死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

文字の大きさ
38 / 42

第36話 ――三年後――

しおりを挟む
 コントワーズ王国は順調に発展を遂げていた。

 二年前に起きた大雨による小麦の不作も、またそれによる河川の氾濫も女王の的確な処置により、他国より被害が少ない。加えて収穫物の管理や街道の通行税の緩和等、次々と改革を成した女王は国内で人気が高い。

 そのせいか、謁見の間ではこのような言葉が常套句になりつつあった。

「王国始まって以来の賢王と呼ばれる陛下にご拝謁いただき誠に光栄にございます」

 隣国モントスの使者が口上を述べるとアレクシアは軽く頷いた。

 しばらくはここ最近の関税などの話をした後、おもむろに使者が切り出す。

「それにしてもここまで政に明るい女王の王配となると国内の者では勤め上げられないのではないでしょうか」

 使者の言葉に謁見の間に居た者達がどよめいた。

 現在アレクシアには王配も婚約者もいない。

 それは一度目の生でコントワーズ王国に何が起こるか知っていたため、その政策に追われたことと、ユージーンとのことがあり、周囲が進めてもアレクシアは首を縦に振らなかった。

 それにもうすぐアレクシアは二十一歳になる。
 
 革命軍の手にかかり、命を落とした一度目の生の年に。

 ユクトルとの婚約は破棄できたし、以前より毅然とする態度で臨むようになったためか、睡眠不足になるまでのスケジュールになることはなかった。

 まあ、だいたいのことは頭の中に入っていたけれど。

 ユクトルはあれから王族としての籍を抜かれ、北の辺境近くの塔へ幽閉された。

 そしてユージーンは帝国で一度目の生と同じく外交などで活躍しているようだが、いまだ独身を通していると聞く。

 まさかケインが生まれてこないなんて。

 さすがにショックだったが、死に戻って行き直すというのはこういうことなのか、と無理やり気持ちに折り合いをけ、何とかここまできた。

 そんなことを考えているとクラスター伯爵がさらりと述べた。

「そのようなことまでご心配頂き誠に恐縮ではございますが、王配の件に関しましてはなんの心配もありません」

「誠にございますか」

「ええ、もちろん」

 そんなに簡単に安請け合いしていいのだろうか。

 アレクシアはまだ王配を決めるつもりはなかった。

 もう少し国力を安定させてから、と思っていたのだがどうやら周囲の意見は違うようで、次にこの使者が来るときには王配を紹介する、ということにまで話が進み、アレクシアは内心の焦りを隠しながら何とか使者との謁見を終えた。
 


 全ての謁見を終え、控えの間で仰々しい装飾品を外した後、少しだけ抑えた意匠の服装に着替える。

 執務室へ入ったアレクシアにクラスター伯爵が声を掛けた。

「モントスの使者にも困ったものですな」

「それをあなたが言いますか」

 止めるどころかどんどん話を進めたクラスター伯爵にアレクシアが苦言を呈すると臆することなくクラスター伯爵が答えた。

「何を仰いますか。これまで何度も縁談を勧めたのに全て却下された方が」

 そろそろお相手を決めて貰わないと困ります。

 そう続けられアレクシアは口を閉じるしかなかった。

 これまでの山のようにくる縁談のほとんどをクラスター伯爵が理由を付けては断ってくれていたのを知っていた。

「そう言えば帝国の第二王子殿下がついに決められたそうですよ」

「……そうですか」

 アレクシアは執務机から一枚の書類を取り上げ目を通す。

「「……」」

 書類に目を通し終わったアレクシアが署名をして御璽を押し、処理済みの書類を置く方の書類入れへ落としたがずれてしまった。

 書類を置き直すアレクシアにクラスター伯爵が静かに視線を向ける。

「これは独り言なのですが。陛下は先見の明もお持ちで政策も堅実なものが多いですが、少しだけ物事を難しく考えられる性質のようですね」

 暗にユージーンとのことを示された、と思ったアレクシアがとっさに言い返す。

「それでしたらクラスター伯爵も負けておりませんわね。王位継承者が一人しかいないことをフォンデル公爵にも黙っておりましたものね」

 ユクトルの両親が、王弟サンダルフォンと先の王妃だということをフォンデル公爵は知らなかった。
 
 そのため、ユクトルとアレクシアの父親が一緒だと思い込んでいたフォンデル公爵は、当初二人の婚約に難色を示し、子供を持たずともよい、という条件を捻じ込んだのである。

 だからユージーン(当時、正統な王位継承者だとフォンデル公爵は思っていた)が、オリビア以外(勿論、自分の実娘はかわいいので)の側妃を持てばいい、と思っていたようだった。

 恐らく、革命が上手く行っていたならフォンデル公爵はこれらの情報を開示されて引き入れられるか、あるいは危険分子として処分されるかの二択だっただろう。

「人材不足でよかったですね」

 こちらも暗に条件が揃えばクラスター伯爵をいつでも処分できたのだ、という意味を含めて告げたところで言い過ぎた、と思った。

 一度目の生での革命の中、フォンデル公爵は命を落としたらしいが、そこにクラスター伯爵が関与していたかは分からない。
 
 ただ、コントワーズ王家のことをクラスター伯爵が真剣に考えているのだけは間違いないだろう。

 例えその結果が強引なものだったとしても。

 言い過ぎた、とアレクシアが口を閉じたタイミングでクラスター伯爵が話題を変えた。動揺もあったかもしれない。そのクラスター伯爵の提案に頷いてしまうくらいには。

「ところで来月に剣術の大会が開かれますが、もちろん陛下も列席致されますよね?」

「ええ」
 
 大会は建国の頃から行われていたもので、当初はコントワーズ王国の者でなければ参加できないようになっていたが、近年は王国以外の者でも参加できるようになっていた。

 規模もそれなりにあり、大会の上位者はその実力によって騎士団に勧誘されることもあるという。

 おもむろにクラスター伯爵が口を開く。

「いかがでしょう? その大会の優勝者に王配候補となっていただくのは」

 ――は?

 思いもがけない提案に呆気に取られるアレクシアに畳みかけるようにクラスター伯爵が続けた。

「もちろん王配と言ってもそれなりに知識が必要ですから、優勝者が平民であるなら教師を付けて学ばせることもできます」

 現在上位貴族でアレクシアに見合う年齢の者はほとんどが婚姻していたり、婚約者がいる。

 それを見越しての発言だろが、アレクシアに婚姻の意思はなかった。

 王冠に選ばれたものしか王位に就けないというこの国の成り方に思うところがあったのだ。
 
 もう少し国政を安定させてからと思っていたが。

「ですが――」

 反論しようとしたアレクシアにクラスター伯爵が続けた。

「候補でよいのです。陛下が女王となられてからの縁談の数を思い返して下さい」

 国内の上位貴族は確かに埋まっているが、それ以外の伯爵以下の令息達からの縁談や、他国の王族や貴族からの縁談が引きも切らない勢いだったのだ。

 もちろん片っ端から断りを入れていたが、それでも他の仕事を圧迫する時もあった。

「取り敢えず候補でもよろしいので、定まった方がいらっしゃれば少しは収まるかと」

 しぶしぶだが頷くしかないアレクシアだった。

 


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...