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第1話
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伯爵家侍女のマーガストが魔女だったことに気付いた時にはもう遅かった。
魔女は呪われた短剣を振り回し、使用人を傷付けながら逃走を図っていた。怪我をした使用人達は強い痛みを訴え、倒れていく。伯爵令嬢のヴィオレットもその被害者のひとりだった。彼女は呪われた短剣によって、その下腹部に小さな傷を負った。やがて魔女は伯爵家に仕える騎士に取り押さえられ、その場で首を刎ねられた。ヴィオレットは安心した、これでもう大丈夫なのだと。
しかし真の災難はここからだった。
ヴィオレットにはルージュという恐ろしい妹がいた。ルージュは姉を嫌っており、普段からいじめ抜いていた。その妹がこう言った――“姉は魔女の剣を下腹部にを受けて、子供を産めない体になった”と。実際、ヴィオレットは傷を受けた後も、何の変わりもなく月のものが来ていた。しかし妹の悪意によってなされたその発言は王都中を駆け巡り、やがて“伯爵令嬢ヴィオレットは不妊”というレッテルを貼られてしまったのだった。
「ヴィオレットとの婚約をなかったことにしてほしい」
侯爵令息アンセム・パシクールは長い指を髪に絡ませて言った。それを聞いたヴィオレットはティーカップを落としそうになった。婚約者の発言が理解できず、“こんやくをなかったことにしてほしい”という発音が頭の中でただ繰り返される。
「婚約破棄……したいということですかな?」
ヴィオレットの父であるルデマルク伯爵は身を乗り出し、聞き返す。
するとアンセムは深い溜息を吐いた後、大きく頷いた。
「だってヴィオレットは子供が産めない体になったのでしょう? 私は侯爵として子を成さなければならないのです。ですから彼女との婚約は破棄したい」
ヴィオレットはようやくアンセムの言葉の意味が分かった。
子供を産めない女はいらない――彼はそう言っているのだ。
「で、でも……アンセム様……! 私は子供を産めます……!」
ヴィオレットは慌てて発言した。それは紛れもない事実――その証拠に月のものもちゃんと来ている。しかしそのことを殿方に言うのは憚られる。ヴィオレットはこのままだと婚約破棄が決まってしまいそうな気配を感じて、気が気でなかった。そんな中、アンセムは渋い顔をすると、こう言い放った。
「呪いを受けて気でも狂ったのかい? 君はもう傷物だろう――」
「き、傷物……? 傷物とは、私のことですか……?」
「はあ? 君以外に誰がいるんだ?」
ヴィオレットの背中に、じわりと嫌な汗が浮かんでいた。この人は何を言っているのだろうか。婚約者に……いや、ひとりの女性に対して、傷物だなんて。ヴィオレットの中に嫌な感情が渦巻いていく。その時、伯爵が破顔して言った。
「はっはは! 厳しいことをおっしゃる! 確かにうちの娘は愚かにも呪いを受けてしまいましたが、傷物とは――」
「傷物は傷物だろう。私は事実を言ったまでだ」
「そう、ですか」
伯爵は神妙な面持ちで頷くと、「確かに……」と呟いた。
「分かりました。男としてアンセム殿の気持ちは理解できます。姉のヴィオレットとは婚約破棄して下さって構いません。その代わり、妹のルージュと婚約して下さいませんか?」
「え……? 何をおっしゃってるの……お父様……?」
「お前は黙っていなさい」
伯爵はヴィオレットの言葉を遮ると、扉に向けて声をかけた。
「ルージュ! いるんだろう? 入ってきなさい!」
「はぁい、お父様」
ゆっくりと客間の扉が開く――そこには姉ヴィオレットより飾り立てた妹ルージュの姿があった。それはあまりに華美過ぎて、下品にすら見える。そんな彼女はにっこりと微笑むと、アンセムの隣りに腰かけた。すると今まで仏頂面だったアンセムが嬉しそうに顔を緩めたのだ。
