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第33話 平行線
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「それで話って何かな?」
放課後、資料準備室にアレクシアとユージーンは来ていた。
生徒とはいえ、男女二人きりにするわけにはいかないため、何を聞いても他言しない、と命じられたマッテオが半開きの扉の先の廊下で待機している。
アレクシアは軽く息を吸い込んだ。
きっと、いや絶対にユージーンには一度目の生の記憶がある。
「あの魔道具の副作用があのようなものとは思いませんでした」
アレクシアが生まれてからずっと付けさせられてきた魔道具の副作用――それは髪と瞳の色だけではなく、互いが周りから受ける感情の度合いまで交換する、というものだったのだ。
これだけでは分かり辛いかもしれないが、例えばとても好かれている人物と蛇蝎するかのように嫌われている人物がいるとする。この二人の髪と瞳の色を交換する際に『好かれている』感情と『嫌われている』感情まで交換してしまうのだ。
好感度の交換、と言った方が早いかもしれない。
「そうだね。まさかあんなことになるなんて思わなかったよ」
感慨深げに答えるユージーンにアレクシアはやはり、と確信した。
「あんなこと、とは一体どのようなことでしょうか?」
まだ気付かないのかユージーンが言葉を紡ぎかける。
「だからフォンデル公爵令嬢があんなに……あ、」
魔道具の副作用によりアレクシアとオリビアに向けられた感情が反転した差異が大きかったのは一度目の生のときである。
今生は流石に懲りたオリビアが模範的な生活を送っていたため、そこまで大きな感情の乱れはなかった。
ちなみにこれは魔力量が大きく魔力耐性のある者にはほとんど影響がないため、一度目の生での王族であるユクトルの態度はやはりそんなものだったのだろう。
理解はできるけれど納得はしたくないわね。
「ランドール男爵令嬢は成績も優秀であり、模範的な生徒として知られています。そのため例の魔道具の副作用はそれほど感じられなかったと思います。……前回の生を除けば」
少しの間視線を彷徨わせていたユージーンが観念したように口を開いた。
「そうだね。確かに俺には前の生の記憶があるよ。だけどそれだけで君に結婚を申し込んだ訳じゃない」
その先を制するようにアレクシアは告げる。
「でしたら話は早いですわね。ケイン様のことはどうされるおつもりですか?」
国力で言えば帝国の方が上であるので、敬称を付けて呼ぶアレクシアの前でユージーンは軽く目を瞠った。
「ケイン……。それで君はずっと断っていたのか」
まさかそう来るとは予想しなかった、とでも言いたげな口調にアレクシアは、ああ、と思う。
彼の中でケインの存在はそれほど重いものではなかったのか。
「ケインのことなら考えなくていい。あの王女と結婚するつもりはないからね」
なぜかユージーンはアレクシアの懸念を反対に捕らえているようだった。
「私が言いたいのはそういうことではありません」
どうして通じないのだろう。
アレクシアはケインに会いたかった。
自分と同じように周りに気を遣っていた幼子に出来る限りのことをしてやりたかった。
できれば親としての愛情も渡したかったが、それはアレクシアにはできない可能性が高い。
例えユージーンと結婚して子が生まれたとしても、ケインのことを思い返さないことはないだろう。
そう思うとユージーンの申し込みはやはり躊躇われる。
今、少しだけ心に余裕ができたアレクシアはそう考えるようになっていた。
それにユージーンに一度目の生の記憶があるというのなら、多分に同情が含まれているのだろう。
なんにせよ一度目のアレクシアの生は悲惨なものだったのだから。
「ではどういうことなのか、教えてくれないかな?」
その声音にはまるで駄々っ子を宥めるようなものが含まれているように聞こえ、アレクシアは強い反発を覚えた。
「私の今の立場を考えるとすぐに婚姻はできません。王太子であるユクトルも王弟サンダルフォン様もすでに王位継承者から外れているのですから」
現王は貴族議会でアレクシアの出自についてさんざん責め立てられている最中らしい。
まあ、あれほど『真実の愛』を掲げて王妃と婚姻したというのだから、その展開は仕方のないところがある。
そして現王のしでかしたことを知った王妃は一切の職務を放棄して離宮に籠ったという。
貴族議会ではそこも含め、クラスター公爵や北の辺境伯への処罰で紛糾しているらしい。
そのような状況でアレクシアがすぐに伴侶を決める訳には行かなかった。
というよりこれは血統に拘り過ぎた弊害のようなものなのよね。
こんがらかった現状を見たアレクシアは少し思うところがあった。
もうあの王冠はない方がいいいのではないかしら?
恐らく、王位継承者が多かった時代揉めに揉めた継承を何とかしたかったのだろうが、現在の事情に合っていない気がする。
その辺りも含めて改善したいところだが、ここで帝国の力を借りたくはなかった。
アレクシアはそれらの思いを封じてユージーンに向き直る。
「申し訳ありませんが、第二王子殿下の求婚を受けるわけにはまいりません」
放課後、資料準備室にアレクシアとユージーンは来ていた。
生徒とはいえ、男女二人きりにするわけにはいかないため、何を聞いても他言しない、と命じられたマッテオが半開きの扉の先の廊下で待機している。
アレクシアは軽く息を吸い込んだ。
きっと、いや絶対にユージーンには一度目の生の記憶がある。
「あの魔道具の副作用があのようなものとは思いませんでした」
アレクシアが生まれてからずっと付けさせられてきた魔道具の副作用――それは髪と瞳の色だけではなく、互いが周りから受ける感情の度合いまで交換する、というものだったのだ。
これだけでは分かり辛いかもしれないが、例えばとても好かれている人物と蛇蝎するかのように嫌われている人物がいるとする。この二人の髪と瞳の色を交換する際に『好かれている』感情と『嫌われている』感情まで交換してしまうのだ。
好感度の交換、と言った方が早いかもしれない。
「そうだね。まさかあんなことになるなんて思わなかったよ」
感慨深げに答えるユージーンにアレクシアはやはり、と確信した。
「あんなこと、とは一体どのようなことでしょうか?」
まだ気付かないのかユージーンが言葉を紡ぎかける。
「だからフォンデル公爵令嬢があんなに……あ、」
魔道具の副作用によりアレクシアとオリビアに向けられた感情が反転した差異が大きかったのは一度目の生のときである。
今生は流石に懲りたオリビアが模範的な生活を送っていたため、そこまで大きな感情の乱れはなかった。
ちなみにこれは魔力量が大きく魔力耐性のある者にはほとんど影響がないため、一度目の生での王族であるユクトルの態度はやはりそんなものだったのだろう。
理解はできるけれど納得はしたくないわね。
「ランドール男爵令嬢は成績も優秀であり、模範的な生徒として知られています。そのため例の魔道具の副作用はそれほど感じられなかったと思います。……前回の生を除けば」
少しの間視線を彷徨わせていたユージーンが観念したように口を開いた。
「そうだね。確かに俺には前の生の記憶があるよ。だけどそれだけで君に結婚を申し込んだ訳じゃない」
その先を制するようにアレクシアは告げる。
「でしたら話は早いですわね。ケイン様のことはどうされるおつもりですか?」
国力で言えば帝国の方が上であるので、敬称を付けて呼ぶアレクシアの前でユージーンは軽く目を瞠った。
「ケイン……。それで君はずっと断っていたのか」
まさかそう来るとは予想しなかった、とでも言いたげな口調にアレクシアは、ああ、と思う。
彼の中でケインの存在はそれほど重いものではなかったのか。
「ケインのことなら考えなくていい。あの王女と結婚するつもりはないからね」
なぜかユージーンはアレクシアの懸念を反対に捕らえているようだった。
「私が言いたいのはそういうことではありません」
どうして通じないのだろう。
アレクシアはケインに会いたかった。
自分と同じように周りに気を遣っていた幼子に出来る限りのことをしてやりたかった。
できれば親としての愛情も渡したかったが、それはアレクシアにはできない可能性が高い。
例えユージーンと結婚して子が生まれたとしても、ケインのことを思い返さないことはないだろう。
そう思うとユージーンの申し込みはやはり躊躇われる。
今、少しだけ心に余裕ができたアレクシアはそう考えるようになっていた。
それにユージーンに一度目の生の記憶があるというのなら、多分に同情が含まれているのだろう。
なんにせよ一度目のアレクシアの生は悲惨なものだったのだから。
「ではどういうことなのか、教えてくれないかな?」
その声音にはまるで駄々っ子を宥めるようなものが含まれているように聞こえ、アレクシアは強い反発を覚えた。
「私の今の立場を考えるとすぐに婚姻はできません。王太子であるユクトルも王弟サンダルフォン様もすでに王位継承者から外れているのですから」
現王は貴族議会でアレクシアの出自についてさんざん責め立てられている最中らしい。
まあ、あれほど『真実の愛』を掲げて王妃と婚姻したというのだから、その展開は仕方のないところがある。
そして現王のしでかしたことを知った王妃は一切の職務を放棄して離宮に籠ったという。
貴族議会ではそこも含め、クラスター公爵や北の辺境伯への処罰で紛糾しているらしい。
そのような状況でアレクシアがすぐに伴侶を決める訳には行かなかった。
というよりこれは血統に拘り過ぎた弊害のようなものなのよね。
こんがらかった現状を見たアレクシアは少し思うところがあった。
もうあの王冠はない方がいいいのではないかしら?
恐らく、王位継承者が多かった時代揉めに揉めた継承を何とかしたかったのだろうが、現在の事情に合っていない気がする。
その辺りも含めて改善したいところだが、ここで帝国の力を借りたくはなかった。
アレクシアはそれらの思いを封じてユージーンに向き直る。
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