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本編
後編1
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18歳の冬の始まり、藍は人生の転機を迎える。
竜使い、一人前昇任試験の始まりである。
相棒の竜を得た竜使いは竜とともに一定期間の自主鍛錬を積んだ後、玄人の竜使いについて任務経験を積む。
そして8年以上、竜と相棒として過ごした竜使いたちには、一人前への昇任試験の受験資格が与えられる。
実は昇任試験と言っても、竜使い側はやることがない。受けるのは、竜側である。
約一か月にわたって、竜は単独任務に臨む。国に四か所ある竜の群生地を巡る旅に出るのだ。
そこで竜が何をしているのか、見習の竜使いたちには知らされないが、一年目で無事に竜が本邸まで戻ってくることは稀であり、とても難しい試験とされている。
藍の師匠である玄人の守が瑠璃の付き添いについていた。
瑠璃がちゃんと道を逸れずにいるかの監視役である。
瑠璃は一昨日出発した。
まだまだ瑠璃の元気な声は聞こえてくるが、ある程度距離ができたら、その声も聞こえなくなるだろう。
この8年間、毎日のように話していた相手がしばらく不在になる。寂しいものだ。
そして、19歳になればこの国での結婚適齢期を迎える。
蒼ノ宮家では藍を誰の嫁にするか、で盛り上がっていた。
飛世の方も大きな変化があった。
まず、第一王子・爽一が東宮となった。
第二王子の飛世は年明けから、姓を賜り、臣下へとくだる。
見事、東宮ルートを逸れることに成功したわけだ。
そして、あの、4、5年前に失脚した高峯家の跡地も賜った。おそらく陛下は東宮になれなかった王子のどちらかにそもそも渡す予定で整備していたようで、今は新しく建った屋敷で大半の時間を過ごしていた。
なぜか、藍も屋敷で雇う人材の選定に付き合わされた。そのおかげかいい人材の引き抜き・発掘に成功した。
まず、飛世の秘書として高遠家の次男を採用した。高遠家の長男は、いわゆる飛世一派の一員であり、信頼できる家の出だ。
そして、侍女頭として、鷲見家の分家筋の女性を採用した。この女性、もとは帝直属の暗殺集団に所属していた女性で、藍と大変馬があった。
藍がただの手伝いで飛世の縁者じゃないと知ると、話を断ろうとしたぐらいだ。
あの後、飛世が説得して仕事についてくれることになったが、いったいどういう話をしたのか…。
とりあえず、二人がいれば使用人の採用も進むだろう。
最後に、城の料理長を飛世が引き抜いてきた。
庭で野菜を育てたい。という無茶なお願いを飛世が二つ返事でオッケーしたのが始まりだ。
そのため貴族の屋敷の庭に大々的に畑が整備されるというおかしな状況になってしまった。
まあ、飛世がいいならいいのだろう。
飛世に弱い藍は日に日に深刻化しており、もはや頼まれなくてもなんでもやってあげたい。
正月のお披露目の衣装も用意してあげた。絶対に映えるだろう。
そして今日は、なぜか用事があって飛世が蒼ノ宮家に来るらしい。
事前に父上にアポを取り、正式な王家からの使者としてやってくるらしい。いったい何があったのか。
ーーーー
飛世が藍の父との会談を終えて、藍に会いにやってきた。
「いったい、王家は何の話だったんだ?」
「私と藍の大事な話だよ。」
「私…?」
いろんな可能性がぱっとひらめく。その中で一つ、そうであったら嬉しい可能性が大きく脳内で主張してくる。
『そうよ!絶対そうよ!』
※瑠璃と藍の念話はまだ可能な距離である。
「今回、私は帝位の継承権を辞退して、臣下に降りることになったよね。」
周りに人もいる中、飛世はまるで聞かせるように声を少し大きくした。
「臣下として独り立ちするのはとても不安なんだ。」
ちょっと声を潜めて言った、これは本音だろう。
「藍にそばにいてほしい。私の嫁に来てくれませんか?」
藍が目を見張る。脳内では瑠璃の大歓声が響いた。
「もちろん、竜使いはやめなくていいよ。王子の妻だったら難しいかもしれないけど、一臣下の妻なんだ。むしろ父上も兄上も仕事を続けてくれるのに賛成だって言ってたし。
一人前になったら結婚して、私の屋敷に住んで、そこから任務に通えばいい。馬だと遠いけど、瑠璃なら30分もあれば蒼ノ宮邸に来られるだろう?
瑠璃の住処も作ってもいいよ。庭に畑があるんだ。竜の小屋があったって問題ないよ。広いし。」
藍にとっての好条件を畳みかけてくる。その目は少し不安そうに揺れていた。
ーダメだった?余計なことした?
