4 / 12
第3話 ハリオット伯爵視点
しおりを挟む
クララが裁判所に現れた――儂はそれを見て、ほくそ笑む。
こいつ、見たところ何も分かっていないな。自分がこれから有罪判決を受けるとは、思っていないのだろう。きょろきょろと周囲を見渡すばかりだ。
やがてクララは被告席に立たされた。原告マイルズも、証人ロナウドも、裁判官も、傍聴人も座っている。自分だけ立たされているのが、不安な様子だ。これから始まるのは公正な裁判官による裁判だが、クララは必ず有罪になる。
やがて木槌が三度打ち鳴らされた。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! これより開廷する!」
裁判官がそう宣言し、裁判が始まった。さて、クララはどう裁かれるのか。
「本法廷における審理を主宰するのは、この私リチャード・フレッカー裁判官である。原告は前に出て、女神像へ宣誓せよ」
「原告マイルズ・ミルは女神様に誓って、この法廷で真実を述べると誓います」
「宜しい。廷吏は罪状を読み上げよ」
そして廷吏が声を響かせる。
「罪状を読み上げます! ハリオット伯爵家の女中クララは、同じく伯爵家の小間使いマイルズ・ミル氏を空き家に呼び出し、その頭を壺で殴りました! そして身動きできないマイルズ・ミル氏を性的に辱めたのです! 傷害及び強姦の罪です!」
その罪状に傍聴人が、大きくどよめいた。ふふ、そりゃあそうだ。十二歳の小娘が、二十五歳の男を犯したのだ。どうだ? 儂が考えた罪は、最高の見世物だろう?
その時、クララが手を上げて発言した。
「あのう……性的に辱めたって何ですか……?」
儂は、吹き出しそうになった。馬鹿な小娘が! お前に発言権はない!
「被告クララは、本法廷で発言してはならん。一度でも嫌疑をかけられた者は、法廷での発言権を失う。発言したければ、弁護人に頼むがよい」
「べんごにん……? どうやって頼むのですか……?」
「金銭を支払って依頼するのだ。裁判の前に雇わなかったのか?」
「はい……雇ってません……。お金がないので……」
「ならば、発言はできない」
今にも笑いそうだった。指を差して笑いたかった。しかし儂は膝を揺らして堪える。しかしマイルズが証言を始めると、儂はついに笑ってしまった。
「事件が起きたのは五日前の夕方です。俺はクララから“大切な話がある”と書かれた手紙をもらい、サフィル街の空き家に呼び出されました。そしてひとりで行くと、いきなり頭を殴られたのです。クララはそうやって自由を奪うと、俺のズボンを降ろしました。そして自らのスカートを捲り上げて……あぁ……――」
そこでようやくクララが青ざめた。おやおや、流石に分かったのか。可哀想に。
そのまま裁判は進んでいった。空き家に駆けつけたロナウドの証言、治安官が近隣住民に聞き取りを行った際の調書、殴られた傷の診断書……クララを有罪にするための証拠はいくらでもあった。
そして裁判官が、木槌を鳴らした。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! 本法廷は、被告クララが原告マイルズ・ミル氏に対し、傷害と強姦を行ったものと認定する! よって原告側の勝訴! 被告側には、絞首刑を言い渡す! 幼くも恐ろしき犯罪者よ! 死をもって罪を償え!」
やった! やってくれた! 裁判官はまんまと有罪判決を下してくれた! クララを見ると、顔面蒼白で震えていた。
「絞首刑って……もしかして縛り首のこと……? 私、死刑なの……?」
クララは涙を流し、その場に崩れ落ちる。
「首吊りで死ぬの……? 嘘ですよね……? あ、あのう……嘘ですよね!? 全部嘘なんですよね!? うっ……ううぅ……嘘だぁ……! 嘘って言ってよぉ……! いや……いやあああああああああああああああッ!」
これでユクル公爵とポーラの娘はお仕舞だ! この儂に屈辱を与えた夫妻の娘は、死刑となる! この光景を、夫妻に見せてやれないのが残念だ!
最高の気分だった。今すぐに立ち上がって、クララに罵声を浴びせてやりたかった。しかし今はじっと我慢して、閉廷を待つしか――
「待てッ! その判決は、間違っているッ!」
「その通りだッ! 今すぐ彼女を解放しろッ!」
突如、裁判所の扉が開き、身なりの良い紳士と見目麗しい少年が飛び込んできた。金髪に夕陽色の瞳をした紳士。銀髪に瑠璃色の瞳をした美少年。少年は身元が分からないが、この紳士はよく知っている……! なぜここにいるのだ……!?
