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第36話 ――三年後――
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コントワーズ王国は順調に発展を遂げていた。
二年前に起きた大雨による小麦の不作も、またそれによる河川の氾濫も女王の的確な処置により、他国より被害が少ない。加えて収穫物の管理や街道の通行税の緩和等、次々と改革を成した女王は国内で人気が高い。
そのせいか、謁見の間ではこのような言葉が常套句になりつつあった。
「王国始まって以来の賢王と呼ばれる陛下にご拝謁いただき誠に光栄にございます」
隣国モントスの使者が口上を述べるとアレクシアは軽く頷いた。
しばらくはここ最近の関税などの話をした後、おもむろに使者が切り出す。
「それにしてもここまで政に明るい女王の王配となると国内の者では勤め上げられないのではないでしょうか」
使者の言葉に謁見の間に居た者達がどよめいた。
現在アレクシアには王配も婚約者もいない。
それは一度目の生でコントワーズ王国に何が起こるか知っていたため、その政策に追われたことと、ユージーンとのことがあり、周囲が進めてもアレクシアは首を縦に振らなかった。
それにもうすぐアレクシアは二十一歳になる。
革命軍の手にかかり、命を落とした一度目の生の年に。
ユクトルとの婚約は破棄できたし、以前より毅然とする態度で臨むようになったためか、睡眠不足になるまでのスケジュールになることはなかった。
まあ、だいたいのことは頭の中に入っていたけれど。
ユクトルはあれから王族としての籍を抜かれ、北の辺境近くの塔へ幽閉された。
そしてユージーンは帝国で一度目の生と同じく外交などで活躍しているようだが、いまだ独身を通していると聞く。
まさかケインが生まれてこないなんて。
さすがにショックだったが、死に戻って行き直すというのはこういうことなのか、と無理やり気持ちに折り合いをけ、何とかここまできた。
そんなことを考えているとクラスター伯爵がさらりと述べた。
「そのようなことまでご心配頂き誠に恐縮ではございますが、王配の件に関しましてはなんの心配もありません」
「誠にございますか」
「ええ、もちろん」
そんなに簡単に安請け合いしていいのだろうか。
アレクシアはまだ王配を決めるつもりはなかった。
もう少し国力を安定させてから、と思っていたのだがどうやら周囲の意見は違うようで、次にこの使者が来るときには王配を紹介する、ということにまで話が進み、アレクシアは内心の焦りを隠しながら何とか使者との謁見を終えた。
全ての謁見を終え、控えの間で仰々しい装飾品を外した後、少しだけ抑えた意匠の服装に着替える。
執務室へ入ったアレクシアにクラスター伯爵が声を掛けた。
「モントスの使者にも困ったものですな」
「それをあなたが言いますか」
止めるどころかどんどん話を進めたクラスター伯爵にアレクシアが苦言を呈すると臆することなくクラスター伯爵が答えた。
「何を仰いますか。これまで何度も縁談を勧めたのに全て却下された方が」
そろそろお相手を決めて貰わないと困ります。
そう続けられアレクシアは口を閉じるしかなかった。
これまでの山のようにくる縁談のほとんどをクラスター伯爵が理由を付けては断ってくれていたのを知っていた。
「そう言えば帝国の第二王子殿下がついに決められたそうですよ」
「……そうですか」
アレクシアは執務机から一枚の書類を取り上げ目を通す。
「「……」」
書類に目を通し終わったアレクシアが署名をして御璽を押し、処理済みの書類を置く方の書類入れへ落としたがずれてしまった。
書類を置き直すアレクシアにクラスター伯爵が静かに視線を向ける。
「これは独り言なのですが。陛下は先見の明もお持ちで政策も堅実なものが多いですが、少しだけ物事を難しく考えられる性質のようですね」
暗にユージーンとのことを示された、と思ったアレクシアがとっさに言い返す。
「それでしたらクラスター伯爵も負けておりませんわね。王位継承者が一人しかいないことをフォンデル公爵にも黙っておりましたものね」
ユクトルの両親が、王弟サンダルフォンと先の王妃だということをフォンデル公爵は知らなかった。
そのため、ユクトルとアレクシアの父親が一緒だと思い込んでいたフォンデル公爵は、当初二人の婚約に難色を示し、子供を持たずともよい、という条件を捻じ込んだのである。
だからユージーン(当時、正統な王位継承者だとフォンデル公爵は思っていた)が、オリビア以外(勿論、自分の実娘はかわいいので)の側妃を持てばいい、と思っていたようだった。
恐らく、革命が上手く行っていたならフォンデル公爵はこれらの情報を開示されて引き入れられるか、あるいは危険分子として処分されるかの二択だっただろう。
「人材不足でよかったですね」
こちらも暗に条件が揃えばクラスター伯爵をいつでも処分できたのだ、という意味を含めて告げたところで言い過ぎた、と思った。
一度目の生での革命の中、フォンデル公爵は命を落としたらしいが、そこにクラスター伯爵が関与していたかは分からない。
ただ、コントワーズ王家のことをクラスター伯爵が真剣に考えているのだけは間違いないだろう。
例えその結果が強引なものだったとしても。
言い過ぎた、とアレクシアが口を閉じたタイミングでクラスター伯爵が話題を変えた。動揺もあったかもしれない。そのクラスター伯爵の提案に頷いてしまうくらいには。
「ところで来月に剣術の大会が開かれますが、もちろん陛下も列席致されますよね?」
「ええ」
大会は建国の頃から行われていたもので、当初はコントワーズ王国の者でなければ参加できないようになっていたが、近年は王国以外の者でも参加できるようになっていた。
規模もそれなりにあり、大会の上位者はその実力によって騎士団に勧誘されることもあるという。
おもむろにクラスター伯爵が口を開く。
「いかがでしょう? その大会の優勝者に王配候補となっていただくのは」
――は?
