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13.撮影
しおりを挟むスタジオについてすぐ、ヘアメイクと着替えをするために部屋に入る。
今日はLueurの特集の写真を撮る。ひとりでの撮影ではなく、共演者と一緒だ。
同じ専属モデルの、橘 テオ。
白っぽい金髪にヘーゼルナッツのような瞳は外国の血をひいているかららしい。爽やかな王子のようなルックスで大人気だ。
俺も何回も共演したことがあるが、見た目と中身のギャップがすごい。王子様のような外見からは想像できないほど、なんというか、うん、自己肯定感が異様に高いのだ。悪く言うと、ナルシストか。
そんなことを考えながら大人しくメイクをされていると、部屋のドアが開いた。
「やっほー、翠」
「こんにちはー、テオさん」
「テオって呼んでっていつも言ってるのに。何?僕の気を引きたいの?かわいー」
「あーはいはい、そうですね」
「返事が適当すぎて泣く」
ぐすぐすと泣き真似をするテオさんは無視だ。悪い人ではないのはわかっているがグイグイ来るのが少し苦手だったりする。
2人の準備が終わると、撮影場所に移動する。今日の撮影のテーマは『人魚姫』だ。知らない人は少ないだろう有名な昔話。
俺の方は人魚姫モチーフの衣装で、オーガンジーの透ける布や光沢のある布がたくさん使われている。頭には繊細なティアラをのせられた。
テオは王子様モチーフで、中世ヨーロッパ風の衣装が異国風な外見にマッチしている。
やっぱびっくりするくらい外見がいいんだよなこの人。何回も見てるはずなのに見蕩れてしまう。
疑問に思うのだが、俺はやるモチーフって、女性がやった方が良くない?ってやつが多いんだよね。この人魚姫もしかり。文句は言えないけど。
写真を撮るためにまずは指定されたポージングをとる。テオさんが俺をバックハグするポーズだ。
「はーい、じゃあ撮りますね!リラックスしてくださーい」
パシャパシャとシャッターがきられていく。モデル歴は4年だが、未だに撮られるのは緊張してしまう。多分慣れることはないだろう。
俺の体が固いのに気づいたのかテオさんは耳元で囁いた。
「...衣装、似合ってるね」
「絶対自分の方がかっこいいって思ってますよね」
「...んー、そうかもね」
なんか間があったな。
話すことで俺の緊張をほぐそうとしてくれているのがわかるので優しいな、と思う。この人はこういう気遣いができるのだ。
「はーい、いい感じです!次はもうちょっとくっついてみましょうか!」
カメラマンさんそう指示され、さらにテオさんとの距離は縮まる。テオさんの吐息が耳に当たって鼓動が速くなった。こんなに人と接近することはないので当然の結果である。
「僕は?」
「はい?」
「かっこいー?」
ここでかっこいいと言うのは、なんか不本意だ。でもかっこいい以外の言葉が見つからないほど似合っている。
「.....かっこいいです」
そう呟くと、テオさんは少し息を呑んだ。何故かテオさんが俺をハグする手が強くなる。
なんで黙ったままなんだ。何が言ってくれないと俺が恥ずかしすぎる。羞恥で顔が赤くなってる気がする。もーヤダ。
長い沈黙の後、テオさんが呟いた。小さな声だったが、はっきりと聞こえた。
「...かっこいいなんて、言われ慣れてたはずなんだけどな」
どういう意味なんだ。
って言うか、いつもへらへらしているテオさんがこんなに黙ってる時間が長いのは、異常な気がする。疲れているのだろうか。
「テオさんテオさん、あんま仕事詰め込みない方がいいですよ。休んだ方が」
「...そーだね、でも、仕事じゃなきゃ会えない人がいるから」
会いたい人。それは、好きな人と言うやつじゃないだろうか。これだけイケメンなのだから可愛いモデルや女優など、選り取りみどりなんだろうな。
撮影が終わると、いつものように菫さんが寮まで送ってくれた。もう外は暗く、日が落ちている。助手席から降りようとした時、菫さんはぽつ、と呟くように言った。
「撮影のとき、橘さんと何を話してたんですか」
「えっと、テオさんがかっこいいみたいな」
「...そうですか」
「どうかしました??」
「いえ、なんでもないんです」
「そう?それならいいですけど」
車から降りると、菫さんに手を振って部屋に向かう。無表情で手を振る菫さんが可笑しかった。
翠が去ったあとも、1台の黒いベンツは未だ校門の前にあった。運転席に座る男は、いつもは動かない眉をほんの少し歪めた。
今日の撮影を思い出す。
翠の耳元に唇を寄せ、何かを囁く橘。もちろん、離れたところで見ている自分には何を話しているのか聞こえない。それが酷くもどかしかった。
ただ、翠が何か言った時、橘は目を見開き、頬を染めた。すぐに、撮影を止めたい衝動に駆られた。
こういうことは、時々ある。
翠がかわいすぎるのがいけないと思う。そんなに簡単に微笑んだら、周りはすぐにあなたに夢中になってしまうのだから。
もちろん、こんな想いは翠の前ではおくびにも出さない。ただのマネージャーにそんなことを言う権利は無いのだ。仕事で一緒になるだけの関係。それだけだ。
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