死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第28話 救出

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 アレクシア side

 すっかり色の変わった髪を見つめるアレクシアに王弟サンダルフォンが気だるげに問い掛けた。

「おや? 姪御殿は聞いてなかったのか? 姪御殿が生まれた時は聖女殿が産後の肥立ちとやらがよくなくて、周囲の目がそちらへ向いている中、姪御殿への暗殺者が絶えなくてね。事態を憂いた兄上と宰相のクラスター公爵が一計を講じたという訳だ」

 生まれたときから肌身離さず付けておくように言われた物はなかったか、と問われたアレクシアはつい先ほど壊れてしまったペンダント型の魔道具を思い出す。

 ペンダントの件を話すと王弟サンダルフォンが頷いて口を開いた。

「それがその魔道具だね。体調維持のための魔道具? ああ、そういう理由にしたのか兄上は。多少は知恵が回るようだけど、どちらか一方の魔道具が壊れたらすぐに解除されるし、この国は残念ながらそれほど魔術に長けた者がいないせいか、その頃の帝国産の魔道具には欠点があったのに全然気づかず使用するとはね」

 それはどういうことか、と問い掛けたアレクシアの動きが止まる。

 まだ遠いが剣戟のような音が聞こえてきたのだ。

「面倒だな。こちらへ、姪御殿」

 王弟サンダルフォンの合図を受けた侍従が案内しようと身振りで続きの扉を促す。

 付いてなど行きたくないが今のアレクシアには、はい、と答えるしか選択肢がなかった。

 扉を抜けるとそこは家具などほとんどなく、まるで物置のような簡素な小部屋だった。

「こちらへ」

 侍従が壁の一カ所を探り、そこから出てきた取っ手を動かすと、目の前の壁に人ひとりが通れるほどの空間が現れた。

 冷たく湿った風が流れ込んでくることから、どこかへ繋がる脱出路らしい。

「さて行こうか。姪御殿。中は少々暗いらしいが、少しの辛抱だ」

 唇の端が上がった王弟サンダルフォンの顔を見たアレクシアはなぜか寒気を感じた。

 本当に自分はここから脱出できるのか?

 もしからしたらその過程で殺されるのでは、という思いがアレクシアを躊躇わせた。

 その間にも剣戟の音は近付いてきている。

「どうした? 姪御殿」

 穏やかな口調だがなぜかアレクシアの足は動かない。

 ――怖い。

 ただそれだけに尽きた。

 そんなアレクシアを見てなんと思ったのか、サンダルフォンは笑みを浮かべた。

「別に危害を加えようとか思ってはいないよ。姪御殿がいないと話にならないからね」

 何があってもユクトルとの婚約は継続して貰うからそのつもりで、と付け加えられた言葉を聞いたアレクシアは疑問を感じた。

 兄であるコントワーズ王を嫌っているはずなのにその息子であるユクトルは違うのかしら?

「不思議そうな顔をしているね。どうして俺が兄上の子であるユクトルを推しているのか。あちらに着いてからにしようと思ったが、教えてあげよう。なぜならユクトルは」

 その先の言葉は大きな破壊音に消され、アレクシアの耳には届かなかった。

 扉を打ち破って雪崩れ込んで来た男たちの中からユージーンが躍り出て来たのだ。

「無事か!?」

 なぜここにユージーンが!?

 髪色の変わったことなど眼中にないように問われ、反射的にアレクシアが頷く。だが、サンダルフォンの方が早くアレクシアの腕を捕らえた。

「帝国の第二王子か。申し訳ないが現在取り込み中でね」

 強い意思を込めた青い瞳がサンダルフォンを見据えた。

「彼女を返して貰いますよ。王弟サンダルフォン」

 その口調か呼び方のどちらかが気に障ったらしく、サンダルフォンが眉を顰めながら答えた。

「どうやら帝国の礼儀作法はこの国とは違うようだな。貴殿はあくまでも来客だ。内々のことなので」

 ――帝国の第二王子殿には関係ありませんよ。

 そう続けられた言葉にユージーンが剣を持ち直した。

「いや。関係はある。なぜなら俺は彼女に婚約を申し込み、許しを得ている」

 真摯な表情のユージーンにどこか余裕ありげにサンダルフォンが問い掛けた。

「おや? 姪御殿はユクトルと婚約していたはずだが。帝国ではいつから重婚を認めるようになったのかな?」

 サンダルフォンの言葉に剣呑な気配を醸し出したユージーンが、半拍置いてから歯を食いしばるように言葉を押し出した。

「……フォンデル公爵令嬢には以前から申し込んでいましたし、フォンデル公爵にも内密にですが了承済みです」

 時期を見て発表するつもりだった、と聞いたサンダルフォンがまだ国王陛下まで話が行っていないと思ったのか、唇の端を上げた。

「まだユクトルとの婚約破棄は成されていないので、そちらの案件は無効だね」

 舞踏会以降の情報がまったくないアレクシアには初めて聞くことだった。

 だがコントワーズ王はユクトルを王位継承者から外すと言っていなかっただろうか。

 そう言えばコントワーズ王はオリビアを『聖女の娘』と言い、オリビアを女王へと発言していなかったか。

 だがそれは王妃を気遣った嘘であり、本当に聖女の血を引くのは――

 そこまで考え、オリビアのところを自分に置き換えたアレクシアは、はっとした。

 まさかコントワーズ王は――

「元王太子殿下との婚約ですか? そんなものとっくに破棄されていますよ。情報が遅いですね」

 ああ、そう言えばこの件は身近な者にしか教えない、と言っていましたね。

 そう続けたユージーンが唇の端を上げた。

 先ほどの仕返しなのか、なかなか痛いところを突いた発言だった。

 サンダルフォンの顔が歪む。

「そんな報告は……」

「きていないでしょうね。あなたの間者は面が割れているでしょうし、今の国王陛下にとってあなたは学園時代の恋敵だったんですから」

 そうそう情報を渡すはずがないでしょうね。

 続けられた言葉より、アレクシアは『恋敵』という今の場にはあまり似つかわしくない単語の方が気になった。

 サンダルフォンが、はっと小馬鹿にしたように息を吐く。

「帝国の方にしてはずいぶんとこちらの事情に詳しいようだが、さすがにすべては知らないだろう」

 脱出口の扉の方へアレクシアを引っ張りながらサンダルフォンが余裕ありげに告げた。

 このままではユージーンと引き離されてしまう。

 つい目で追ったアレクシアと視線が合ったユージーンが力づけるように頷いた。

「すべて……ですか。もちろん存じていますよ。俺は彼女と婚姻する身ですから。例えば、今離宮に隔離されている元王太子が本当はあなたと王妃の子であることもね」

 ユージーンの言葉が終わると、一瞬、時が止まったように場が静まり返る。

 今、彼はなんと言った?

 もしそれが本当であれば兄である現王を嫌うサンダルフォンが、ユクトルとアレクシアの婚約を維持しようとするのも理解できる。

 アレクシアの両親は現王と聖女(故人)で、ユクトルの両親は王弟サンダルフォンと現王妃。

 少々ややこしいが、アレクシアとユクトルは従姉妹となるため、一応婚姻に支障はない。

 アレクシアの感情的にはお断りなのだが。

 サンダルフォンが悔し気にユージーンを見たが、その時にはすでにユージーンの剣がサンダルフォンに肉薄していた。

 剣を避けようとしたサンダルフォンに突き飛ばされたアレクシアはユージーンの傍らに控えていた騎士に保護される。

「この国の重鎮にはずいぶんとおしゃべりな者がいるな。後で忠告しなければならないから名を教えて貰いたいものだが」

 剣を紙一重で避けたサンダルフォンだが、次の瞬間には喉元にユージーンの剣が当てられていた。

 だが剣さばきを見ているとユージーンはどうやら手加減をしているようにも見える。

「そこまでです。忠告? そんな暇はないと思いますよ。あなたは反逆罪で処刑されるでしょうから」

「そんな簡単に行くはず――」

 まだ余裕があるのか、サンダルフォンが反駁しかけたとき新しい声がした。

「報告します!! 邸内の制圧完了しました!!」
 
 その声に傍らを見ると先ほど案内してきた侍従が捕縛されていた。

「これであなたの計画はすべてですか? ああ、ちなみにクラスター公爵が操ろうとしていた革命軍でしたっけ? 第一騎士団と第二騎士団が抑えたそうですよ。まあ、俺はまだ帝国の人間なので、後はさすがにこの国に任せますが」

 剣を収めたユージーンの前でサンダルフォンが膝をついた。

「……こんなにあっけなく」

 サンダルフォンの呟きにユージーンが答える。

「あっけなく、ですか。俺としてはずいぶんと時間がかかりましたが」

 それはどういう意味だろう、と考えかけたアレクシアの前へユージーンが立った。

「遅くなってしまいすみませんでした。これでもあちこちに手を回したのですがね」

 自嘲するように告げるユージーンにアレクシアは首を振った。

「助けていただいてありがとうございました。本当に助かりました。コントワーズ王国を代表して御礼申し上げます。また事情が事情のため、公式にできないことを先にお詫びさせていただきます」

 アレクシアとしてはユージーンが助けに来てくれたことは嬉しい。

 もし周囲に誰もいなければどうなっていたか分からないほどには。

 だが今のアレクシアは公爵令嬢どころではなく、王族である。

 公式には発表されていないが、この場でしっかりユージーンによって暴露されてしまっている。 

 うかつな言動はできなかった。

 それにケインの存在もある。

 アレクシアは今世でケインに会いたかった。





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