紳士は裁判官に歩み寄り、声を上げる。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
その言葉に、儂は凍り付いた――
こいつ、見たところ何も分かっていないな。自分がこれから有罪判決を受けるとは、思っていないのだろう。きょろきょろと周囲を見渡すばかりだ。
やがてクララは被告席に立たされた。原告マイルズも、証人ロナウドも、裁判官も、傍聴人も座っている。自分だけ立たされているのが、不安な様子だ。これから始まるのは公正な裁判官による裁判だが、クララは必ず有罪になる。
やがて木槌が三度打ち鳴らされた。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! これより開廷する!」
裁判官がそう宣言し、裁判が始まった。さて、クララはどう裁かれるのか。
「本法廷における審理を主宰するのは、この私リチャード・フレッカー裁判官である。原告は前に出て、女神像へ宣誓せよ」
「原告マイルズ・ミルは女神様に誓って、この法廷で真実を述べると誓います」
「宜しい。廷吏は罪状を読み上げよ」
そして廷吏が声を響かせる。
「罪状を読み上げます! ハリオット伯爵家の女中クララは、同じく伯爵家の小間使いマイルズ・ミル氏を空き家に呼び出し、その頭を壺で殴りました! そして身動きできないマイルズ・ミル氏を性的に辱めたのです! 傷害及び強姦の罪です!」
その罪状に傍聴人が、大きくどよめいた。ふふ、そりゃあそうだ。十二歳の小娘が、二十五歳の男を犯したのだ。どうだ? 儂が考えた罪は、最高の見世物だろう?
その時、クララが手を上げて発言した。
「あのう……性的に辱めたって何ですか……?」
儂は、吹き出しそうになった。馬鹿な小娘が! お前に発言権はない!
「被告クララは、本法廷で発言してはならん。一度でも嫌疑をかけられた者は、法廷での発言権を失う。発言したければ、弁護人に頼むがよい」
「べんごにん……? どうやって頼むのですか……?」
「金銭を支払って依頼するのだ。裁判の前に雇わなかったのか?」
「はい……雇ってません……。お金がないので……」
「ならば、発言はできない」
今にも笑いそうだった。指を差して笑いたかった。しかし儂は膝を揺らして堪える。しかしマイルズが証言を始めると、儂はついに笑ってしまった。
「事件が起きたのは五日前の夕方です。俺はクララから“大切な話がある”と書かれた手紙をもらい、サフィル街の空き家に呼び出されました。そしてひとりで行くと、いきなり頭を殴られたのです。クララはそうやって自由を奪うと、俺のズボンを降ろしました。そして自らのスカートを捲り上げて……あぁ……――」
そこでようやくクララが青ざめた。おやおや、流石に分かったのか。可哀想に。
そのまま裁判は進んでいった。空き家に駆けつけたロナウドの証言、治安官が近隣住民に聞き取りを行った際の調書、殴られた傷の診断書……クララを有罪にするための証拠はいくらでもあった。
そして裁判官が、木槌を鳴らした。
「静粛に! 静粛に! 静粛に! 本法廷は、被告クララが原告マイルズ・ミル氏に対し、傷害と強姦を行ったものと認定する! よって原告側の勝訴! 被告側には、絞首刑を言い渡す! 幼くも恐ろしき犯罪者よ! 死をもって罪を償え!」
やった! やってくれた! 裁判官はまんまと有罪判決を下してくれた! クララを見ると、顔面蒼白で震えていた。
「絞首刑って……もしかして縛り首のこと……? 私、死刑なの……?」
クララは涙を流し、その場に崩れ落ちる。
「首吊りで死ぬの……? 嘘ですよね……? あ、あのう……嘘ですよね!? 全部嘘なんですよね!? うっ……ううぅ……嘘だぁ……! 嘘って言ってよぉ……! いや……いやあああああああああああああああッ!」
これでユクル公爵とポーラの娘はお仕舞だ! この儂に屈辱を与えた夫妻の娘は、死刑となる! この光景を、夫妻に見せてやれないのが残念だ!
最高の気分だった。今すぐに立ち上がって、クララに罵声を浴びせてやりたかった。しかし今はじっと我慢して、閉廷を待つしか――
「待てッ! その判決は、間違っているッ!」
「その通りだッ! 今すぐ彼女を解放しろッ!」
突如、裁判所の扉が開き、身なりの良い紳士と見目麗しい少年が飛び込んできた。金髪に夕陽色の瞳をした紳士。銀髪に瑠璃色の瞳をした美少年。少年は身元が分からないが、この紳士はよく知っている……! なぜここにいるのだ……!?
紳士は裁判官に歩み寄り、声を上げる。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
その言葉に、儂は凍り付いた――
248
あなたにおすすめの小説
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!
金峯蓮華
恋愛
愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。
夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。
なのに私は夫に殺された。
神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。
子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。
あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。
またこんな人生なら生きる意味がないものね。
時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。
ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。
この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。
おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。
ご都合主義の緩いお話です。
よろしくお願いします。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。
私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる