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6 最終話
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さて、お義母様はあっけなく現行犯逮捕されました。
逮捕といっても警察に捕まったわけではありませんが、コンテスト会場でライバルの作品に除草剤を入れていたところを、エルヴィール先生とその仲間に確保された次第です。予想していたことがあまりにもそのまま起こったので、拍子抜けするほどでした。
確保されたとき、お義母様はわめき散らして身の潔白を訴えたそうです(除草剤を入れているところを捕まったのに、訳分からん)。かなり往生際が悪かったらしく「花の様子を見に来ただけだ」とか「わたしの作品を汚しているやつがいないか気になった」など、思いつく限り叫んだとのこと(汚している犯人はお前だろうが)。最終的には「わたしが悪かったから、どうか内密にしてくれ」「お金は出すから許して」と顔をぐちゃぐちゃにして泣いていたそう……。
”花の狂人”ジョアンナ確保の知らせは社交界を駆け巡り、ただでさえ友達のいなかったお義母様は数少なかった信頼まで失いました。
過去のコンテストでお花が枯れていた件も、お義母様が犯人であろうと皆が思いました。過去に関しては証拠がないはずですが、もはや疑いなしの状況です。しかたありません。罪というものは所詮、人間どうしが定めたこと。人々が有罪だと思えば、たとえ罪を犯していなくても有罪になってしまうのです。
珍しいことではありません。そもそも法を定めるというのは、「これは悪いことだよね」という大多数の同意のもと成り立っています。たまに法治国家の頭でっちかちが法を振りかざしますが、法自体が人間どうしの意思で決めているのですから、人間たちの印象でしかないのです。貴族界における自身の印象をガタ落ちさせてしまったお義母様は、顔を上げて歩けないでしょう。
***
除草剤事件発覚から一週間後、私は家でお義母様に呼び出されました。
「あんた! 庭の花の手入れが行き届いていないじゃない! どういうこと?」
恥ずかしさのあまり部屋に引きこもっていたかと思っていたら、お義母様は急に出てきて私に八つ当たりしてきました。私は決められた庭仕事を終えていて、手抜きもしていません。
つまりいつものヒステリーを被ったわけですが、この日は怒りというより、安心感を覚えました。意外に元気だな、と。
そのふてぶてしさに呆れつつ、私は冷静になりました。今となってはお義母様に味方する人間は誰一人いないのですから、恐れる必要もありません。
「ご自分がお植えになったのですから、ご自分でお世話なさってはいかがです? ほら、お得意の除草剤をたっぷり撒けば、きっと美しい花を咲かせますよ。あっははははは!」
「な、なんですってあんた……うぅうぅ、覚えてなさい」
傲慢なお義母様でもさすがに言い返せないらしく、もごもごとつぶやきながら去っていきました。当然といえば当然です。私だけでなく家族や使用人の皆に迷惑をかけているのですから。お義母様の悔しそうな表情といったら、あまりにも弱弱しくて、とても私をいじめつくしていた人間とは思えませんでした。
それから私は義実家を出るまでの間、お義母様に遠慮することなく、好きに過ごしました。それどころか、お義母様とすれ違うたびに「除草剤を撒きたくなったらいつでもご指示ください」と笑顔で煽ってやりました。お義母様はそう言われると、さすがに控えめには睨んできますが、何も言わず立ち去ります。もはや命令もしてきません。
ああ、いい気味だなあ!
