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地獄のような1学期が終わり、ついに待ちに待った夏休みがやって来た。
「はぁぁぁぁぁ夏休みだーーー」
「何よ、やけに嬉しそうじゃないのあんた」
リビングのソファーでだらりと伸びきってエアコンの風を浴びながら脱力していた俺に、ワイドショーを見ていた母が反応する。
「学校そんなに嫌だったの?」
「……や、おかん、学生は皆長期休みを待ち望んでるもんだろ。学校が嫌とかそういうことじゃねーよ。できればそりゃずっと家でダラダラしてたいじゃん」
「あっそ。ダラダラするのもいいけど、宿題だけはちゃんとやんなさいよ!あんた何か去年の夏休み宿題忘れて怒られてたでしょ。ドリルか何か丸々1冊やり忘れてたでしょうが」
「…よ、よく覚えてるなおかん」
「当たり前でしょ!2学期の個人懇談の時に担任の先生から言われて、母さんものすごく恥ずかしかったんだから!今年は忘れるんじゃないよ!全部ちゃんとやんなさいよ!いーい?!」
「分かってるって。俺だってめちゃくちゃ怒られたんだからやるよ、今年こそ」
くそ。せっかく針のむしろから脱してゆっくり過ごせると思ったのに。家にいたらいたでおかんがうるさい。
「夏休みの予定はどうなの?あんた。どっか行ったりするの?友達と」
「んー。まぁその辺遊びに行ったりはするかなぁ。あとは部活だろ」
「そうちゃんは?」
「あ?あぁ…」
そりゃもちろん颯太とも会うよ、と答えようとした矢先、おかんがとんでもないことを言い出した。
「去年の冬休み泊まりに行かせてもらったんだから、この夏休みはそうちゃんに来てもらったら?お泊まり」
「……あ、…………えぇ?!」
「えぇーって何よ。お招きしてもらったんだから、ちゃんとこっちもお返しはしなきゃでしょうが」
「あ、あぁ…まぁ…」
「いいわよ、母さんは一泊ぐらいいつ来てもらっても。そうちゃんは相変わらずお行儀いいんだろうし。久々に会うのも楽しみだわー。大きくなってるんだろうなぁ。あの子すごく可愛かったから、きっとイケメンになってきたでしょ」
「……。う、うん…。…予定、聞いてみるわ……」
と、泊まり……、……泊まり?!
いや、たしかに行ったけどさ、去年。でもなぁ……。あの時と今じゃこっちの気持ちがもう全っ然違うわけよ、おかん。今やあいつと一晩をともに過ごすってことは、もう俺にとってはただ事ではないわけよ。
そんなこと知るはずもない母は呑気にワイドショーを見ながらカフェオレを飲んでいる。俺は起き上がって体を伸ばすと、さり気なく自分の部屋に戻った。
ドアを閉め、手で口を塞ぎ声を押し殺して思いっきり動揺する。
えぇぇぇ……。そ、颯太を泊まりに来させる?いやもうそれヤバいだろ絶対。や、そりゃもちろん俺だって一晩中颯太と一緒にいたいけどさ!いたいけど!……こ、こんなドスケベの、クズの部屋に、……颯太を?一晩……?……いや、やっぱダメだ絶対。己の欲に負けて何かしてしまったら、もう……。
『いつか……、いつか本当に大切な人ができたときに、同じようにその人から捨てられる。絶対に』
「…………。」
あの時の蘭の恨みのこもった言葉が脳裏によみがえる。
…だよな。俺はひどいことをして女の子を傷付けたクズなんだ。絶対にいつかバチが当たる。…今、自分の颯太への想いをこんな風に自覚した後で部屋に泊めてしまったら…。
バチが当たるのが、その夜かもしれないんだ。
颯太と一晩中一緒にいたいという気持ちと、自分を抑えきれなくなるのが怖いという思いの間で、俺はしばらく悩んだ。悩んだ末に、決めた。やめておくべきだ、と。
嫌われたくないし、傷付けたくない。…少し距離を置いた状態で、上手く付き合っていくべきなんだ、俺と颯太は。
この先がどうなっていくのかは、今はまだ分からないけど。
母にはあえて数日経ってからそれっぽく言おうと思った。あー、あの件ね。うん、颯太に連絡取ってみたんだけどさー、この夏は泊まりに来るのは無理だってさ。なんかいろいろ忙しいらしいよー。よし。これでいこう。少しもったいない気もしたが、俺は颯太との今後の長い付き合いを大事にすることを考え、こうするべきだと判断した。
「そうちゃんだけどさ、来週の8日、9日で泊まりに来るから」
ゴフッ!!!
次の日の朝、遅い朝食のパンをボケーッと食べながらコーヒーを飲んだ瞬間、前触れもなく母からそう言われて俺は盛大に吹き出した。な、……何だって?!俺は激しく咳き込みながら涙目で母を見た。
「ちょっともー!汚いわねあんた!何やってんのよ朝っぱらからぁ、もうっ」
母は俺を心配する様子もなくふきんでテーブルを拭いている。
「げほっ!ガホッ!…………お、おかん……、何て…………?」
「だからそうちゃんよ!来週の8、9で泊まりに来るから。ちゃんと部屋綺麗にしときなさいよ、そうちゃんにドン引きされないように」
「…………連絡……取ったの……?」
「ん?そうよ。滝宮さんにラインしたのよ」
マ、マジか…………。行動早ぇよおかん…………。
「そうちゃんも喜んでるってさ」
「…っ!……あ、あぁ、そう」
颯太が?喜んでる?
それを聞いただけで俺もうっかりテンションが上がってしまう。そ、そうか…。颯太、俺のところに泊まりに来るの、喜んでくれるのか…。
部屋に戻ってスマホを確認すると、俺にも颯太からラインが来ていた。
『呼んでくれてありがとう。来週楽しみにしてる』
「…………っ」
こんなラインひとつでデレッとしてしまう、単純な俺。……分かった。こうなったらもう腹を括るしかない。自分を押し殺し、颯太との時間を一晩健全に楽しんで、二人にとっていい思い出のひとつにしよう。
「はぁぁぁぁぁ夏休みだーーー」
「何よ、やけに嬉しそうじゃないのあんた」
リビングのソファーでだらりと伸びきってエアコンの風を浴びながら脱力していた俺に、ワイドショーを見ていた母が反応する。
「学校そんなに嫌だったの?」
「……や、おかん、学生は皆長期休みを待ち望んでるもんだろ。学校が嫌とかそういうことじゃねーよ。できればそりゃずっと家でダラダラしてたいじゃん」
「あっそ。ダラダラするのもいいけど、宿題だけはちゃんとやんなさいよ!あんた何か去年の夏休み宿題忘れて怒られてたでしょ。ドリルか何か丸々1冊やり忘れてたでしょうが」
「…よ、よく覚えてるなおかん」
「当たり前でしょ!2学期の個人懇談の時に担任の先生から言われて、母さんものすごく恥ずかしかったんだから!今年は忘れるんじゃないよ!全部ちゃんとやんなさいよ!いーい?!」
「分かってるって。俺だってめちゃくちゃ怒られたんだからやるよ、今年こそ」
くそ。せっかく針のむしろから脱してゆっくり過ごせると思ったのに。家にいたらいたでおかんがうるさい。
「夏休みの予定はどうなの?あんた。どっか行ったりするの?友達と」
「んー。まぁその辺遊びに行ったりはするかなぁ。あとは部活だろ」
「そうちゃんは?」
「あ?あぁ…」
そりゃもちろん颯太とも会うよ、と答えようとした矢先、おかんがとんでもないことを言い出した。
「去年の冬休み泊まりに行かせてもらったんだから、この夏休みはそうちゃんに来てもらったら?お泊まり」
「……あ、…………えぇ?!」
「えぇーって何よ。お招きしてもらったんだから、ちゃんとこっちもお返しはしなきゃでしょうが」
「あ、あぁ…まぁ…」
「いいわよ、母さんは一泊ぐらいいつ来てもらっても。そうちゃんは相変わらずお行儀いいんだろうし。久々に会うのも楽しみだわー。大きくなってるんだろうなぁ。あの子すごく可愛かったから、きっとイケメンになってきたでしょ」
「……。う、うん…。…予定、聞いてみるわ……」
と、泊まり……、……泊まり?!
いや、たしかに行ったけどさ、去年。でもなぁ……。あの時と今じゃこっちの気持ちがもう全っ然違うわけよ、おかん。今やあいつと一晩をともに過ごすってことは、もう俺にとってはただ事ではないわけよ。
そんなこと知るはずもない母は呑気にワイドショーを見ながらカフェオレを飲んでいる。俺は起き上がって体を伸ばすと、さり気なく自分の部屋に戻った。
ドアを閉め、手で口を塞ぎ声を押し殺して思いっきり動揺する。
えぇぇぇ……。そ、颯太を泊まりに来させる?いやもうそれヤバいだろ絶対。や、そりゃもちろん俺だって一晩中颯太と一緒にいたいけどさ!いたいけど!……こ、こんなドスケベの、クズの部屋に、……颯太を?一晩……?……いや、やっぱダメだ絶対。己の欲に負けて何かしてしまったら、もう……。
『いつか……、いつか本当に大切な人ができたときに、同じようにその人から捨てられる。絶対に』
「…………。」
あの時の蘭の恨みのこもった言葉が脳裏によみがえる。
…だよな。俺はひどいことをして女の子を傷付けたクズなんだ。絶対にいつかバチが当たる。…今、自分の颯太への想いをこんな風に自覚した後で部屋に泊めてしまったら…。
バチが当たるのが、その夜かもしれないんだ。
颯太と一晩中一緒にいたいという気持ちと、自分を抑えきれなくなるのが怖いという思いの間で、俺はしばらく悩んだ。悩んだ末に、決めた。やめておくべきだ、と。
嫌われたくないし、傷付けたくない。…少し距離を置いた状態で、上手く付き合っていくべきなんだ、俺と颯太は。
この先がどうなっていくのかは、今はまだ分からないけど。
母にはあえて数日経ってからそれっぽく言おうと思った。あー、あの件ね。うん、颯太に連絡取ってみたんだけどさー、この夏は泊まりに来るのは無理だってさ。なんかいろいろ忙しいらしいよー。よし。これでいこう。少しもったいない気もしたが、俺は颯太との今後の長い付き合いを大事にすることを考え、こうするべきだと判断した。
「そうちゃんだけどさ、来週の8日、9日で泊まりに来るから」
ゴフッ!!!
次の日の朝、遅い朝食のパンをボケーッと食べながらコーヒーを飲んだ瞬間、前触れもなく母からそう言われて俺は盛大に吹き出した。な、……何だって?!俺は激しく咳き込みながら涙目で母を見た。
「ちょっともー!汚いわねあんた!何やってんのよ朝っぱらからぁ、もうっ」
母は俺を心配する様子もなくふきんでテーブルを拭いている。
「げほっ!ガホッ!…………お、おかん……、何て…………?」
「だからそうちゃんよ!来週の8、9で泊まりに来るから。ちゃんと部屋綺麗にしときなさいよ、そうちゃんにドン引きされないように」
「…………連絡……取ったの……?」
「ん?そうよ。滝宮さんにラインしたのよ」
マ、マジか…………。行動早ぇよおかん…………。
「そうちゃんも喜んでるってさ」
「…っ!……あ、あぁ、そう」
颯太が?喜んでる?
それを聞いただけで俺もうっかりテンションが上がってしまう。そ、そうか…。颯太、俺のところに泊まりに来るの、喜んでくれるのか…。
部屋に戻ってスマホを確認すると、俺にも颯太からラインが来ていた。
『呼んでくれてありがとう。来週楽しみにしてる』
「…………っ」
こんなラインひとつでデレッとしてしまう、単純な俺。……分かった。こうなったらもう腹を括るしかない。自分を押し殺し、颯太との時間を一晩健全に楽しんで、二人にとっていい思い出のひとつにしよう。
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