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四章 残された時間
五十三話 カミサマの悪戯
しおりを挟む――師走はその名前の通り一瞬で過ぎて行った。
普段の受験勉強に加え、学校主催の冬期講習に通う日々。
しかし、学校では陸上部の姿が目に入ってしまって中々集中することが出来なかった。
いろいろと考えた結果、秋人の行っている塾を紹介してもらうことにしたのだ。募集はすでに終わっていたけど、何とか頼み込んで何とかねじ込んでもらった。母さんは急なことに驚いていたが、「アンタの好きにしなさい。ただし、やるならちゃんと受かること!」と最終的には許可してくれた。
(母さんのためにもちゃんと受からないと)
そうして勉強漬けのクリスマスが過ぎ、正月がやってくる。
さすがに正月は塾も休みなので、束の間の休みである。とはいえ、勉強していないのは何となく嫌で、でも勉強する気も起きなくて、ほとんど進んでいないワークを前に、だらだらとする。
時々みかんを食べながら、冬香の好きなアイドルの番組に茶々を入れていれば、母さんに「アンタたち、そんなに暇なら初詣行くわよ!」と引っ張られた。
「なんで私まで……」
「いいじゃない。お兄ちゃんの合格祈願してあげなさい」
むすくれる冬香に、母さんが言う。
(いや別に、いらねーんだけど)
なんて言ったら確実に腹に鉄槌が下されるので、俺は大人しく黙っておいた。
びゅうっと風が吹き、凍てつくような寒さに身を震わせる。
(うう……やっぱりマフラーしてくればよかった)
日が出てるし、動いたら暑くなるだろうと思って、置いてきてしまった。今日はいつもよりも気温も高いってお天気のお姉さんが言っていたし。
でもまさかこんなに風が強いなんて思わなかった。
身を縮こまらせていれば、神社が見えてくる。
うちの神社は有名ではないものの、そこそこ地元の人たちが集まる神社で、三が日の参拝者は結構多い。
そのため、参拝まで並ぶ必要があるのだが――。
「なんか、今回多くね?」
「そう? いつも通りじゃないかしら」
俺の呟きに、母さんが興味なさげに応える。
(いやいや。絶対多いって)
いつもなら三十分か、長くて一時間くらいの列の長さなのに、目の前の列はどう見ても三時間は並ぶコースだ。
(どこをどう見たらいつもと一緒って言えるんだよ)
列を睨みつけていれば、冬香が「え? なにお兄、知らないの?」と口にした。
「何が?」
「新しくできたお守りの話。すっごい可愛いお守りが出来たってSNSで結構話題になってたんだよ」
「ほら」と冬香が写真を見せてくる。……確かに。なんかすごい綺麗なお守りが出来ている。
透明感あるお守りには『恋実守』と書かれており、すごい数のいいねとコメントが来ていた。コメントを開けば「可愛い~!」「私も欲しい~!」と肯定的な声がずらりと並んでいる。
「いつの間に」
「いつもすぐに売り切れるからって、みんな必死なの」
「私も欲しい~」と冬香がスマートフォンを胸に当て、目を閉じる。思いを馳せるような表情に、俺は雷に打たれた気持ちになった。
(も、もしかして、誰か好きな人がいるのか!?)
あの!! 冬香に!! 好きな人!!!
(こうしちゃいられない)
大切な大切な妹を守るためだ。さりげな~く聞き出して、さりげな~く相手を知り、冬香にバレない範囲で牽制しなければ。
冬香に邪な気持ちを抱く人類など、滅亡すればいい。
「……お兄、変なこと考えんのやめてくれない?」
「ハッ! へ、変なことなんて考えてないぞ!」
「誤魔化し方下手過ぎじゃない?」
じっとりとした冬香の目が俺を見つめる。「どうせ『俺が冬香を守らなきゃ~!』とか思ってたんでしょ。気持ち悪い」と吐き捨てられる。
容赦のない言葉に、俺は泣きそうだ。
(でもめげない。俺は兄だから)
何かの漫画に出て来そうなセリフを心の中で口にしながら、俺は頑張って自分の心を保つ。
冬香はツンデレなのだ。
だからこんなことでめげていては、兄は務まらない。
家族で参拝の列に並ぶ。その前に通った参道には、屋台がたくさん立ち並んでいた。
たこ焼き、イカ焼き、りんご飴、ベビーカステラ……エトセトラ、エトセトラ。
その風景は文化祭の時と似ていて、ついつい思い出してしまう。
(……この光景をあいつが見たら、目を輝かせるんだろうな)
文化祭の日。
結局屋台を端から端まで制覇した甘利は、スポーツ系の部活の中では伝説の男になっているらしい。夏生が珍しく楽しそうに話してくれた。
思い出し笑いをする俺に、冬香が「え、何。きもっ」と呟く。鋭い言葉が胸に突き刺さる。……痛い。
(あいつは今、どうしてるんだろうな)
甘利とはあれ以来、顔を合わせていない。
俺が徹底的に避けているのもあるが、甘利が来なければ俺たちの接点なんて元々こんなものだったのかもしれない。
それに寂しさを覚えることはあっても、会いに行こうとは思えなかった。
(……もしあいつが告白をしてこないか、もしくは俺がもっと上手く断れていたら、今頃一緒に居たかもな)
正月だけじゃない。クリスマスも、ハロウィンも。
テストもあったし、そのご褒美とか、何かしら理由をつけて一緒に居られたかもしれない。
「……たらればばっかで、ほんっと女々しい」
俺は吐き捨てるように呟く。
馬鹿なことは考えるもんじゃない。
そもそも、俺がいなくても甘利の周りには甘利を愛してくれる沢山の人がいるんだから、俺の事なんか忘れてその人たちと案外仲良くやっているかもしれないんだから。
(たとえば、美浦さんとか)
文化祭のミスコンで優勝した美浦さんは、甘利の隣に立っても引けを取らないほどの美女だ。
俺なんかとは雲泥の差なわけで。
『あの二人、美男美女でお似合いだよね~』
『知ってる? あの二人、付き合い始めたんだって』
学校中に広がる噂。
……その真偽は俺にはわからないけれど、あながち間違いじゃないと思っている。
俺の教室は、練習中の陸上部の面々がはっきり見える位置にあるのだから、二人の様子がどうなのかは結構把握しているつもりだ。
(あーあ。嫌なこと思い出したなぁ)
新年早々何をしているんだ、俺は。
今度は大きくため息を吐けば、「一人で百面相とかヤバイ人みたい」と冬香が呟く。聞こえてるからな。兄ちゃん、そろそろ泣くぞ。
「お前も、大人になったらわかるよ」
「大人って、四つしか違わないでしょ。ていうか、お兄が大人とか絶対ないわ」
「お前なぁ……」
ぷぷ、と馬鹿にするように笑う冬香に、俺は「あーもう!」と声を上げる。前で談笑していた父と母が驚いた顔で振り返った。
「俺、ちょっと甘酒でも買って来るわ。さみぃし」
「あ、私も欲しい」
「都合がいいな……」
「父さんと母さんは?」と問えば「私達も欲しいわ~」と呟く。
父さんが財布を出し、「これで買ってきなさい」と千円札を三枚くれた。
(よっしゃ)
自分のお年玉が守られたことに、俺は内心ガッツポーズをする。上手くやれば、多少くすねることが出来るかもしれない。
「春。おつりはちゃんとお父さんに返しなさいよ」
「わ、わかってるって!」
先手を打つ母に、俺は肩を落とした。
ああ言われたら、もうくすねることは出来なくなった。
むすっとしながら、俺は列を抜け、人混みを掻き分けていく。
寒かった体は人混みの中を移動したことで温かくなり、背中にはじんわりと汗を掻き始めた。
参拝を終えて帰って行く人の流れに沿って来た道を戻っていれば、ようやく広い道に出ることが出来た。
「バズったにしても、人多すぎだろ……」
歩くだけで疲れるんだけど。
文句が口を突いて止まらない。はぁ、とため息を吐いて、俺は静かに甘酒の屋台を目指した。
甘酒を売っている屋台は、列の中腹にあった。
道が別れているところで、少し人混みから外れている。その先は本堂ではない、別の小さな堂があるらしいが、あれがなんなのか俺は知らない。
「すみません。甘酒四つ――」
「……春、先輩?」
体が固まる。聞き覚えのある声。
聞くのは久しぶりなのに、不思議と懐かしいとは思わなかった。
「あ、まり……」
振り返った先にいた後輩は、相変わらずデカくて、キラキラしてて――とても目立つ存在だった。
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