ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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22.

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 バチーーーンッ!!

「…………ごめん、本当に」

 すっ…げぇ痛ぇ。覚悟していた以上の力で左の頬を張り倒されて俺は呻くような声で謝罪した。口の中に血の味が広がる。蘭は顔中をびしょびしょにして泣きながら、俺を恨みのこもった目で睨みつけている。放課後の教室。誰もいなくなるまで待ってから、俺は蘭に別れを告げた。

「……にんげんの、クズだよ、いっくんって」
「…………。」
「……い、一生、一緒にいるって……。……絶対結婚するって、言った、から……、処女もあげたのに……」
「…………。」
「だ、大好き、だから、……信じたのに……っ」

 蘭のことを何とも思っていなかった俺だけど、この全身全霊の恨み言は、さすがに俺の心にダメージを喰らわせた。自分がいかにクズかを思い知らされる。俺は全てを受け入れるつもりだった。

「…………本当に、ごめん」
「……したい、だけ、だったの……?……さ、最初、から……」
「…………。」
「エッチしたいから、……嘘ついたの?……けっこん、とか言って、おきながらっ……、こんなに、……っ、…こんなに、早く、別れようって……。まるで、ただ……、……ヤりたかっただけじゃん。そうなんでしょ?!」
「……………………うん」
「…………っ?!……はぁぁ?!」
「本当に、ご…」

 ゴンッ!!

「……っ!!」

 俯いていた俺の頭上にすごい衝撃がきた。……何かで殴られたらしい。冗談じゃなく、目の前に火花が飛び散った。見たら蘭は鬼の形相で自分のカバンを高々と持ち上げている。もう一発来そうだ。俺は覚悟して歯を食いしばった。

 ドゴッ!!

「……………………っ」

 …同じ箇所に、2回はキツい。全力で叩きつけてきたんだろう、頭が割れたんじゃないかと思うほどの痛みだ。だが、何をされても文句を言える立場じゃないことはよく分かっている。それだけの扱いをしたのは俺だ。蘭の気が済むまでいくらでも殴られる覚悟だった。
 だけど、蘭はそのまま踵を返して教室から出て行こうとした。ドアのところで立ち止まり、ぐしゃぐしゃの顔で俺を振り返り、睨みつけて言った。

「あんたって、本当に最っ低のクズ野郎だからね!絶対に一生許さない!……いつか、絶対、同じ目に遭うから!いつか……、いつか本当に大切な人ができたときに、同じようにその人から捨てられる。絶対に」
「…………っ、」
「覚えてろよ!ゴミクズ野郎!!」

 それだけ言い捨てると、蘭は教室を出て行った。

「………………。」

 俺はその場にがっくりと崩れ落ちた。最後の蘭の言葉は、俺の心を深く抉った。
 …そうだよな。俺は体目当てで適当な気持ちで付き合っただけだけど、蘭は真剣だったんだ。本気で俺を好きになってくれて、俺を信じて、俺に全てを捧げてくれたんだ。…恨まれて当然だ。
 自分がやったように、俺もいつか、同じ目に遭うのかもしれない。
 いつか、…颯太にこの想いがバレて、気持ち悪いと捨てられるんだろうか。
 頬がジンジンと鈍く痛み、頭は割れそうだった。もう二度と、こんなことをするのは止めよう。真剣に好きになってくれた人を傷付けるようなことは、もうしない。絶対に。

「…………ごめん、なさい」

 立ち上がる気力も湧かず、蹲ったまま俺は蘭にもう一度謝った。俺は情けなくて、薄汚くて、最低なクズ野郎だ。押し潰されそうな罪悪感を抱えて、俺は涙を零した。


 まだ1学期だというのに、これで2年生の残りの学校生活も針のむしろとなってしまった。次の日蘭は学校を休んでいて、蘭と仲が良いグループの女子たちは朝から俺にガンを飛ばしてきていた。

「最低だよねマジで」
「ゴミだよゴミ」
「クズ」
「ヤリチン野郎が」
「死ねよ」

 友達をズタズタに傷付けられた女子たちの呪詛が延々と聞こえてくる。…全ては自分が招いたことだ。分かってる。犯した罪の分、罰は受けなくてはならない。

「…なぁ、おい、樹」
「………………。」
「どうなってんだよ、何だよこの雰囲気。彼女も休んでるし。お前何したんだよ」
「………………。」
「おいっ!おいって!樹!…お前まさか、…妊娠させたんじゃねーだろうな。おい!」

 俺と仲の良い男友達が数人、般若のような顔で俺を睨みつける女子たちに怯えながらもヒソヒソと声をかけてきてくれる。

「…………お前ら」
「んあ?」
「……いいか、俺は当分笑わない。多分俺が楽しそうに笑えば、……刃物が飛んでくる。はさみとか、カッターとか」
「……はっ?なんで?」
「……俺を笑わせようとするなよ。頼むから。当分の間、俺はこのクラスの生ゴミとして隅っこで生活するから」
「何したんだよお前!!」


 夏休みが来るまで、俺は本当に置物のように大人しく過ごした。



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