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胸がずっとドキドキと高鳴り続けている。バスに乗っている間中、いや、実際には樹のお母さんから泊まりにおいでと誘われているよと母に言われて以来ずっと、俺の心は躍っている。樹と二日間もずっと一緒に過ごせるなんて。去年の冬休み以来の一大イベントだ。俺は大きく息を吸い込んで、もう何度目かの深呼吸をした。嬉しい。わくわくする。早く着かないかな。でも緊張するな…。
最寄りのバス停に着くと、樹が待っていてくれた。ふふ。前と逆だな。俺は嬉しくてバスを飛び降りる勢いで外に降りた。
「樹!」
「よぉ。久しぶり」
「うん!元気だった?」
「おー。お前も元気そうだな」
またカッコよくなってる。数週間に一度くらいの頻度で会うたびに、樹がどんどんカッコよくなっていく気がしていつもときめいてしまう。
「お前宿題やってるか?」
「うん、もう全部終わったよ」
「早ぇよ!」
他愛もない話をしながら、懐かしのマンションに着いた。普段は樹の方から俺に会いに来てくれることが多いから、ここに来るのは本当に久しぶりだ。ここで出会って、ここで小さい俺と樹は一緒に育ったんだ。…なんだか胸がギュッと切なく痺れる。
「うわぁ!そうちゃん!」
「ご無沙汰してます、おばさん。あの、これ、母から……」
「やだぁ!そうちゃん!」
「は、母から、おばさんに、渡すよう……」
「すっごい!こんなカッコよくなっちゃうの?!アイドルみたいじゃないの!やだー久しぶりねぇ!……あ、ありがとう、わざわざお土産なんて。上がって上がって!」
「おっ、お邪魔します…」
「おかんがうるさくて引いてんじゃねぇかよ、颯太が」
「やー、だって顔を見るのは数年ぶりなんだものこっちは!いい男になっちゃって~そうちゃん!」
「あ、あは、どうも……」
樹のお母さんは相変わらず元気だ。昔から明るくて話し上手な人だった。母は樹のお母さんが気さくな人で本当にありがたかったと言っていたことがある。どちらかと言えば物静かで控えめな性格のうちの母にとって、樹のお母さんは気楽に会話ができる数少ない大事なママ友さんだったようだ。
樹に促されて、久しぶりの樹の部屋に足を踏み入れる。
「うわぁ……!懐かしい……!」
「え?そんなに?」
「うん!だって、いつも樹の方から俺に会いに来てくれてるじゃん。ここに来るのは本当久々だよ。…懐かしい…」
思い出が次々によみがえってきて、なんだかジーンとしてしまう。小さな頃、何度もここに来てた。あの頃から俺は、樹のことが本当に好きで好きで……。
「……何うるうるしてんだよ」
「え、あ、ご、…ごめん。なんか、つい…」
「ふ。アホか」
樹がクックッと笑っている。その笑顔が優しくてカッコよくて、思わずギューッと抱きしめたくなってしまうけど、…そんなことするわけにはいかない。気持ちをごまかすために、部屋を見渡しながら樹のベッドにぽすんと腰かける。
「懐かしいけど、やっぱりいろいろ変わったね。昔この辺に置いてあったおもちゃが全部なくなってる。ね?」
「…………。」
……ん?どうしたんだろう。ベッドに腰かけた俺を、樹がじっと見つめている。…ここ座っちゃダメなのかな?
「…まぁそりゃいまだにあんなおもちゃと絵本しかなかったらただのヤバい中学生だろ」
「ふふ。本当だね。サッカーボールとゲーム機になったね」
…?…特に意味はなかったのかな。
何年ぶりに会ったってわけでもないのに、樹といるといつも話が弾む。二人きりの空間にいると、気分が高揚する。
…よかった。あの日のこと、…何も気にしてなさそうだ。
あの日、樹が俺に会いにこっちの中学校まで来てくれたとき。
俺は樹のキスを目撃してしまったことや彼女はいないと嘘をつかれたことをまだ全然消化しきれていなくて、ろくに会話もできなかった。でも樹から、全然好きになれないからもう別れた、もう彼女はいないと言われて、ホッとして、嬉しくて。
あまりにも気分が上がってしまって、その勢いのままに、聞いてしまった。好きな人はいるのかと。
どうしてあんなことを聞いてしまったのか。樹は動揺していた。樹はいないと答え、さらに俺に同じ質問を返してきた。
『…お前は、どうなんだよ。…いるのか?好きなヤツが』
『…………。…どう思う?』
『へ?』
『…いると思う?樹』
あんな思わせぶりな態度をとってしまって、もしバレたら俺はどうするつもりだったんだろう。彼女も好きな人もいないと聞いて安心して、嬉しさのあまりその高まる想いのままについ、ふと、打ち明けてしまいたくなったんだ。自分の気持ちを。…危なかった。冷静さを失っていた。
目の前で楽しそうにサッカー部の話をしている樹を見る。
もし、あの時俺の想いがバレていたら、今のこの時間はなかったかもしれないんだ。
今後永久に、失ってしまっていたのかもしれないんだ。
…気を付けなきゃ。どんなに仲がよくても、どんなに樹が俺を特別大事にしてくれていても、俺は所詮ただの友達なんだ。
ただの幼なじみ。樹にとって俺は、恋愛対象でもなんでもない。…立場をわきまえなきゃ。
樹には、いずれきっとまた恋人ができる。
その覚悟だけは、ちゃんとしておかなきゃ。
でも、今はまだ、…俺を一番特別な存在でいさせて。
最寄りのバス停に着くと、樹が待っていてくれた。ふふ。前と逆だな。俺は嬉しくてバスを飛び降りる勢いで外に降りた。
「樹!」
「よぉ。久しぶり」
「うん!元気だった?」
「おー。お前も元気そうだな」
またカッコよくなってる。数週間に一度くらいの頻度で会うたびに、樹がどんどんカッコよくなっていく気がしていつもときめいてしまう。
「お前宿題やってるか?」
「うん、もう全部終わったよ」
「早ぇよ!」
他愛もない話をしながら、懐かしのマンションに着いた。普段は樹の方から俺に会いに来てくれることが多いから、ここに来るのは本当に久しぶりだ。ここで出会って、ここで小さい俺と樹は一緒に育ったんだ。…なんだか胸がギュッと切なく痺れる。
「うわぁ!そうちゃん!」
「ご無沙汰してます、おばさん。あの、これ、母から……」
「やだぁ!そうちゃん!」
「は、母から、おばさんに、渡すよう……」
「すっごい!こんなカッコよくなっちゃうの?!アイドルみたいじゃないの!やだー久しぶりねぇ!……あ、ありがとう、わざわざお土産なんて。上がって上がって!」
「おっ、お邪魔します…」
「おかんがうるさくて引いてんじゃねぇかよ、颯太が」
「やー、だって顔を見るのは数年ぶりなんだものこっちは!いい男になっちゃって~そうちゃん!」
「あ、あは、どうも……」
樹のお母さんは相変わらず元気だ。昔から明るくて話し上手な人だった。母は樹のお母さんが気さくな人で本当にありがたかったと言っていたことがある。どちらかと言えば物静かで控えめな性格のうちの母にとって、樹のお母さんは気楽に会話ができる数少ない大事なママ友さんだったようだ。
樹に促されて、久しぶりの樹の部屋に足を踏み入れる。
「うわぁ……!懐かしい……!」
「え?そんなに?」
「うん!だって、いつも樹の方から俺に会いに来てくれてるじゃん。ここに来るのは本当久々だよ。…懐かしい…」
思い出が次々によみがえってきて、なんだかジーンとしてしまう。小さな頃、何度もここに来てた。あの頃から俺は、樹のことが本当に好きで好きで……。
「……何うるうるしてんだよ」
「え、あ、ご、…ごめん。なんか、つい…」
「ふ。アホか」
樹がクックッと笑っている。その笑顔が優しくてカッコよくて、思わずギューッと抱きしめたくなってしまうけど、…そんなことするわけにはいかない。気持ちをごまかすために、部屋を見渡しながら樹のベッドにぽすんと腰かける。
「懐かしいけど、やっぱりいろいろ変わったね。昔この辺に置いてあったおもちゃが全部なくなってる。ね?」
「…………。」
……ん?どうしたんだろう。ベッドに腰かけた俺を、樹がじっと見つめている。…ここ座っちゃダメなのかな?
「…まぁそりゃいまだにあんなおもちゃと絵本しかなかったらただのヤバい中学生だろ」
「ふふ。本当だね。サッカーボールとゲーム機になったね」
…?…特に意味はなかったのかな。
何年ぶりに会ったってわけでもないのに、樹といるといつも話が弾む。二人きりの空間にいると、気分が高揚する。
…よかった。あの日のこと、…何も気にしてなさそうだ。
あの日、樹が俺に会いにこっちの中学校まで来てくれたとき。
俺は樹のキスを目撃してしまったことや彼女はいないと嘘をつかれたことをまだ全然消化しきれていなくて、ろくに会話もできなかった。でも樹から、全然好きになれないからもう別れた、もう彼女はいないと言われて、ホッとして、嬉しくて。
あまりにも気分が上がってしまって、その勢いのままに、聞いてしまった。好きな人はいるのかと。
どうしてあんなことを聞いてしまったのか。樹は動揺していた。樹はいないと答え、さらに俺に同じ質問を返してきた。
『…お前は、どうなんだよ。…いるのか?好きなヤツが』
『…………。…どう思う?』
『へ?』
『…いると思う?樹』
あんな思わせぶりな態度をとってしまって、もしバレたら俺はどうするつもりだったんだろう。彼女も好きな人もいないと聞いて安心して、嬉しさのあまりその高まる想いのままについ、ふと、打ち明けてしまいたくなったんだ。自分の気持ちを。…危なかった。冷静さを失っていた。
目の前で楽しそうにサッカー部の話をしている樹を見る。
もし、あの時俺の想いがバレていたら、今のこの時間はなかったかもしれないんだ。
今後永久に、失ってしまっていたのかもしれないんだ。
…気を付けなきゃ。どんなに仲がよくても、どんなに樹が俺を特別大事にしてくれていても、俺は所詮ただの友達なんだ。
ただの幼なじみ。樹にとって俺は、恋愛対象でもなんでもない。…立場をわきまえなきゃ。
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でも、今はまだ、…俺を一番特別な存在でいさせて。
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