9 / 13
本編・裏
中編1
しおりを挟む
飛世は藍の教えを受けて、人との関りを増やしていった。
大分考えて話すようになったが、まだ考えが足りていないのか、想定外の状況を生み出してしまった。
藍の任務に引っ付いていたら、保安隊に努める名門貴族・桜宮家の三男坊と知り合いになり、家に遊びに行くまでに親しくなった。
桜宮家は飛世の母の実家でもあったが、飛世自身は初めての訪問であった。もう一度言う。初めての訪問であった。もっと言うと藍と一緒に行った。
なのに『第二王子殿下は再び実家とのつながりを強固にすべく、再び桜宮家を訪れるようになった』という噂になった。
【飛世が正直に世話係にこれから桜宮家に行くって伝えたのが広まった結果だ。伏せればよかったのに。】
藍が竜使いと巫覡という妖・幽霊退治の専門家との共同任務に参加した際に、藍の友達だという貴族・常磐家出身の巫覡の姉弟と知り合い、仲良くなった。
ただ、藍の友達を紹介されて、仲良くなっただけである。
なのに『第二王子殿下は次世代エースの巫覡二人を見抜き、目ざとく仲良くなった』という噂になった。次世代エースだったなんて、噂で知ったのに。
【ちょっとした人見知りで、常磐家で藍の友達としか話さなかったのが良くないんじゃないか?】
姉上の新興貴族・朝比奈家の嫡男への嫁入りの際に、藍が護衛を兼ねて侍女として同行したことから、飛世も嫁入り日に朝比奈家を訪れた。
そこで姉上の暗殺未遂が起きたのを、条件反射で助けてしまっただけである。
なのに『新宰相(朝比奈家当主)は第二王子殿下に忠誠を誓った』という噂になった。助けたのは姉上だ。
【飛世が潜んでいた暗殺者まで見つけ出し、過剰に退治してしまったために、姉姫ではなく朝比奈家を助けたように見えてしまったのだな。】
そんな噂が堆積して、なんと東宮確実と言われるようになってしまった。全部藍のせいじゃないかな?責任取ってくれないかな?
【理由はどうあれ割と早い段階から藍姫と結婚したかったんだな。それは意外だ。】
そんな秋のある日。
「見合いの釣書が30件も?」
藍が”卵狩り”の任務に連れ出してくれて、城にいたくなかった飛世はウキウキしてついてきた。…これだけ藍とよく出かけているのに、全く藍との噂が立たないのが不思議である。
蒼ノ宮家の姫と婚約間近とか。噂になってくれたら30件も調書が来なかっただろうに。
「それが立ち回りというものだ。調書を送るために、噂を立たせないんだ。」
完全に顔に出ていたらしい。藍が飛世の考えを読んで意見を述べてきた。…藍の頭の中ってどうなっているのかな。一人で延々とぶつぶつと考えているのだろうか。
【なんか、失礼なこと考えてるな。】
「それで?第一王子と話したのか?」
飛世はうっと言葉に詰まった。
「会えてもいない…。避けられてるのかも…。」
以前は第一王子と会いたくなさ過ぎて、のらりくらりと対面の機会を躱していた飛世も、何もしなくても第一王子と自分の不仲説が出る状況に、うっとうしいぐらいに仲良くしてちょうどいいのだということを学んだ。
だから気持ちを切り替えて会いたいと思うようになったのに…、兄上は城からいなくなってしまった。
「…藍、私と婚約しない?」
飛世としては大まじめに言っているのだが、いつも藍は取り合ってくれない。それどころか、第二王子の意向は聞いてくれないくせに、蒼ノ宮家の意向は真面目に受け取り、はとこの誰かと結婚するとか言い出す。
正直、蒼ノ宮家の男に藍を任せるに足る男は一人もいない。
まず、弱い。もう二年の付き合いがある蒼ノ宮家で度々若手竜使いたちと剣の稽古をするが、蒼ノ宮姓の竜使いたちは藍たち三兄妹を除いて、強くなる気配がない。
蒼ノ宮姓の竜使いであるだけで彼らにとっては誇らしいことで、そこから成長する気がないのだ。慢心しているとも言う。
そして、頭が固い。藍がどんなに成果を上げても、必ず師匠がいいからとか、飛世がいたからとか、たまたまだとか、言う。
それが10個も100個も続けば…それが誰の力なのか子供でも分かる。そんな男たちが藍を妻にして、どう扱うのか。竜使いをやめさせようとするかもしれない。
…私の嫁に来てくれるのがいいんじゃないか?でも、王子妃が仕事をするのは難しいだろう。どうしたら藍が憂いなく自分に嫁いでくれる状況になるのか、飛世には良い案がわかなかった。
突然、藍が黙り、進行方向とはずれた方向へと走っていく。
「あ、藍?」
慌てて追いかけるとそこには、荒らされた何かの巣の前で待つ、藍の相棒の竜である瑠璃がいた。
ーーーー
そして、事態は異国が絡む大きな事件へと発展し、その解決が兄である第一王子に委ねられた。
飛世はのん気に、兄上がんばれ、なんて思っていたら、藍に突然呼び出された。
「妓楼!?ってあの、え?そこに行くの!?私だけで!?」
以前、藍に花街のご飯屋さんは美味しいと聞いていたので、てっきりご飯を食べに行くんだと思っていた。
(普通は藍が花街に行ったことがあることを疑問に思うべきなのだが、そんな思考回路は飛世にはない。)
「そこに会わせたい人がいる。夕食を予約しておいた。」
花街一の高級店の夕食を藍が予約した…?これはさすがに変だと飛世も思った。
「…なんでそんなことできるの?」
「話は後。時間がない。ほら、行って!」
藍に背中を押され、飛世は渋々と高級妓楼”朱天楼”へ向かった。