そんな不安が垣間見える。
全然、そんなことはない。瑠璃とはずっと一人前になったら蒼ノ宮家を出ようと話をしていたし。それに私は…。
『藍、返事よ!返事!』
瑠璃の声にハッとした。
「う、嬉しい!結婚する!嫁に行く!」
思わず大きな声がでた。飛世がはははっと笑って藍を思い切り抱きしめた。
『おめでとう!おめでとう!もちろん私もあなたたちの家に住むんだから!ちゃんと住処を用意してよね!料理長に言って畑にたくさん木苺も植えてもらっておう!それから…』
もうかなり遠くにいるはずなのに、いつまでも瑠璃のおしゃべりも止まらなかった。
しかし、藍と飛世の婚約は、飛世の公開プロポーズにより周知のものになったはずなのに、なかなか正式には結ばれなかった。
それどころか、プロポーズから二週間後、藍は突然敷地内の森奥の離れに幽閉されてしまう。
竜使い、一人前昇任試験の始まりである。
相棒の竜を得た竜使いは竜とともに一定期間の自主鍛錬を積んだ後、玄人の竜使いについて任務経験を積む。
そして8年以上、竜と相棒として過ごした竜使いたちには、一人前への昇任試験の受験資格が与えられる。
実は昇任試験と言っても、竜使い側はやることがない。受けるのは、竜側である。
約一か月にわたって、竜は単独任務に臨む。国に四か所ある竜の群生地を巡る旅に出るのだ。
そこで竜が何をしているのか、見習の竜使いたちには知らされないが、一年目で無事に竜が本邸まで戻ってくることは稀であり、とても難しい試験とされている。
藍の師匠である玄人の守が瑠璃の付き添いについていた。
瑠璃がちゃんと道を逸れずにいるかの監視役である。
瑠璃は一昨日出発した。
まだまだ瑠璃の元気な声は聞こえてくるが、ある程度距離ができたら、その声も聞こえなくなるだろう。
この8年間、毎日のように話していた相手がしばらく不在になる。寂しいものだ。
そして、19歳になればこの国での結婚適齢期を迎える。
蒼ノ宮家では藍を誰の嫁にするか、で盛り上がっていた。
飛世の方も大きな変化があった。
まず、第一王子・爽一が東宮となった。
第二王子の飛世は年明けから、姓を賜り、臣下へとくだる。
見事、東宮ルートを逸れることに成功したわけだ。
そして、あの、4、5年前に失脚した高峯家の跡地も賜った。おそらく陛下は東宮になれなかった王子のどちらかにそもそも渡す予定で整備していたようで、今は新しく建った屋敷で大半の時間を過ごしていた。
なぜか、藍も屋敷で雇う人材の選定に付き合わされた。そのおかげかいい人材の引き抜き・発掘に成功した。
まず、飛世の秘書として高遠家の次男を採用した。高遠家の長男は、いわゆる飛世一派の一員であり、信頼できる家の出だ。
そして、侍女頭として、鷲見家の分家筋の女性を採用した。この女性、もとは帝直属の暗殺集団に所属していた女性で、藍と大変馬があった。
藍がただの手伝いで飛世の縁者じゃないと知ると、話を断ろうとしたぐらいだ。
あの後、飛世が説得して仕事についてくれることになったが、いったいどういう話をしたのか…。
とりあえず、二人がいれば使用人の採用も進むだろう。
最後に、城の料理長を飛世が引き抜いてきた。
庭で野菜を育てたい。という無茶なお願いを飛世が二つ返事でオッケーしたのが始まりだ。
そのため貴族の屋敷の庭に大々的に畑が整備されるというおかしな状況になってしまった。
まあ、飛世がいいならいいのだろう。
飛世に弱い藍は日に日に深刻化しており、もはや頼まれなくてもなんでもやってあげたい。
正月のお披露目の衣装も用意してあげた。絶対に映えるだろう。
そして今日は、なぜか用事があって飛世が蒼ノ宮家に来るらしい。
事前に父上にアポを取り、正式な王家からの使者としてやってくるらしい。いったい何があったのか。
ーーーー
飛世が藍の父との会談を終えて、藍に会いにやってきた。
「いったい、王家は何の話だったんだ?」
「私と藍の大事な話だよ。」
「私…?」
いろんな可能性がぱっとひらめく。その中で一つ、そうであったら嬉しい可能性が大きく脳内で主張してくる。
『そうよ!絶対そうよ!』
※瑠璃と藍の念話はまだ可能な距離である。
「今回、私は帝位の継承権を辞退して、臣下に降りることになったよね。」
周りに人もいる中、飛世はまるで聞かせるように声を少し大きくした。
「臣下として独り立ちするのはとても不安なんだ。」
ちょっと声を潜めて言った、これは本音だろう。
「藍にそばにいてほしい。私の嫁に来てくれませんか?」
藍が目を見張る。脳内では瑠璃の大歓声が響いた。
「もちろん、竜使いはやめなくていいよ。王子の妻だったら難しいかもしれないけど、一臣下の妻なんだ。むしろ父上も兄上も仕事を続けてくれるのに賛成だって言ってたし。
一人前になったら結婚して、私の屋敷に住んで、そこから任務に通えばいい。馬だと遠いけど、瑠璃なら30分もあれば蒼ノ宮邸に来られるだろう?
瑠璃の住処も作ってもいいよ。庭に畑があるんだ。竜の小屋があったって問題ないよ。広いし。」
藍にとっての好条件を畳みかけてくる。その目は少し不安そうに揺れていた。
ーダメだった?余計なことした?
そんな不安が垣間見える。
全然、そんなことはない。瑠璃とはずっと一人前になったら蒼ノ宮家を出ようと話をしていたし。それに私は…。
『藍、返事よ!返事!』
瑠璃の声にハッとした。
「う、嬉しい!結婚する!嫁に行く!」
思わず大きな声がでた。飛世がはははっと笑って藍を思い切り抱きしめた。
『おめでとう!おめでとう!もちろん私もあなたたちの家に住むんだから!ちゃんと住処を用意してよね!料理長に言って畑にたくさん木苺も植えてもらっておう!それから…』
もうかなり遠くにいるはずなのに、いつまでも瑠璃のおしゃべりも止まらなかった。
しかし、藍と飛世の婚約は、飛世の公開プロポーズにより周知のものになったはずなのに、なかなか正式には結ばれなかった。
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