世間知らずの王子様を教育していたら、嫁として誘拐されました

ぺきぺき

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本編

中編2

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「え、第一王子に一任された?」

蒼ノ宮家では技術を外部へと漏らした者を探るための内部調査チームが作られ、藍も守についてメンバーに選ばれていた。犯人は異国の密輸組織ともつながっている可能性があったために、城の密輸組織調査チームとも連携をとっていた。

その密輸組織調査チームの責任者に第一王子が選ばれたらしい。

「今は飛世殿ばかりが目立っているが、第一王子が有能であることは周知の事実だ。これはすぐに解決するかもしれないぞ。」

それは喜ばしいが、この人事は陛下が第二王子よりもむしろ第一王子を有能視していることの表れでもある。
そして、第二王子は第一発見者にも関わらず、だ。

『ねえ、もう仲を取り持ってあげたら?爽一そういちは火種は未然に摘み取るタイプだわ。彼が判断を下す前に、対面させるべきよ。』

なんだかんだ言って藍は飛世に弱かった。手のかかる子ほどかわいいってやつだろうか。



ーーーー



藍はすぐに行動を起こした。

妓楼ぎろう!?ってあの、え?そこに行くの!?私だけで!?」

飛世を夕食に誘い、花街の入口で紹介状を手渡した。

「花街の一番奥にある立派な朱い建物だ。国一の高級妓楼で紹介状がないとまず入れない。本名は名乗るな。秋若あきわかで通せ。」

「でも、なんで…」

「そこにがいる。夕食を予約しておいた。」

「…なんでそんなことできるの?」

「話は後。時間がない。ほら、行って!」

飛世は何度も藍を振り返りながら、花街の奥へと消えていった。
ー私の言うこと聞きすぎじゃないか?ちょっと心配になってきた。


藍も別のルートで同じ建物を目指す。

国一の高級妓楼”朱天楼しゅてんろう”。花街で一番大きく立派な建物であり、足を踏み入れれば最高級の美女が出迎える。
男ならだれもが一夜を夢見るが、一晩の滞在で一般官吏の一年分の給与が飛んでいく。

そんな朱天楼には裏の顔があった。


ネズミ一匹通さない鉄壁のガードで要人を保護する、としての顔だ。



「藍。今、秋若様を夏若なつわか様のところにお通ししたよ。」

「ありがとう、じゅん姐さん。」

裏口で藍を出迎えたのは、長い亜麻色の巻き髪を垂らした美しい女性だった。

この女性こそが朱天楼の妓女であり、お庭番であり、藍を英流の道場に連れて行き、様々な体術・剣術の稽古をつけてくれた藍の師匠である。

今回、飛世をとある人物と引きあわせるために、人肌脱いでくれた人物だ。『しかし、師匠は甘くはない。』

突然、瑠璃がナレーションをいれてきた。


『今回の夕食会の代金は藍持ちであり、その大金を稼ぐために、藍はこれから働かねばならないのだ…!』


「さあ、衣装に着替えて舞台に上がりな。」


妓女として…といっても藍は客を取るわけではない。舞台で舞を舞うのだ。
藍は朱天楼の常連ならば皆知っている、気まぐれな舞姫・つぼみなのだ。



ーーーー


「いやあ、まさか蕾の舞が見れるなんてついてる。」

「私は初めて見たよ。なんて身軽で、それでいて力強い!」

「あの美しい緑の黒髪が白い肌になんて映えることか!顔も美しい!今日の薄紅の衣装がなんと似合う!」

客たちの喝采を浴びながら、藍はゆっくりと舞台袖へと下がった。
初めて蕾として舞を舞ったときは、だれか知り合いにバレて家に連絡されるんじゃないかとひやひやしたものだが、これが全くバレないのだ。

朱天楼は食事も一級。夢の一夜に比べたら大分安上がりなため、たまに知り合いが来ていたこともある。一度兄①が来たこともあったが、全く身バレせず、むしろ翌日あのようになれと丁寧に舞のすばらしさをほめられた。

普段と違い、前髪を流し、髪を下ろし、派手に化粧をし、きれいな衣装を身にまとう。

また、藍は潤から他人を演じる演技のコツも伝授されていた。

上の階から舞を見ていた飛世もきっと気づいていないだろう。


「蕾、夏若様が席にお呼びです。」

「わかりました。」


藍が夏若の宴席の戸を開き、入室する。そこには飛世もいた。

そう、夏若とは朱天楼での要人保護の際に名づけられた、いわゆるコードネームだ。

この方こそ、帝の第一王子にして飛世の兄、爽一そういちである。

爽一は陛下にそっくりな顔でにやりと笑った。

「蕾、大変見事な舞であった。」

藍は深く頭を下げる。

「藍。」

飛世に呼びかけられて、一瞬息が止まった。驚いて顔を上げる。飛世は藍の驚きなど気づかぬようで、何でもないことのように話し続ける。

「藍が出てきて、踊り始めた時はびっくりしたよ。舞までできるんだね。」

え、もしかして最初から気づいていたの、上から見ていて?舞台袖から出てきた私が?藍だって?


爽一は藍の反応を面白そうに眺めて、口を開いた。


「この通り、正体はバレバレなのだから、藍姫も食事に参加してほしい。今後のことについて話そう。
私が密輸調査の指揮を執ることは藍姫も聞いているだろう?」


「はい。」


「この愚弟も私の手足となって働いてくれるそうだ。」


どうやら第一王子と第二王子の初めての会談は上手くいったらしい。


ーーーー


それからの爽一の辣腕はすごかった。



まず、異国への密輸船を突き止め、飛世に先陣を切って突入させた。無事に密輸前の幼竜たちを保護し、首謀者をお縄にかけた。

先の夕食会ですっかり第一王子への苦手が無くなったのか、飛世は爽一の支持によく従い、期待以上に働いた。
爽一も飛世が世間で噂されるような優等生ではなく、弟であることを理解し、むしろそのに満足していた。

これで飛世が爽一に敵認定されて、一方的に追い落とされることはなくなっただろう。

にしても、飛世は爽一によく懐いた。その前のいやいやは何だったんだ?
後日、飛世は語っていた。

「藍が兄上たちと仲がいいのをずっとうらやましいと思っていたんだ。」

要は、私のおかげか。



次に、お縄にかけた首謀者たちを使って、爽一は異国と危険生物の取引に関する条約を結んだ。

どうやらこの仕事が回ってきたときから、異国との交易に関して実績を残す方法を考えていたらしい。
条約文の草案を見せながら、藍に法律のレクチャーもしてくれた。


もはや隠す必要はないだろう。私の勉学の師匠とは、爽一様のことである。


ちなみに、これは藍も知らなかったのだが、飛世は異国語を話せる。
何でも、昔、異国の剣士から剣術を学んでいたことがあるらしい。もちろん爽一はペラペラである。



最後に、爽一はこれらの実績を盾にとある地方貴族の姫を婚約者に迎え、城へと呼び寄せた。
そして自分も、朱天楼暮らしをやめて城へと戻ってきた。

爽一がずっと婚約者を置かなかったのは、思いあう姫がいたからだ。


お出迎えの護衛には藍と飛世も選ばれた。
姫は中性的な面立ちをしたすらりとした女性であった。


つまりは、この後に飛世の釣書地獄が再び始まることとなる。



竜に関する秘伝の技術を異人へともらしたのは、蒼ノ宮姓の青年だった。

彼は竜使いになることを夢見たが、最後まで竜に相棒に選ばれず、竜使いになることはできなかった。

蒼ノ宮姓の者たちは青年に同情的であり、国に捕らえられた後も厳しい罰に不平を言っていた。


正直、頭おかしいんじゃないかと思った。
竜を密輸してお金を稼ごうとしたことに怒りは感じないのかと、瑠璃と二人で憤慨し、自分たちの将来設計に一つの決定をくだすことになる。

この決断については、私が一人前になった時にお話ししよう。




一連の出来事を受けて、藍の中では変わったことがある。

飛世が妓女姿の蕾が藍だと一瞬で見抜いてくれたこと。

それをよく思い出すようになった。私が飛世をよく見てるだけじゃなく、飛世も私をよく見てるんだと。



飛世のことを考える時間が今までよりも増えていった。




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