「ルージュ、君は女神のようだ」
「あらあら、アンセム様の女神はお姉様でしょう?」
「いいや、この女とはもう縁を切った。これからは君が私の女神だ」
魔女は呪われた短剣を振り回し、使用人を傷付けながら逃走を図っていた。怪我をした使用人達は強い痛みを訴え、倒れていく。伯爵令嬢のヴィオレットもその被害者のひとりだった。彼女は呪われた短剣によって、その下腹部に小さな傷を負った。やがて魔女は伯爵家に仕える騎士に取り押さえられ、その場で首を刎ねられた。ヴィオレットは安心した、これでもう大丈夫なのだと。
しかし真の災難はここからだった。
ヴィオレットにはルージュという恐ろしい妹がいた。ルージュは姉を嫌っており、普段からいじめ抜いていた。その妹がこう言った――“姉は魔女の剣を下腹部にを受けて、子供を産めない体になった”と。実際、ヴィオレットは傷を受けた後も、何の変わりもなく月のものが来ていた。しかし妹の悪意によってなされたその発言は王都中を駆け巡り、やがて“伯爵令嬢ヴィオレットは不妊”というレッテルを貼られてしまったのだった。
「ヴィオレットとの婚約をなかったことにしてほしい」
侯爵令息アンセム・パシクールは長い指を髪に絡ませて言った。それを聞いたヴィオレットはティーカップを落としそうになった。婚約者の発言が理解できず、“こんやくをなかったことにしてほしい”という発音が頭の中でただ繰り返される。
「婚約破棄……したいということですかな?」
ヴィオレットの父であるルデマルク伯爵は身を乗り出し、聞き返す。
するとアンセムは深い溜息を吐いた後、大きく頷いた。
「だってヴィオレットは子供が産めない体になったのでしょう? 私は侯爵として子を成さなければならないのです。ですから彼女との婚約は破棄したい」
ヴィオレットはようやくアンセムの言葉の意味が分かった。
子供を産めない女はいらない――彼はそう言っているのだ。
「で、でも……アンセム様……! 私は子供を産めます……!」
ヴィオレットは慌てて発言した。それは紛れもない事実――その証拠に月のものもちゃんと来ている。しかしそのことを殿方に言うのは憚られる。ヴィオレットはこのままだと婚約破棄が決まってしまいそうな気配を感じて、気が気でなかった。そんな中、アンセムは渋い顔をすると、こう言い放った。
「呪いを受けて気でも狂ったのかい? 君はもう傷物だろう――」
「き、傷物……? 傷物とは、私のことですか……?」
「はあ? 君以外に誰がいるんだ?」
ヴィオレットの背中に、じわりと嫌な汗が浮かんでいた。この人は何を言っているのだろうか。婚約者に……いや、ひとりの女性に対して、傷物だなんて。ヴィオレットの中に嫌な感情が渦巻いていく。その時、伯爵が破顔して言った。
「はっはは! 厳しいことをおっしゃる! 確かにうちの娘は愚かにも呪いを受けてしまいましたが、傷物とは――」
「傷物は傷物だろう。私は事実を言ったまでだ」
「そう、ですか」
伯爵は神妙な面持ちで頷くと、「確かに……」と呟いた。
「分かりました。男としてアンセム殿の気持ちは理解できます。姉のヴィオレットとは婚約破棄して下さって構いません。その代わり、妹のルージュと婚約して下さいませんか?」
「え……? 何をおっしゃってるの……お父様……?」
「お前は黙っていなさい」
伯爵はヴィオレットの言葉を遮ると、扉に向けて声をかけた。
「ルージュ! いるんだろう? 入ってきなさい!」
「はぁい、お父様」
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「あらあら、アンセム様の女神はお姉様でしょう?」
「いいや、この女とはもう縁を切った。これからは君が私の女神だ」
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