思いもがけない提案に呆気に取られるアレクシアに畳みかけるようにクラスター伯爵が続けた。
「もちろん王配と言ってもそれなりに知識が必要ですから、優勝者が平民であるなら教師を付けて学ばせることもできます」
現在上位貴族でアレクシアに見合う年齢の者はほとんどが婚姻していたり、婚約者がいる。
それを見越しての発言だろが、アレクシアに婚姻の意思はなかった。
王冠に選ばれたものしか王位に就けないというこの国の成り方に思うところがあったのだ。
もう少し国政を安定させてからと思っていたが。
「ですが――」
反論しようとしたアレクシアにクラスター伯爵が続けた。
「候補でよいのです。陛下が女王となられてからの縁談の数を思い返して下さい」
国内の上位貴族は確かに埋まっているが、それ以外の伯爵以下の令息達からの縁談や、他国の王族や貴族からの縁談が引きも切らない勢いだったのだ。
もちろん片っ端から断りを入れていたが、それでも他の仕事を圧迫する時もあった。
「取り敢えず候補でもよろしいので、定まった方がいらっしゃれば少しは収まるかと」
しぶしぶだが頷くしかないアレクシアだった。
二年前に起きた大雨による小麦の不作も、またそれによる河川の氾濫も女王の的確な処置により、他国より被害が少ない。加えて収穫物の管理や街道の通行税の緩和等、次々と改革を成した女王は国内で人気が高い。
そのせいか、謁見の間ではこのような言葉が常套句になりつつあった。
「王国始まって以来の賢王と呼ばれる陛下にご拝謁いただき誠に光栄にございます」
隣国モントスの使者が口上を述べるとアレクシアは軽く頷いた。
しばらくはここ最近の関税などの話をした後、おもむろに使者が切り出す。
「それにしてもここまで政に明るい女王の王配となると国内の者では勤め上げられないのではないでしょうか」
使者の言葉に謁見の間に居た者達がどよめいた。
現在アレクシアには王配も婚約者もいない。
それは一度目の生でコントワーズ王国に何が起こるか知っていたため、その政策に追われたことと、ユージーンとのことがあり、周囲が進めてもアレクシアは首を縦に振らなかった。
それにもうすぐアレクシアは二十一歳になる。
革命軍の手にかかり、命を落とした一度目の生の年に。
ユクトルとの婚約は破棄できたし、以前より毅然とする態度で臨むようになったためか、睡眠不足になるまでのスケジュールになることはなかった。
まあ、だいたいのことは頭の中に入っていたけれど。
ユクトルはあれから王族としての籍を抜かれ、北の辺境近くの塔へ幽閉された。
そしてユージーンは帝国で一度目の生と同じく外交などで活躍しているようだが、いまだ独身を通していると聞く。
まさかケインが生まれてこないなんて。
さすがにショックだったが、死に戻って行き直すというのはこういうことなのか、と無理やり気持ちに折り合いをけ、何とかここまできた。
そんなことを考えているとクラスター伯爵がさらりと述べた。
「そのようなことまでご心配頂き誠に恐縮ではございますが、王配の件に関しましてはなんの心配もありません」
「誠にございますか」
「ええ、もちろん」
そんなに簡単に安請け合いしていいのだろうか。
アレクシアはまだ王配を決めるつもりはなかった。
もう少し国力を安定させてから、と思っていたのだがどうやら周囲の意見は違うようで、次にこの使者が来るときには王配を紹介する、ということにまで話が進み、アレクシアは内心の焦りを隠しながら何とか使者との謁見を終えた。
全ての謁見を終え、控えの間で仰々しい装飾品を外した後、少しだけ抑えた意匠の服装に着替える。
執務室へ入ったアレクシアにクラスター伯爵が声を掛けた。
「モントスの使者にも困ったものですな」
「それをあなたが言いますか」
止めるどころかどんどん話を進めたクラスター伯爵にアレクシアが苦言を呈すると臆することなくクラスター伯爵が答えた。
「何を仰いますか。これまで何度も縁談を勧めたのに全て却下された方が」
そろそろお相手を決めて貰わないと困ります。
