

 現王の能力不足、もしくは次王となる者が現れた場合。

 王冠に導かれたように王冠に触れさせられることがあるという。

「まるで王冠に意思がある、と言われるようにその時王冠に触れ、無事だった者が王にならないとその時代は荒れる、と王宮の禁書に書き記されているのですよ」

 まるで見て来たかのような内容に反応したのはアレクシアではなかった。

「ずいぶんとお詳しいですね」

 ユージーンの言葉にフォンデル公爵が軽く肩を竦める。

「これでもこの国には尽くしてきましたので。いろいろと余計な話まで耳に入ってしまうのですよ」

 二人の会話にアレクシアは入っていけなかった。

 王冠に触れて無事だった者、というのはいったいどういう意味なのだろうか。

 会話が途切れた隙を見て問うと思いもかけない事実を知らされた。

「これは何と言ったらいいのか。王冠に選ばれない者がむやみに触れるとその者は最悪の場合、命を落とすとまで言われているのです」

 ……え?

 とんでもない内容にアレクシアが固まっている間にも話は続く。

「これは公にされていないことですが、現王が『真実の愛』を見付けた際に、弟であるサンダルフォン様が王にふさわしいのは自分だ、と仰って無理やり王冠を被ろうとしたことがあったのです」
  
 もちろん王冠に拒否されて倒れてしまったのですが。

 離宮で長く療養していたのはそのためだったらしい。

「王冠は建国当時からありましたが、どういった基準で王となる者を見覚めているかはまったくわかりません。ですがまずは王家の血を引いていることが第一条件になりますから、サンダルフォン様がああいう振る舞いをされたことも分からないでもないのですが」

 さらに詳しく聞くと、王族であれば命を落とすことはなく、そうなるのは血をまったく引かない者が王冠を被ろうとした時に多いということだった。

「ですので、建国当時の魔導師がそのように王冠に魔法を付与したと考えられていますが、現在のコントワーズ王国内にはそこまで実力のある魔導師はおりません」

 魔力は貴族階級が高いほど多く有すると言われているが、コントワーズ王国ではその魔力量がだんだんと少なくなってきており、自力で魔法を使う者はあまりおらず、ほとんどの者が魔道具の補助で魔法を発動させているのが現状である。

 帝国では勝手が違うようだが、これがこの国での魔法のあり方となっている。

 そこまで考えてアレクシアはあることに気付いた。

「ではユクトルは……」

「ユクトル様は残念ながら王冠に選ばれておりません」

 フォンデル公爵によると、ユクトルは五歳の時に王冠に触れたが、弾かれるように王冠から手を離すと三日三晩高熱にうなされたということである。

「そのため、正しい王位継承者であるアレクシア様と婚約させておけば王家の存続に変わりはない、としたのがクラスター公爵です。あの時はこちらとしても反論できるだけの材料が見当たらず、御不自由をおかけしましたこと誠に申し訳なく思います」

 アレクシアはもう一つ気になっていたことがあった。

「お聞きしたいことがあります」

「なんでしょうか。アレクシア様」

 ほとんど会話がなかったとはいえ、父であった人に尊称を付けられるのはどこか物悲しいものがあった。
 
 アレクシアはそんな胸中の思いを払拭して続けた。

「私のこの髪色が変わったのはあのペンダントの魔道具で間違いないでしょうか?」

 体調を整えるため、と幼少のころから身に付けさせられていた魔道具。

 それが砕け散ると同時に髪色が変わったのだから間違いないと思うだが、あの時サンダルフォンが告げた『どうやら向こうは気が短いようだね』という言葉を考えると、まだ何かありそうだった。

 だいたい『向こう』とはどういう意味だろう。

 まるで他にも――

 そんなことを考えたアレクシアにフォンデル公爵が、ほう、と息をついた。

「そうですな。そこも申し上げないとならないことでした。実はその魔道具は一つでは発動しないのです」

「――は?」

「それは俺から説明しよう。なんといっても帝国産の魔道具なのだから」

 ユージーンがそう言ってアレクシアを見たが、そこにはどこか哀愁めいたものが感じられ、アレクシアは戸惑いを感じた。

 



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