お義母様が普段から私のことをよくしてくれていたら、除草剤の事件だってかばってあげたかもしれないけど、助けるわけありません。私に嫌な思いをさせてきた報いを存分に受けてください。家族から呆れられ、社交界からは完全に爪弾きにあった”花の狂人”の没落は、自業自得と言えます。
***
オーギュスト様と新居に移る前日の夜、お義母様はとうとう本物の狂人になりました。「キャハハハ」という甲高い奇妙な笑い声が屋敷の奥まで響いてきたため、私を含め、寝ていた皆が庭園に出ました。すると、お義母様はパジャマのままスキップをして、庭園の隅々にまで除草剤を撒いていたのです。それも効き目の一番強いやつを撒いたようで、翌日にはあらゆる花が枯れていました。
……一輪の花を除き。
「この花は……枯れてないわね」
出立の朝、除草剤がたっぷり振りかかったにもかかわらず満開に咲く一輪の花を指差しつつ、私は仲の良い使用人に話しかけました。
「この花は、ジョアンナ様がお花を植えはじめた頃、エルヴィール先生にアドバイスされて植えた花です。育てやすく、枯れにくいからということで……」
「そうなんだ。……生き残ってよかったわね」
「はい、わたしもこの花大好きなんで」
私はその花の花弁に振りかかった除草剤を振り払ったあと、新居に向かう馬車に乗り込み、次の生活への一歩を踏み出したのでした。
逮捕といっても警察に捕まったわけではありませんが、コンテスト会場でライバルの作品に除草剤を入れていたところを、エルヴィール先生とその仲間に確保された次第です。予想していたことがあまりにもそのまま起こったので、拍子抜けするほどでした。
確保されたとき、お義母様はわめき散らして身の潔白を訴えたそうです(除草剤を入れているところを捕まったのに、訳分からん)。かなり往生際が悪かったらしく「花の様子を見に来ただけだ」とか「わたしの作品を汚しているやつがいないか気になった」など、思いつく限り叫んだとのこと(汚している犯人はお前だろうが)。最終的には「わたしが悪かったから、どうか内密にしてくれ」「お金は出すから許して」と顔をぐちゃぐちゃにして泣いていたそう……。
”花の狂人”ジョアンナ確保の知らせは社交界を駆け巡り、ただでさえ友達のいなかったお義母様は数少なかった信頼まで失いました。
過去のコンテストでお花が枯れていた件も、お義母様が犯人であろうと皆が思いました。過去に関しては証拠がないはずですが、もはや疑いなしの状況です。しかたありません。罪というものは所詮、人間どうしが定めたこと。人々が有罪だと思えば、たとえ罪を犯していなくても有罪になってしまうのです。
珍しいことではありません。そもそも法を定めるというのは、「これは悪いことだよね」という大多数の同意のもと成り立っています。たまに法治国家の頭でっちかちが法を振りかざしますが、法自体が人間どうしの意思で決めているのですから、人間たちの印象でしかないのです。貴族界における自身の印象をガタ落ちさせてしまったお義母様は、顔を上げて歩けないでしょう。
***
除草剤事件発覚から一週間後、私は家でお義母様に呼び出されました。
「あんた! 庭の花の手入れが行き届いていないじゃない! どういうこと?」
恥ずかしさのあまり部屋に引きこもっていたかと思っていたら、お義母様は急に出てきて私に八つ当たりしてきました。私は決められた庭仕事を終えていて、手抜きもしていません。
つまりいつものヒステリーを被ったわけですが、この日は怒りというより、安心感を覚えました。意外に元気だな、と。
そのふてぶてしさに呆れつつ、私は冷静になりました。今となってはお義母様に味方する人間は誰一人いないのですから、恐れる必要もありません。
「ご自分がお植えになったのですから、ご自分でお世話なさってはいかがです? ほら、お得意の除草剤をたっぷり撒けば、きっと美しい花を咲かせますよ。あっははははは!」
「な、なんですってあんた……うぅうぅ、覚えてなさい」
傲慢なお義母様でもさすがに言い返せないらしく、もごもごとつぶやきながら去っていきました。当然といえば当然です。私だけでなく家族や使用人の皆に迷惑をかけているのですから。お義母様の悔しそうな表情といったら、あまりにも弱弱しくて、とても私をいじめつくしていた人間とは思えませんでした。
それから私は義実家を出るまでの間、お義母様に遠慮することなく、好きに過ごしました。それどころか、お義母様とすれ違うたびに「除草剤を撒きたくなったらいつでもご指示ください」と笑顔で煽ってやりました。お義母様はそう言われると、さすがに控えめには睨んできますが、何も言わず立ち去ります。もはや命令もしてきません。
ああ、いい気味だなあ!
お義母様が普段から私のことをよくしてくれていたら、除草剤の事件だってかばってあげたかもしれないけど、助けるわけありません。私に嫌な思いをさせてきた報いを存分に受けてください。家族から呆れられ、社交界からは完全に爪弾きにあった”花の狂人”の没落は、自業自得と言えます。
***
オーギュスト様と新居に移る前日の夜、お義母様はとうとう本物の狂人になりました。「キャハハハ」という甲高い奇妙な笑い声が屋敷の奥まで響いてきたため、私を含め、寝ていた皆が庭園に出ました。すると、お義母様はパジャマのままスキップをして、庭園の隅々にまで除草剤を撒いていたのです。それも効き目の一番強いやつを撒いたようで、翌日にはあらゆる花が枯れていました。
……一輪の花を除き。
「この花は……枯れてないわね」
出立の朝、除草剤がたっぷり振りかかったにもかかわらず満開に咲く一輪の花を指差しつつ、私は仲の良い使用人に話しかけました。
「この花は、ジョアンナ様がお花を植えはじめた頃、エルヴィール先生にアドバイスされて植えた花です。育てやすく、枯れにくいからということで……」
「そうなんだ。……生き残ってよかったわね」
「はい、わたしもこの花大好きなんで」
私はその花の花弁に振りかかった除草剤を振り払ったあと、新居に向かう馬車に乗り込み、次の生活への一歩を踏み出したのでした。
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