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第29話 帰宅
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そんなアレクシアの葛藤をどう見たのか、ユージーンは少し目を伏せた。
「……そういう言葉が欲しかった訳ではないですが。いや、いいです。行きましょう」
促されて移動すると、邸の吹き抜けの奥、玄関口と思われる大きな扉の前にいる男たちの中に見知った人物を見付ける。
アレクシアの視線を受けた人物――フォンデル公爵――が顔を上げた。
「無事だったか。アレクシア」
この場には他にも人がいたため、尊称を付けられなかったがその目には気遣うようなものが見えた。アレクシアの髪色が変わったのを見ても動じていないところをみるとやはり知っているのだろう。
恐らくユージーンにアレクシアの出生の秘密を教えたのはフォンデル公爵だと思われる。
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
アレクシアが殊勝気に答えるとフォンデル公爵は鷹揚に頷いた。
「よい。ひとまず体に支障はないようだな」
「はい」
頷き返すとそのまま馬車に乗せられ、移動させられる。
ちなみにここにフォンデル公爵やユージーンはいない。
彼らはこの事件の始末がいろいろとあるのだろう。
アレクシアが乗った馬車の周囲には今度は明らかに騎士団の所属と分かる騎士たちが馬を並べていて、堅固な体制が敷かれているのが分かった。
フォンデル公爵の邸まで三時間ほどかかってしまったところを見ると、あの邸はだいぶ王都の外れに建てられていたらしい。
フォンデル公爵邸に着くと侍従長に公爵からの伝言だと言われ、アレクシアはすぐに湯あみをさせられ、休むように言いつけられてしまった。
浚われた身なので騎士団による事情聴取等があると思われたのだが、どうやらその辺りは内々に済ませるつもりらしい。
はっきりと言われた訳ではなかったが、いつもの侍女に身支度を整えられ、無事を喜ばれた後、お嬢様は学園を病欠していたことになっております、と告げられたからだ。
やはり女性――しかも上位貴族の令嬢――が浚われるというのは外聞が悪いのだろう。
明日には医師の問診があると告げられ、軽い食事を摂り寝台に横たわったアレクシアはそれ以上のことを考える間もなく眠りに落ちた。
翌朝、身支度を整えて食堂へ向かうと朝食の席にはすでにフォンデル公爵がいた。
挨拶を済ませて席に着くアレクシアにフォンデル公爵が声を掛ける。
「体調はどうだ?」
「いまのところ異常ありませんわ」
そう答えるアレクシアだったがフォンデル公爵の顔色が優れないことが気になった。
今日医者が来るというのなら、フォンデル公爵も一緒に診察を受けた方がよいのでは、と提案しようとしたアレクシアだったが、フォンデル公爵の言葉の方が早かった。
「食事が済んだら青の間へ来なさい。少し話がある」
「わかりました」
昨日の件はもう片付いたのだろうか。
と思ったがすぐに心の内で否定した。
サンダルフォンとクラスター公爵の件は重罪である。
革命を企て、国政をひっくり返そうとしていたのだから。
クラスター公爵は爵位剥奪の上断罪は免れないだろうし、サンダルフォンは毒杯を賜ることになるだろう。
だがいきなりそんなことをすれば国政が乱れるのは目に見えている。
微妙な政治の均衡を保つ策を弄するには、一晩では足りなさすぎる。
青の間は客人を迎えるに値する内装がされた間である。
フォンデル公爵と共にアレクシアが青の間へ足を踏み入れると、やはり客人がいた。
「このような早朝から申し訳ありません。シグルド殿」
ユージーンも寝不足気味なのか、目の下に薄っすら隈があった。
「いえ、構いません。フォンデル公爵。こちらも話したいことがありましたので」
そこからはざっくりと説明された内容は、やはりクラスター公爵は北のゴブル辺境伯を隠れ蓑に革命を起こし、現王の血を引くアレクシアを傀儡の女王にしようとしていたらしい。
幸いにも舞踏会のユクトルの発言で王家側が手を打ちそうになったのを予想したクラスター公爵が急いでアレクシアの身の確保に動いたことで、フォンデル公爵が動く理由ができた。そのため、この機を逃さずクラスター公爵と表面上は手を組んでいたサンダルフォンも捕縛することができたということだった。
フォンデル公爵がやれやれと息を吐いた。
「これで膿は出せましたがこの後のことを考えると少々気が重いですね」
父であるフォンデル公爵が気安げに話し掛ける様子を驚いてアレクシアが見ていると、ユージーンも頷きながら答えた。
「そうですね。ほとんど名ばかりとはいえ、王族を裁くのですから。それにクラスター公爵を始めとした革命軍に関わっていた貴族のあぶり出しもありますし」
この数日間の内に何があったのだろうか。
和やかに会話を交わす二人に呆然とするアレクシアの間でさらに話が続けられる。
「貴族議会が荒れるのが目に浮かぶよ」
「心中お察しいたします。ですがやはりこれ以上は無理ですね」
「申し訳ないがこれ以上帝国の方におられるのは」
「分かっております。彼女の無事も確かめたので、これだけさせていただいたらお暇させていただきます」
なんだろう。
不思議に思うアレクシアの前でユージーンが跪く。
「ご無事でよかった。この先の言葉はあなただけに捧げるものです。シグルド帝国が第二王子ユージーン・シグルドは、今俺の目の前にいるアレクシア嬢に婚姻を申し込みます」
目の前にいる、というもって回った言い回しをしたのは、今のアレクシアの立場が曖昧だからだろう。
王族の血筋、となるともしかしたら名を変えられる可能性もあった。
アレクシアは舞踏会からのことを思い返した。
浚われてからの数日間、衝撃の展開が多かったが答えは出ていた。
アレクシアは意を決して口を開く。
「……そういう言葉が欲しかった訳ではないですが。いや、いいです。行きましょう」
促されて移動すると、邸の吹き抜けの奥、玄関口と思われる大きな扉の前にいる男たちの中に見知った人物を見付ける。
アレクシアの視線を受けた人物――フォンデル公爵――が顔を上げた。
「無事だったか。アレクシア」
この場には他にも人がいたため、尊称を付けられなかったがその目には気遣うようなものが見えた。アレクシアの髪色が変わったのを見ても動じていないところをみるとやはり知っているのだろう。
恐らくユージーンにアレクシアの出生の秘密を教えたのはフォンデル公爵だと思われる。
「はい。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
アレクシアが殊勝気に答えるとフォンデル公爵は鷹揚に頷いた。
「よい。ひとまず体に支障はないようだな」
「はい」
頷き返すとそのまま馬車に乗せられ、移動させられる。
ちなみにここにフォンデル公爵やユージーンはいない。
彼らはこの事件の始末がいろいろとあるのだろう。
アレクシアが乗った馬車の周囲には今度は明らかに騎士団の所属と分かる騎士たちが馬を並べていて、堅固な体制が敷かれているのが分かった。
フォンデル公爵の邸まで三時間ほどかかってしまったところを見ると、あの邸はだいぶ王都の外れに建てられていたらしい。
フォンデル公爵邸に着くと侍従長に公爵からの伝言だと言われ、アレクシアはすぐに湯あみをさせられ、休むように言いつけられてしまった。
浚われた身なので騎士団による事情聴取等があると思われたのだが、どうやらその辺りは内々に済ませるつもりらしい。
はっきりと言われた訳ではなかったが、いつもの侍女に身支度を整えられ、無事を喜ばれた後、お嬢様は学園を病欠していたことになっております、と告げられたからだ。
やはり女性――しかも上位貴族の令嬢――が浚われるというのは外聞が悪いのだろう。
明日には医師の問診があると告げられ、軽い食事を摂り寝台に横たわったアレクシアはそれ以上のことを考える間もなく眠りに落ちた。
翌朝、身支度を整えて食堂へ向かうと朝食の席にはすでにフォンデル公爵がいた。
挨拶を済ませて席に着くアレクシアにフォンデル公爵が声を掛ける。
「体調はどうだ?」
「いまのところ異常ありませんわ」
そう答えるアレクシアだったがフォンデル公爵の顔色が優れないことが気になった。
今日医者が来るというのなら、フォンデル公爵も一緒に診察を受けた方がよいのでは、と提案しようとしたアレクシアだったが、フォンデル公爵の言葉の方が早かった。
「食事が済んだら青の間へ来なさい。少し話がある」
「わかりました」
昨日の件はもう片付いたのだろうか。
と思ったがすぐに心の内で否定した。
サンダルフォンとクラスター公爵の件は重罪である。
革命を企て、国政をひっくり返そうとしていたのだから。
クラスター公爵は爵位剥奪の上断罪は免れないだろうし、サンダルフォンは毒杯を賜ることになるだろう。
だがいきなりそんなことをすれば国政が乱れるのは目に見えている。
微妙な政治の均衡を保つ策を弄するには、一晩では足りなさすぎる。
青の間は客人を迎えるに値する内装がされた間である。
フォンデル公爵と共にアレクシアが青の間へ足を踏み入れると、やはり客人がいた。
「このような早朝から申し訳ありません。シグルド殿」
ユージーンも寝不足気味なのか、目の下に薄っすら隈があった。
「いえ、構いません。フォンデル公爵。こちらも話したいことがありましたので」
そこからはざっくりと説明された内容は、やはりクラスター公爵は北のゴブル辺境伯を隠れ蓑に革命を起こし、現王の血を引くアレクシアを傀儡の女王にしようとしていたらしい。
幸いにも舞踏会のユクトルの発言で王家側が手を打ちそうになったのを予想したクラスター公爵が急いでアレクシアの身の確保に動いたことで、フォンデル公爵が動く理由ができた。そのため、この機を逃さずクラスター公爵と表面上は手を組んでいたサンダルフォンも捕縛することができたということだった。
フォンデル公爵がやれやれと息を吐いた。
「これで膿は出せましたがこの後のことを考えると少々気が重いですね」
父であるフォンデル公爵が気安げに話し掛ける様子を驚いてアレクシアが見ていると、ユージーンも頷きながら答えた。
「そうですね。ほとんど名ばかりとはいえ、王族を裁くのですから。それにクラスター公爵を始めとした革命軍に関わっていた貴族のあぶり出しもありますし」
この数日間の内に何があったのだろうか。
和やかに会話を交わす二人に呆然とするアレクシアの間でさらに話が続けられる。
「貴族議会が荒れるのが目に浮かぶよ」
「心中お察しいたします。ですがやはりこれ以上は無理ですね」
「申し訳ないがこれ以上帝国の方におられるのは」
「分かっております。彼女の無事も確かめたので、これだけさせていただいたらお暇させていただきます」
なんだろう。
不思議に思うアレクシアの前でユージーンが跪く。
「ご無事でよかった。この先の言葉はあなただけに捧げるものです。シグルド帝国が第二王子ユージーン・シグルドは、今俺の目の前にいるアレクシア嬢に婚姻を申し込みます」
目の前にいる、というもって回った言い回しをしたのは、今のアレクシアの立場が曖昧だからだろう。
王族の血筋、となるともしかしたら名を変えられる可能性もあった。
アレクシアは舞踏会からのことを思い返した。
浚われてからの数日間、衝撃の展開が多かったが答えは出ていた。
アレクシアは意を決して口を開く。
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