死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第38話 剣術大会 ②

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「構え!!」

 合図に従い、二人が剣を構えた。

 場内が静まり返ったところで審判が宣言する。

「始め!!」

 先に動いたのはタナ―だった。

 力強く洗練された動きで上段から剣を振り下ろすタナ―に対し、セインが肩を反らして躱し、そのまま流れるような動きでタナ―の後ろを取った。

 あまりの早業に観客席からも戸惑ったようなざわめきが広がる。

 その間にもセインの動きは止まらない。

 対処しようとしたタナ―が体勢を整える前にセインの剣がタナ―の喉元すれすれのところを押さえていた。

「……まいった」

 タナ―の声に副審たちが次々とセインの色である赤色の旗を上げる。

「一本目はセインの勝ちとする!! ――両者、構え!!」

 前述したとおり、三本勝負なので次にセインが勝てばそこで勝敗は決まってしまう。

 今回の大会に限り、優勝者をアレクシアの王配候補とするということは大会直前にだが、告知されていた。

 直前にしたのは必要のない混乱を避けるためだったが、それでも参加者たちのやる気が倍増したのは言うまでもない。

「おいおい。まさか平民が王配になっちゃまうのかよ」

「まさか。相手は第一騎士団の団長だぜ。ここから巻き返すんだろ」

「そうだよな。いくらなんでも平民が王配だなんて聞いたことないしな」

 観客席のあちらこちらでは似たような会話がなされていた。

 そして貴族達のいる貴賓席からも――

「まさかあのような者が王配になるかも、とは」

「いやまだ決まったわけではありません。タナ―伯爵家は代々剣術の達人を生み出してきた家系ですよ」

「だが、現実に一本取られているではないか」

 アレクシアはそんな会話を聞くともなく聞きながら違和感の正体を探ろうとしていた。

 あの流れるような動きはよほど剣術に精通していないとできないものに見える。
 
「始め!!」

 審判の声がアレクシアの思考を打ち消した。

 今度はセインの方が早かった。

 剣を低く構えてタナ―の懐に入り込む。

「え……?」

 その声を上げたのは誰だったか。

 それほど強く突いたようには見えなかったが、その直後タナ―が腹部を押さえて膝をついた。

「なんだ? 何がどうなってるんだ?」

「いや見ろよ。剣の柄がお貴族様の方へ向かってるぜ」

「ってことは何か、今の一瞬でお貴族様の腹に剣の柄で一発入れた、ってわけか」

 そんな馬鹿な、という困惑のざわめきが観客席を支配する。

 腹部を押さえたタナ―をセインは攻撃しなかった。

「……余裕だな。勝負に情けは無用だと教わらなかったのか」

 タナ―の言葉にセインは静かに応じる。

「必要ない」

「何だ、と……?」

 反駁して立ち上がろうとしたタナ―が膝から崩れ落ちた。

 観客たちがざわめくなか、副審たちが次々と赤色の旗を上げる。

「――一本!! 勝者セイン!!」

 審判の判定が宣言されるとほとんど同時に歓声と怒号が入り乱れる。

「嘘だろ!!」

「まさか本当に平民が王配になっちゃまうのかよ!!」

「すげぇ!! まさに下剋上ってやつか!?」

 平民たちの間からは比較的好意的な内容のものが多かったが、貴族たちの方は違った。

「……これは由々しき事態ですな」

「しかり」

「貴族議会を開くのも辞しませんぞ」

 保守的な貴族の間にはすでにそんな話まで持ち上がっている。

 そんななか、渦中のセインは剣を収めると軽く一礼をして顔を上げた。

 アレクシアのいる貴賓席の方へ向けて。

 ――え?

 強い意思の籠った眼差しに既視感を覚えたアレクシアだが、思い浮かぶのは銀髪と青い瞳の持ち主である。

 違うわよね……。

 もやもやした思いを抱えているとセインが口を開いた。

「この大会で優勝した者はあなたの伴侶になれると聞きました。ですが、それだけでは嫌です」

 セインの発言に怒号が沸き上がった。

「おいおい。女王陛下を嫁さんにして何が不満なんだ?」

「やっぱり金か? 名誉か?」

「そんな奴に俺たちの国任せられるかってんだよ!!」

 それに対しセインは落ち着き払った仕草で手を軽く振り、そのどこか有無を言わせない、平民たちにとっては上位の者が自分たちを見る視線、貴族たちにとっては下位の者を従わせる際にする仕草に注目が集まり、一瞬静けさが訪れる。

 その隙にセインが続けた。

「愛しています。アレクシア。俺はあなたがこうして生きているだけで構いません。ですから、今は無理でもいつかは俺のことを思ってくれませんか?」

 思いもかけない告白に場内が今度は先ほどとはまったく違った意味でどよめいた。

 その内容にアレクシアはもしや、と思った。

 まさか、そんな――

 告白の内容は普通に聞けばまっすぐな愛の告白だが、生きているだけで構わない、とはまるでアレクシアが一度目の生を経験していることを知っているかのようだった。

 再びアレクシアの脳裏にある名前が浮かぶが、どうしても目の前の人物とは合致しない。

 観客たちが沸き立つなか、一人の男が舞台へ駆けあがった。

「この試合はイカサマだ!!」

 セインを指さして叫んだのは、先ほど準決勝で敗れたヤードだった。

 思わぬ展開に場内が静まり返る。

 ヤードがつかつかとセインへ歩み寄り、その腕を取った。

「こいつは魔道具を使用しています!!」

 身体強化のものに違いない!! と喚くヤードに会場がざわつく。

 剣術大会において身体強化のような効果のある魔道具を使用することはもちろん禁じられている。

 だが、観客にひどい傷跡を見せたくない等、滅多に前例はないが試合に影響しない範囲での魔道具の使用は認められていた。

「事前に申し出て許可は得ているが」 
 
 それがどうした、とでもいうふうにセインが返すとヤードが喚きたてた。

「だったらその魔道具はどういった理由で申請したんだ!? やましいことでもあるんだろう!!」

 内容は完全に言いがかりだったが、相手が平民ということもあってか、ヤードの勢いは止まらない。

「だいたい貴様がこの俺に勝てたのもおかしいんだ!! この平民ごときが!!」

 さすがにこの暴言には観客席たちの方からムッとしたような空気が流れる。

「何だよあいつ」

「さすがお貴族様は言うことが違うぜ」

「やっぱお貴族様ってそういうもんだよな」

 だんだんと場内が不穏な雰囲気に包まれかけたとき、セインが口を開いた。

「その発言は聞き捨てならないな」





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