大分考えて話すようになったが、まだ考えが足りていないのか、想定外の状況を生み出してしまった。
藍の任務に引っ付いていたら、保安隊に努める名門貴族・桜宮家の三男坊と知り合いになり、家に遊びに行くまでに親しくなった。
桜宮家は飛世の母の実家でもあったが、飛世自身は初めての訪問であった。もう一度言う。初めての訪問であった。もっと言うと藍と一緒に行った。
なのに『第二王子殿下は再び実家とのつながりを強固にすべく、再び桜宮家を訪れるようになった』という噂になった。
【飛世が正直に世話係にこれから桜宮家に行くって伝えたのが広まった結果だ。伏せればよかったのに。】
藍が竜使いと巫覡という妖・幽霊退治の専門家との共同任務に参加した際に、藍の友達だという貴族・常磐家出身の巫覡の姉弟と知り合い、仲良くなった。
ただ、藍の友達を紹介されて、仲良くなっただけである。
なのに『第二王子殿下は次世代エースの巫覡二人を見抜き、目ざとく仲良くなった』という噂になった。次世代エースだったなんて、噂で知ったのに。
【ちょっとした人見知りで、常磐家で藍の友達としか話さなかったのが良くないんじゃないか?】
姉上の新興貴族・朝比奈家の嫡男への嫁入りの際に、藍が護衛を兼ねて侍女として同行したことから、飛世も嫁入り日に朝比奈家を訪れた。
そこで姉上の暗殺未遂が起きたのを、条件反射で助けてしまっただけである。
なのに『新宰相(朝比奈家当主)は第二王子殿下に忠誠を誓った』という噂になった。助けたのは姉上だ。
【飛世が潜んでいた暗殺者まで見つけ出し、過剰に退治してしまったために、姉姫ではなく朝比奈家を助けたように見えてしまったのだな。】
そんな噂が堆積して、なんと東宮確実と言われるようになってしまった。全部藍のせいじゃないかな?責任取ってくれないかな?
【理由はどうあれ割と早い段階から藍姫と結婚したかったんだな。それは意外だ。】
そんな秋のある日。
「見合いの釣書が30件も?」
藍が”卵狩り”の任務に連れ出してくれて、城にいたくなかった飛世はウキウキしてついてきた。…これだけ藍とよく出かけているのに、全く藍との噂が立たないのが不思議である。
蒼ノ宮家の姫と婚約間近とか。噂になってくれたら30件も調書が来なかっただろうに。
「それが立ち回りというものだ。調書を送るために、噂を立たせないんだ。」
完全に顔に出ていたらしい。藍が飛世の考えを読んで意見を述べてきた。…藍の頭の中ってどうなっているのかな。一人で延々とぶつぶつと考えているのだろうか。
【なんか、失礼なこと考えてるな。】
「それで?第一王子と話したのか?」
飛世はうっと言葉に詰まった。
「会えてもいない…。避けられてるのかも…。」
以前は第一王子と会いたくなさ過ぎて、のらりくらりと対面の機会を躱していた飛世も、何もしなくても第一王子と自分の不仲説が出る状況に、うっとうしいぐらいに仲良くしてちょうどいいのだということを学んだ。
だから気持ちを切り替えて会いたいと思うようになったのに…、兄上は城からいなくなってしまった。
「…藍、私と婚約しない?」
飛世としては大まじめに言っているのだが、いつも藍は取り合ってくれない。それどころか、第二王子の意向は聞いてくれないくせに、蒼ノ宮家の意向は真面目に受け取り、はとこの誰かと結婚するとか言い出す。
正直、蒼ノ宮家の男に藍を任せるに足る男は一人もいない。
まず、弱い。もう二年の付き合いがある蒼ノ宮家で度々若手竜使いたちと剣の稽古をするが、蒼ノ宮姓の竜使いたちは藍たち三兄妹を除いて、強くなる気配がない。
蒼ノ宮姓の竜使いであるだけで彼らにとっては誇らしいことで、そこから成長する気がないのだ。慢心しているとも言う。
そして、頭が固い。藍がどんなに成果を上げても、必ず師匠がいいからとか、飛世がいたからとか、たまたまだとか、言う。
それが10個も100個も続けば…それが誰の力なのか子供でも分かる。そんな男たちが藍を妻にして、どう扱うのか。竜使いをやめさせようとするかもしれない。
…私の嫁に来てくれるのがいいんじゃないか?でも、王子妃が仕事をするのは難しいだろう。どうしたら藍が憂いなく自分に嫁いでくれる状況になるのか、飛世には良い案がわかなかった。
突然、藍が黙り、進行方向とはずれた方向へと走っていく。
「あ、藍?」
慌てて追いかけるとそこには、荒らされた何かの巣の前で待つ、藍の相棒の竜である瑠璃がいた。
ーーーー
そして、事態は異国が絡む大きな事件へと発展し、その解決が兄である第一王子に委ねられた。
飛世はのん気に、兄上がんばれ、なんて思っていたら、藍に突然呼び出された。
「妓楼!?ってあの、え?そこに行くの!?私だけで!?」
以前、藍に花街のご飯屋さんは美味しいと聞いていたので、てっきりご飯を食べに行くんだと思っていた。
(普通は藍が花街に行ったことがあることを疑問に思うべきなのだが、そんな思考回路は飛世にはない。)
「そこに会わせたい人がいる。夕食を予約しておいた。」
花街一の高級店の夕食を藍が予約した…?これはさすがに変だと飛世も思った。
「…なんでそんなことできるの?」
「話は後。時間がない。ほら、行って!」
藍に背中を押され、飛世は渋々と高級妓楼”朱天楼”へ向かった。
2
あなたにおすすめの小説
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる