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本編・裏
中編2
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朱天楼で手紙を見せると、すんなり中に通され、設置された舞台を上から見渡せる二階の個室席に案内された。
個室に入るとそこには…。
「兄上!」
「声が大きい。」
そこにいたのは、ゆったりした着物に身を包んだ兄にして第一王子・爽一であった。常に気難しい顔をした爽一が、例の、見定めるような顔で飛世を見ていた。
「兄上?なぜここに?私は今日藍に呼ばれて…。」
「私も藍姫にお前と話してやってほしいと頼まれたんだ。さっさと座れ。」
飛世はそわそわと席に着くと、爽一は後ろに控えるイケメン眼鏡の青年に合図を出し、料理を運ばせた。次々と高級そうに盛り付けられた食事が並べられて、給仕が去っていく。
「兄上は藍と知り合いなのですか?」
「…私と藍姫の話がしたくてここに来たのか?」
あ、これダメなやつ。変なこと言えないやつだ。怖い。藍、助けて。何を話せば…。
「あ、兄上。」
「なんだ?」
「わ、私は、東宮になりたくないのですけども…。」
爽一はピクリとも顔を動かさず、飛世を眺めていてさすがだなと思った。
【いきなり愚直に話し出したのには内心度肝を抜かれたな…。顔色を変えないなんて、貴族が最初に身につける技だろうに。目に見えてテンパってたしな。】
「なぜか、皆が私が東宮にふさわしいような噂をやめなくて…。私の振舞いのせいなのは常々藍に言われているところではありますが…。最近は釣書も届くようになしまって…。あの…。」
飛世は唾を飲んだ。
「兄上に早く東宮になっていただきたいのです。」
「私は東宮になるつもりだが、お前は東宮にならず、何になるつもりなんだ?」
青天の霹靂。これまで考えたこともない質問に脳への衝撃は大きく飛世の目から星が飛んだ。【本当にそう見えた。】
生まれて初めて問いかけられた問いに飛世は頭を使わずに正直に答えた。
「え、私になりたいものは特にありません。しいて言うなら、安心できる場所で一日中のんびりしたいです。」
爽一が初めて感情を露わにした顔をした。そう、なんだこれはという珍しいものを見た顔である。
ふと下の階で楽器の演奏が始まった。飛世がふと下を見ると舞台袖から綺麗に着飾った藍が出てきたところだった。
「あれ、藍?」
藍を見て驚いていた飛世は、爽一が飛世を見て今日一番、というか初めて、驚いた顔をしたことに気づかなかった。
薄紅色の異国情緒にあふれた衣装を着こなし、いつも後ろにまとめられている綺麗な黒髪は少し波立って後ろに流されていた。代わりにいつもあるちょっと短めの前髪はどうしたのか、あげられていた。
衣装には鈴がついているのか、藍が舞始めると、シャナリシャナリと鳴りだした。
…なんか、いつもと雰囲気が違うな。藍が言うには別人級の変装なのだそうだが、飛世の感想はその程度だった。
「飛世。」
藍の踊りを見つめていると、爽一に初めて名前を呼ばれた。
「は、はい。」
「お前、私の手足となって働け。そうすれば、私がお前の安心できる場所を用意してやろう。」
「え?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃありません!ありがとうございます!働きます!」
兄上が私のために安心できる場所を用意してくれるなんて。これで自分の将来のことは自分で考えなくて良さそうだ。何で兄上は急にそんな風に気を変えてくれたんだろう?
やっぱり藍の兄たちと同じで下の子は可愛いのかもしれない。血も涙もないと思っていた兄上も、やっぱり人の子だったんだ。
【おい、待て。おまえ、あの時そんなこと考えてたのか?】
その後、個室に入ってきた藍は私が話しかけると驚いたような顔をしていた。私が藍のことをわからないとでも思ったのだろうか?
その後、兄上は竜の密輸船を特定し、飛世を現場に突入させた。
何度きいてもその特定方法はよくわからなかった。藍は感嘆の声をあげていたが。【おい。】
正直、密輸船の乗組員たちは弱くて、先頭で突入した飛世一人でぼこぼこにしてお縄にかけることができた。後ろから突入してきた藍の呆れた顔は今でもよく覚えている。
兄上は私が首謀者を引きずって船外につれてくると喜んでほめてくれた。【お前はほめられて伸びる子だったな。】
そこからの兄上はすごかった。捕まえた首謀者を使って、半ば脅しながら異国と危険生物の取り扱いに関する条約を結んだ。条文の翻訳まで確認し、一ミリの差異も許さなかった。
ちなみに飛世は簡単な異国語は話せるが、読めないのでここでは全く役に立たなかった。代わりに藍がいろいろと何かやっていた。
それにしても、竜使いって異国語を理解する必要は全くないんじゃなかろうか。助っ人に来てくれた竜使いたちは誰一人異国語を理解していなかった。
ー藍の才能は竜使いにしておくにはもったいない。そこにとどまるべきじゃない。
このころから飛世はそう思うようになった。【それは私も激しく同意したい。】
そして、竜の異国への密輸事件の裏で、蒼ノ宮家で大問題になっていた竜の飼育技術の流出。
犯人は、蒼ノ宮姓の青年だった。彼は竜使いを夢見たが、竜に選ばれず、一定年齢を超えてしまい、竜使いの夢をあきらめることになったのだ。
蒼ノ宮家で高まる青年への同情的な声。同時に藍への批判も沸いた。たかが女が竜使いを選んでくれる竜を一頭奪っていった、と。
藍は蒼ノ宮家にいるべきじゃない。あの家を出るべきだ。もっと幅広く活躍の場があるべきだ。もっと藍が生きやすい環境があればいいのに。
この事件から、飛世は藍が生きやすい環境とは何なのか、よく考えるようになった。
個室に入るとそこには…。
「兄上!」
「声が大きい。」
そこにいたのは、ゆったりした着物に身を包んだ兄にして第一王子・爽一であった。常に気難しい顔をした爽一が、例の、見定めるような顔で飛世を見ていた。
「兄上?なぜここに?私は今日藍に呼ばれて…。」
「私も藍姫にお前と話してやってほしいと頼まれたんだ。さっさと座れ。」
飛世はそわそわと席に着くと、爽一は後ろに控えるイケメン眼鏡の青年に合図を出し、料理を運ばせた。次々と高級そうに盛り付けられた食事が並べられて、給仕が去っていく。
「兄上は藍と知り合いなのですか?」
「…私と藍姫の話がしたくてここに来たのか?」
あ、これダメなやつ。変なこと言えないやつだ。怖い。藍、助けて。何を話せば…。
「あ、兄上。」
「なんだ?」
「わ、私は、東宮になりたくないのですけども…。」
爽一はピクリとも顔を動かさず、飛世を眺めていてさすがだなと思った。
【いきなり愚直に話し出したのには内心度肝を抜かれたな…。顔色を変えないなんて、貴族が最初に身につける技だろうに。目に見えてテンパってたしな。】
「なぜか、皆が私が東宮にふさわしいような噂をやめなくて…。私の振舞いのせいなのは常々藍に言われているところではありますが…。最近は釣書も届くようになしまって…。あの…。」
飛世は唾を飲んだ。
「兄上に早く東宮になっていただきたいのです。」
「私は東宮になるつもりだが、お前は東宮にならず、何になるつもりなんだ?」
青天の霹靂。これまで考えたこともない質問に脳への衝撃は大きく飛世の目から星が飛んだ。【本当にそう見えた。】
生まれて初めて問いかけられた問いに飛世は頭を使わずに正直に答えた。
「え、私になりたいものは特にありません。しいて言うなら、安心できる場所で一日中のんびりしたいです。」
爽一が初めて感情を露わにした顔をした。そう、なんだこれはという珍しいものを見た顔である。
ふと下の階で楽器の演奏が始まった。飛世がふと下を見ると舞台袖から綺麗に着飾った藍が出てきたところだった。
「あれ、藍?」
藍を見て驚いていた飛世は、爽一が飛世を見て今日一番、というか初めて、驚いた顔をしたことに気づかなかった。
薄紅色の異国情緒にあふれた衣装を着こなし、いつも後ろにまとめられている綺麗な黒髪は少し波立って後ろに流されていた。代わりにいつもあるちょっと短めの前髪はどうしたのか、あげられていた。
衣装には鈴がついているのか、藍が舞始めると、シャナリシャナリと鳴りだした。
…なんか、いつもと雰囲気が違うな。藍が言うには別人級の変装なのだそうだが、飛世の感想はその程度だった。
「飛世。」
藍の踊りを見つめていると、爽一に初めて名前を呼ばれた。
「は、はい。」
「お前、私の手足となって働け。そうすれば、私がお前の安心できる場所を用意してやろう。」
「え?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃありません!ありがとうございます!働きます!」
兄上が私のために安心できる場所を用意してくれるなんて。これで自分の将来のことは自分で考えなくて良さそうだ。何で兄上は急にそんな風に気を変えてくれたんだろう?
やっぱり藍の兄たちと同じで下の子は可愛いのかもしれない。血も涙もないと思っていた兄上も、やっぱり人の子だったんだ。
【おい、待て。おまえ、あの時そんなこと考えてたのか?】
その後、個室に入ってきた藍は私が話しかけると驚いたような顔をしていた。私が藍のことをわからないとでも思ったのだろうか?
その後、兄上は竜の密輸船を特定し、飛世を現場に突入させた。
何度きいてもその特定方法はよくわからなかった。藍は感嘆の声をあげていたが。【おい。】
正直、密輸船の乗組員たちは弱くて、先頭で突入した飛世一人でぼこぼこにしてお縄にかけることができた。後ろから突入してきた藍の呆れた顔は今でもよく覚えている。
兄上は私が首謀者を引きずって船外につれてくると喜んでほめてくれた。【お前はほめられて伸びる子だったな。】
そこからの兄上はすごかった。捕まえた首謀者を使って、半ば脅しながら異国と危険生物の取り扱いに関する条約を結んだ。条文の翻訳まで確認し、一ミリの差異も許さなかった。
ちなみに飛世は簡単な異国語は話せるが、読めないのでここでは全く役に立たなかった。代わりに藍がいろいろと何かやっていた。
それにしても、竜使いって異国語を理解する必要は全くないんじゃなかろうか。助っ人に来てくれた竜使いたちは誰一人異国語を理解していなかった。
ー藍の才能は竜使いにしておくにはもったいない。そこにとどまるべきじゃない。
このころから飛世はそう思うようになった。【それは私も激しく同意したい。】
そして、竜の異国への密輸事件の裏で、蒼ノ宮家で大問題になっていた竜の飼育技術の流出。
犯人は、蒼ノ宮姓の青年だった。彼は竜使いを夢見たが、竜に選ばれず、一定年齢を超えてしまい、竜使いの夢をあきらめることになったのだ。
蒼ノ宮家で高まる青年への同情的な声。同時に藍への批判も沸いた。たかが女が竜使いを選んでくれる竜を一頭奪っていった、と。
藍は蒼ノ宮家にいるべきじゃない。あの家を出るべきだ。もっと幅広く活躍の場があるべきだ。もっと藍が生きやすい環境があればいいのに。
この事件から、飛世は藍が生きやすい環境とは何なのか、よく考えるようになった。
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