そう続けられアレクシアは口を閉じるしかなかった。
これまでの山のようにくる縁談のほとんどをクラスター伯爵が理由を付けては断ってくれていたのを知っていた。
「そう言えば帝国の第二王子殿下がついに決められたそうですよ」
「……そうですか」
アレクシアは執務机から一枚の書類を取り上げ目を通す。
「「……」」
書類に目を通し終わったアレクシアが署名をして御璽を押し、処理済みの書類を置く方の書類入れへ落としたがずれてしまった。
書類を置き直すアレクシアにクラスター伯爵が静かに視線を向ける。
「これは独り言なのですが。陛下は先見の明もお持ちで政策も堅実なものが多いですが、少しだけ物事を難しく考えられる性質のようですね」
暗にユージーンとのことを示された、と思ったアレクシアがとっさに言い返す。
「それでしたらクラスター伯爵も負けておりませんわね。王位継承者が一人しかいないことをフォンデル公爵にも黙っておりましたものね」
ユクトルの両親が、王弟サンダルフォンと先の王妃だということをフォンデル公爵は知らなかった。
そのため、ユクトルとアレクシアの父親が一緒だと思い込んでいたフォンデル公爵は、当初二人の婚約に難色を示し、子供を持たずともよい、という条件を捻じ込んだのである。
だからユージーン(当時、正統な王位継承者だとフォンデル公爵は思っていた)が、オリビア以外(勿論、自分の実娘はかわいいので)の側妃を持てばいい、と思っていたようだった。
恐らく、革命が上手く行っていたならフォンデル公爵はこれらの情報を開示されて引き入れられるか、あるいは危険分子として処分されるかの二択だっただろう。
「人材不足でよかったですね」
こちらも暗に条件が揃えばクラスター伯爵をいつでも処分できたのだ、という意味を含めて告げたところで言い過ぎた、と思った。
一度目の生での革命の中、フォンデル公爵は命を落としたらしいが、そこにクラスター伯爵が関与していたかは分からない。
ただ、コントワーズ王家のことをクラスター伯爵が真剣に考えているのだけは間違いないだろう。
例えその結果が強引なものだったとしても。
言い過ぎた、とアレクシアが口を閉じたタイミングでクラスター伯爵が話題を変えた。動揺もあったかもしれない。そのクラスター伯爵の提案に頷いてしまうくらいには。
「ところで来月に剣術の大会が開かれますが、もちろん陛下も列席致されますよね?」
「ええ」
大会は建国の頃から行われていたもので、当初はコントワーズ王国の者でなければ参加できないようになっていたが、近年は王国以外の者でも参加できるようになっていた。
規模もそれなりにあり、大会の上位者はその実力によって騎士団に勧誘されることもあるという。
おもむろにクラスター伯爵が口を開く。
「いかがでしょう? その大会の優勝者に王配候補となっていただくのは」
――は?
思いもがけない提案に呆気に取られるアレクシアに畳みかけるようにクラスター伯爵が続けた。
「もちろん王配と言ってもそれなりに知識が必要ですから、優勝者が平民であるなら教師を付けて学ばせることもできます」
現在上位貴族でアレクシアに見合う年齢の者はほとんどが婚姻していたり、婚約者がいる。
それを見越しての発言だろが、アレクシアに婚姻の意思はなかった。
王冠に選ばれたものしか王位に就けないというこの国の成り方に思うところがあったのだ。
もう少し国政を安定させてからと思っていたが。
「ですが――」
反論しようとしたアレクシアにクラスター伯爵が続けた。
「候補でよいのです。陛下が女王となられてからの縁談の数を思い返して下さい」
国内の上位貴族は確かに埋まっているが、それ以外の伯爵以下の令息達からの縁談や、他国の王族や貴族からの縁談が引きも切らない勢いだったのだ。
もちろん片っ端から断りを入れていたが、それでも他の仕事を圧迫する時もあった。
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