借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた

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第60話 山小屋への帰還

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 昼ぐらいに起きたら、ユミが手を握って座っていた。

 ずっと俺を見ていたらしい。寝る前までは怒っていたはずなんだけど……あ、俺が刺繍したマジックバッグを肩からぶら下げている。

 プレゼント効果で機嫌が直ってくれたみたいだ。

 さすが圭子さん。頼りになる。アドバイスに従って良かった。

「マスター、おはようございます。お腹は減ってますか?」

 そういえば何も食べてない。空腹でお腹が鳴ってしまい、ユミがくすりと笑った。

 昆虫と戯れているときと同じぐらい楽しそうだ。俺がお腹減ると面白いのかな。

「うん。お腹ペコペコだよ。何かある?」
「マスターの好きなミートパスタがあります。今から茹でるので、リビングでお待ちください」

 すっーと立ち上がって、ユミは部屋を出て行った。

 離れてしまった手が名残惜しい。もう少し握っていたかったな。

 そんなことを思いながら、布団から出て立ち上がる。

「うーーんっ!」

 体を伸ばすと骨がボキボキと鳴った。凝っていたみたいだ。

 ストレッチをして筋肉をほぐし、着替えをしてからリビングへ入ると、ミートソースの美味しそうな匂いがした。

 ばーちゃんの姿はない。

 台所からユミの歌声が聞こえている。昆虫しりとり的な歌詞なんだけど、きっとオリジナルなんだろうな。

 何もすることがないので、俺は畳に座って料理が運ばれるのを待つ。

「マスタ~、用意できました~!」

 エプロン姿のユミがトレーを持ちながらやってくると、ミートパスタが入った皿をテーブルに置いてくれた。

 フォークを手に取ってパスタを巻いて口に入れる。トマトの酸味と肉の旨みが口の中に広がった。ニンニクも入れているみたいで、ほんのりと香りがする。

「ソースは私が作ったんですけど、どうですか?」
「すごく美味しいよ」

 市販のソースと比べても遜色ないぐらいだ。知らない間に料理の腕が上がっている。

 見えないところで努力を続けていたんだろうな。

「ばーちゃんの姿が見えないけど、どうしたの?」
「会合があるとのことで、朝早くから出かけています」

 年寄りは理由もなく集まる。お互いの生存確認をしながら、孫自慢でもしているのだろう。

 ばーちゃんには子供が居ないけど、きっとユミのことを話しているんじゃないかな。そんな姿を想像してしまった。

「マスターは、これからどうされます?」

 ユミのヘルメットを受け取るためだけに来たので、他に用事はない。

 長居するのも悪いし、そろそろ帰るとしようか。

「クロちゃんの様子も気になるし、山小屋に戻ろう」
「わかりました。すぐに準備しますね」

 ユミは立ち上がると、ダイニングを出て行ってしまった。

 ヘルメットや俺がもらった革鎧を倉庫へ運ぶつもりなんだろう。料理をしたばっかりなんだから休めばいいのに。働き者だな。

 ミートパスタを食べ終えて休んでいると、ユミが戻ってきた。

 思っていたよりも早い。

 何かあったのかなと思って姿を見る。ヘルメットを装着し、探索用のワンピース、プレゼントしたマジックバッグを肩からぶら下げていた。手には剣と盾に分けられたミスラムがある。

「マスター、次の探索は、これで行こうと思うんですが、どうでしょうか?」

 くるりと回って裏側まで見せてくれた。

 準備って、そういうことだったの!?

「いいね。かわいさと防御力を兼ねた最強の装備だよ」
「えへへ、ありがとうございます」

 照れながらも喜んでくれた。

 この姿を見られるのも、プレゼントをしたからだ。本当に圭子さんには頭が上がらない。

「それじゃ、マスターも着替えてください」

 ばーちゃんから押しつけられた革鎧が、どんと置かれた。

 他にも付属品のガントレットやブーツや、下に着る服もある。

 ヘルメットもお気に入りだから、探索者スタイルで帰ろうって感じか。

 新しい物はすぐに使いたいからな。その気持ちはすごくわかる。

 寝巻きから探索者用の装備に着替えると、素材保管施設のある離れの倉庫へ移動した。

 床には転移門がある。

「急にいなくなったら、ばーちゃん心配しないかな?」
「マスター、今日帰ると伝えているので大丈夫ですよ。むしろ残っていた方が驚きます」
「そっか。さすがユミだね」

 準備できて偉いと頭を撫でる。ヘルメットがズレるから嫌がるかなと思ったけど、嬉しそうにしていてよかった。

 倉庫には、ばーちゃんが過去に錬成した物がいろいろと転がっていて、調査に使えそうなのがあったので拝借しておく。比較的、新しい物もあったので活躍してくれることだろう。

「さて、そろそろ行こうか」

 後ろを見て倉庫のドアがしっかりとしまっていて、施錠されているのを確認する。周囲に俺たち以外の存在はいない。

 精霊や使い魔に監視されているような視線もなし。

 転移門を使う条件は満たした。

 円盤に魔力を流し込んで起動させると、空間の一部が割れて別の部屋が映し出された。

 あれは山小屋にある俺とユミが使っている場所だ。

「誰もいないようですね。クロちゃんは、しっかりと仕事をしてくれているようです」

 彼……といっていいのか分からないけど、クロちゃんには山小屋の警備をお願いしている。俺や誠たち以外の侵入者がいたら捕縛をするか、難しければ撤退して情報を持ち帰る任務を与えているのだ。

 魔物と話せる人工精霊がいるなんて、誰も想像できないだろうから、必死に追ってくることはないだろう。生還できる見込みは高かった。

「ユミがしっかりと躾したからだね」
「マスターのためですから」

 真面目で努力家らしい言葉だ。

 怒り、悲しみ、喜び、そして誰かのために頑張る。

 死後になってようやく、普通の人間らしいことができていることが嬉しかった。
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