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第34話 駆け引き (前)
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あれからクラスター公爵は降爵が決まり、公爵から伯爵まで下げることになった。北の辺境伯も男爵となり、領地は半減とされる。
傍から見れば軽い処分と思われるが、国内の勢力図を思うと一斉に政の表舞台から退場させるのは得策ではなかった。
国王は年内の退位を迫られていたが、ユクトルがあのようになったことと、王位継承者がアレクシア一人しかいないことを盾にとり、引き延ばしをしているようだが、王妃が離宮に籠りきりということもあり、旗色はよくない。
「革命に加担していた者達のほとんどの者は降爵、領地を削る、平民であれば未開拓の地へ送る、ということですが」
執務室でクラスター公爵――伯爵が、報告書を手にアレクシアの方を窺うように見た。
本来彼はこのようなところにいていい身分ではない。
他の者達と同じように蟄居していなければならないのだが、アレクシアが引き留めたのだ。
やり方はマズかったが、その政治能力には代えがたいものがあった。
あれから二週間が過ぎていた。
貴族議会にてアレクシアが王位継承者であることを告げると会場にどよめきが起こった。
反発する者、懐疑的な視線を送る者など様々だったが、国王が収め、クラスター伯爵も肯定すると場内は静かになる。
『ユクトルが王太子から外れたため、現在王位継承権第一位はアレクシアとする』
かなり強引な進め方だったが、同時に王冠の件も明かすとさらに場が賑やかになる。
それを押さえて何とかアレクシアを王女として立てたのはクラスター伯爵だった。
『皆様方、突然のことでさぞ驚かれたと思います。ですが、この王国の王を選ぶと言われる王冠が選んだのはアレクシア様ただお一人にございます。そのこと努々お忘れなきよう』
サンダルフォン様は、という声には国王が答えた。
『あ奴はすでに王位継承者から外れている』
有無を言わせない口調に何人かが開きかけた口を閉じる。
『ではこのコントワーズ王国の次期王――女王はこちらのアレクシア様ということでよろしいですね』
そのクラスの伯爵の言葉に反論する声は上がらなかった。
アレクシアは書類に目を通しながら、ここにはいない人物を思い浮かべた。
『分かりました』
抑揚のない口調で応じたユージーンに反駁しかけたアレクシアだったが、その先は言葉にならなかった。
いまさら何を、というのだろう。
ケインのこともあるが、改めて考えて見ると今のアレクシアの立場でユージーンの求婚を受ける訳には行かなかった。
国力は帝国の方が上である。
その帝国の第二王子が次期女王のアレクシアを娶る、ということはコントワーズ王国が帝国の属国になることも有り得るのだ。
通常でさえ、帝国の血が王家に入る、ということには細心の注意が必要であるのに、現在のコントワーズ王国はユクトルの件もあり、かなり格下に見られていることだろう。
加えてアレクシアは王族としての教育を受けていない。
もちろん、ユクトルの婚約者としてそれなりの教育は受けてきたし、公的文書の扱いも心得ている。
だが、それは国内での話であり、他の国から見たらアレクシアは隠された王女、つまりほとんど政の知識などまったくない小娘、としか見えないのである。
これから先がたいへんだわ。
現在アレクシアは王女として王城に住んでいるが、仕えてくれている侍女たちの態度もどこかぎこちない時があるのは気のせいではないだろう。
そしてユージーンは――
『君が認められてよかった』
アレクシアから見るとまだまだなのだが、そんなアレクシアの表情を見たユージーンが一度目の生でアレクシアが亡くなった後の話をしてくれた。
それによると、魔導具の使用者であるアレクシアが亡くなったことにより髪色と瞳、そして周囲から寄せられる感情が元に戻ったオリビアは王弟サンダルフォンに嫁し、正統な王位継承者を産む道具とされたらしい。
そのうちに周囲からの扱いも雑になり、五人目の子を産んだ時に産褥で亡くなったとのことだった。
オリビアから聞いていた話とはずいぶん違うわね。
コントワーズ王国はしばらくの間、革命軍を操っていたクラスター公爵が実権を握っていたが、王弟サンダルフォンの子の一人が王冠に選ばれるとその子を正式に王位継承者としたという。
『君は誰よりも王太子、いや国のために尽力してきた。なのに君が亡くなるとさっさと君の亡骸を埋葬し、なかったことにされたんだ。だからこうして君が王族の一員となっている姿をみられるのが俺としては嬉しいんだよ』
その笑みはとても柔らかで、アレクシアは引き込まれそうになったが、なんとか堪えた。
『さようですか』
冷静さを保とうとしたあまり、そっけない口調になったアレクシアにユージーンが寂し気に笑う。
『うん。だからこれ以上を望むのは欲が深いのかな、と思うよ』
その言葉にアレクシアが何も返せないまま、会話は終わり、ユージーンは帰国する手配を始めた。
学期の途中ということもあるが、帝国の第二王子がそう簡単に国を移動できるはずもなく、それでも二週間という短期間で帰国の支度が整い、ユージーンは明日にはこの国を立つことになっていた。
よくよく聞けばやはり一度目の生の記憶があったため、アレクシアを救えれば、とコントワーズ王国への留学を決めたということだった。
そんな無茶な。
国際情勢を考えれば今ユージーンの求婚を受ける訳には行かない。
そのことがこれほどもどかしいとは思わなかった。
「アレクシア様」
クラスター伯爵の声に顔を上げると目の前にクラスター伯爵がいた。
「何かしら?」
「お加減でもよろしくないのですかな? 先ほどから何度からお呼びしておりますが」
「いいえ。大丈夫よ。それで何があったの?」
少し間を置いたクラスター伯爵が手元の書類に目を落とした。
「このバルーサ地方を収めるコントン伯爵の訴状ですが――」
クラスター伯爵の言葉が終わらないうちに扉が乱暴に開かれた。
思わずそちらを見たアレクシア達の視界に飛び込んできたのは、四人の壮年の近衛兵だった。
彼らの近衛服はかなり古い意匠で王城内でもなかなか見かけない。それを見たのは――
アレクシアの中で一つの単語が出て来たとき、新たな人物が執務室へ入ってくる。
「少し邪魔させてもらうよ。姪御殿」
正統な王位継承者であるアレクシアを害そうとした、として現在は離宮へ軟禁中の王弟サンダルフォンが楽しげにアレクシアを見ていた。
傍から見れば軽い処分と思われるが、国内の勢力図を思うと一斉に政の表舞台から退場させるのは得策ではなかった。
国王は年内の退位を迫られていたが、ユクトルがあのようになったことと、王位継承者がアレクシア一人しかいないことを盾にとり、引き延ばしをしているようだが、王妃が離宮に籠りきりということもあり、旗色はよくない。
「革命に加担していた者達のほとんどの者は降爵、領地を削る、平民であれば未開拓の地へ送る、ということですが」
執務室でクラスター公爵――伯爵が、報告書を手にアレクシアの方を窺うように見た。
本来彼はこのようなところにいていい身分ではない。
他の者達と同じように蟄居していなければならないのだが、アレクシアが引き留めたのだ。
やり方はマズかったが、その政治能力には代えがたいものがあった。
あれから二週間が過ぎていた。
貴族議会にてアレクシアが王位継承者であることを告げると会場にどよめきが起こった。
反発する者、懐疑的な視線を送る者など様々だったが、国王が収め、クラスター伯爵も肯定すると場内は静かになる。
『ユクトルが王太子から外れたため、現在王位継承権第一位はアレクシアとする』
かなり強引な進め方だったが、同時に王冠の件も明かすとさらに場が賑やかになる。
それを押さえて何とかアレクシアを王女として立てたのはクラスター伯爵だった。
『皆様方、突然のことでさぞ驚かれたと思います。ですが、この王国の王を選ぶと言われる王冠が選んだのはアレクシア様ただお一人にございます。そのこと努々お忘れなきよう』
サンダルフォン様は、という声には国王が答えた。
『あ奴はすでに王位継承者から外れている』
有無を言わせない口調に何人かが開きかけた口を閉じる。
『ではこのコントワーズ王国の次期王――女王はこちらのアレクシア様ということでよろしいですね』
そのクラスの伯爵の言葉に反論する声は上がらなかった。
アレクシアは書類に目を通しながら、ここにはいない人物を思い浮かべた。
『分かりました』
抑揚のない口調で応じたユージーンに反駁しかけたアレクシアだったが、その先は言葉にならなかった。
いまさら何を、というのだろう。
ケインのこともあるが、改めて考えて見ると今のアレクシアの立場でユージーンの求婚を受ける訳には行かなかった。
国力は帝国の方が上である。
その帝国の第二王子が次期女王のアレクシアを娶る、ということはコントワーズ王国が帝国の属国になることも有り得るのだ。
通常でさえ、帝国の血が王家に入る、ということには細心の注意が必要であるのに、現在のコントワーズ王国はユクトルの件もあり、かなり格下に見られていることだろう。
加えてアレクシアは王族としての教育を受けていない。
もちろん、ユクトルの婚約者としてそれなりの教育は受けてきたし、公的文書の扱いも心得ている。
だが、それは国内での話であり、他の国から見たらアレクシアは隠された王女、つまりほとんど政の知識などまったくない小娘、としか見えないのである。
これから先がたいへんだわ。
現在アレクシアは王女として王城に住んでいるが、仕えてくれている侍女たちの態度もどこかぎこちない時があるのは気のせいではないだろう。
そしてユージーンは――
『君が認められてよかった』
アレクシアから見るとまだまだなのだが、そんなアレクシアの表情を見たユージーンが一度目の生でアレクシアが亡くなった後の話をしてくれた。
それによると、魔導具の使用者であるアレクシアが亡くなったことにより髪色と瞳、そして周囲から寄せられる感情が元に戻ったオリビアは王弟サンダルフォンに嫁し、正統な王位継承者を産む道具とされたらしい。
そのうちに周囲からの扱いも雑になり、五人目の子を産んだ時に産褥で亡くなったとのことだった。
オリビアから聞いていた話とはずいぶん違うわね。
コントワーズ王国はしばらくの間、革命軍を操っていたクラスター公爵が実権を握っていたが、王弟サンダルフォンの子の一人が王冠に選ばれるとその子を正式に王位継承者としたという。
『君は誰よりも王太子、いや国のために尽力してきた。なのに君が亡くなるとさっさと君の亡骸を埋葬し、なかったことにされたんだ。だからこうして君が王族の一員となっている姿をみられるのが俺としては嬉しいんだよ』
その笑みはとても柔らかで、アレクシアは引き込まれそうになったが、なんとか堪えた。
『さようですか』
冷静さを保とうとしたあまり、そっけない口調になったアレクシアにユージーンが寂し気に笑う。
『うん。だからこれ以上を望むのは欲が深いのかな、と思うよ』
その言葉にアレクシアが何も返せないまま、会話は終わり、ユージーンは帰国する手配を始めた。
学期の途中ということもあるが、帝国の第二王子がそう簡単に国を移動できるはずもなく、それでも二週間という短期間で帰国の支度が整い、ユージーンは明日にはこの国を立つことになっていた。
よくよく聞けばやはり一度目の生の記憶があったため、アレクシアを救えれば、とコントワーズ王国への留学を決めたということだった。
そんな無茶な。
国際情勢を考えれば今ユージーンの求婚を受ける訳には行かない。
そのことがこれほどもどかしいとは思わなかった。
「アレクシア様」
クラスター伯爵の声に顔を上げると目の前にクラスター伯爵がいた。
「何かしら?」
「お加減でもよろしくないのですかな? 先ほどから何度からお呼びしておりますが」
「いいえ。大丈夫よ。それで何があったの?」
少し間を置いたクラスター伯爵が手元の書類に目を落とした。
「このバルーサ地方を収めるコントン伯爵の訴状ですが――」
クラスター伯爵の言葉が終わらないうちに扉が乱暴に開かれた。
思わずそちらを見たアレクシア達の視界に飛び込んできたのは、四人の壮年の近衛兵だった。
彼らの近衛服はかなり古い意匠で王城内でもなかなか見かけない。それを見たのは――
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