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一章 歪な世界
4-1 本の部屋
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「ちょっと待っててね。今そっち行くから」
蜜希さんの言葉に、ハッとする。
落ちていた意識が引っ張り上げられた気分だった。
蜜希さんは窓を閉めると、ご丁寧にカーテンを閉めた。
足元の本を踏まないよう、慎重にこっちへ渡って来る。
俺はその様子を見つめていた。
「よいっしょっと。ふぅ」
「あの……ここ、蜜希さんの部屋なんですか?」
廊下に出て来て一息を付く蜜希さんに、俺は問いかける。
蜜希さんは目をぱちくりとさせて、「なんで?」と質問を質問で返した。
「いえ、何となくそう思いまして」
「ええ~? 本当にぃ~?」
「?」
「僕の部屋だって知って、一体何をするつもりだったの?」
ニヤニヤと笑いながら言う蜜希さん。
その言葉と意図に気が付いて、俺はカッと顔が赤くなる。
「なっ! 何もしませんよっ!」
「ええ~、うっそだぁ」
「嘘じゃないです!」
(なんでそういうことになるんだ!)
俺は憤慨する。蜜希さんは「ごめんごめん、冗談だよ」と言って笑った。
屈託のない笑顔に、俺はムッとする。
蜜希さんはそうだなぁ、と呟いた。
「ここは、僕の部屋じゃないよ」
「えっ。そうなんですか?」
「うん」
蜜希さんは頷く。
「でも、大事な場所だよ。掃除しようって思ってて、ずっと出来てないくらいには」
蜜希さんの目が、近くの本棚を見つめる。
……確かに。
言われてみれば、この部屋はどの場所よりも埃が分厚く募っている。
(掃除が出来ない)
それは言葉のまま受け取ってもいいものなのだろうか。
それとも、何か理由があるのか。
俺は蜜希さんを見た。
(また、あの目だ)
寂しそうな、どこか遠くに行ってしまいそうな目。
今を見ていないその視線に、俺は小さな苛立ちを覚えた。
「掃除したいなら、俺が手伝いましょうか?」
「暁月くんが?」
「はい」
間髪入れずに頷く。
蜜希さんは少し驚いた後、破顔した。
「えぇ? 足の踏み場もなさそうな家に住んでる君が? 掃除何か出来るの?」
「うっ……あ、あれは、ちょっと荒れてただけで……元々、小さい頃から自分の部屋の掃除は自分でしてましたし、大丈夫です」
「ふーん?」
「何ですか」
「いや、ほんとかなぁって思って」
ニヤニヤ。ニヤニヤ。
蜜希さんは揶揄うように俺を見る。
(絶対に信じてないだろ)
「本当ですよ。……って言っても、部屋の写真もないんで証明は難しいですけど」
「ふふふ。何もそこまでしなくていいのに」
蜜希さんは笑う。
俺を見て、「暁月くんは真面目だねえ」と俺の頭を撫でた。
(なっ!?)
――何で撫でられた、今!?
俺は瞠目する。
戸惑いに体が後ろに傾いた。
蜜希さんは特に何も言わず、手を下ろすと目を伏せた。
「でも、いいよ。この部屋はまだ、このままでいい」
蜜希さんの顔に、影が落ちる。
長いまつ毛が濃く影を作り、俺は場違いにも『綺麗だ』と感じた。
(そんなに、大切な場所なのか)
俺はそれ以上食い下がることはしなかった。
「さ、そっちの部屋に戻ろうか」と蜜希さんが言う。
俺は頷き、本の部屋の扉を閉めた。
もう一方の狭い部屋に入り、俺たちは腰を下ろす。
「一応、この部屋軽く掃除してみたけど、どうだろ。何かあったら言ってね」
「いえ。こんなことまでしてもらって、ありがとうございます」
「いーえー」
「旅館に泊れなかったの、申し訳なかったからね」と蜜希さんは笑う。
その笑顔に、俺は「気にしないでください」と答える。
「それで? どうする? もう寝る? トランプとかいろいろ持ってきたけど」
「ふはっ。寝る気ないじゃないですか」
ワクワクした表情を浮かべる蜜希さん。
手に持っているカードゲームの数々に、俺は吹き出した。
(なんでこの人が楽しそうなんだろう)
そう思ったが悪い気はしない。
「カードゲーム、やります?」と告げれば、蜜希さんの顔が輝く。
無邪気な、いい笑顔だ。
元気に頷く蜜希さんに、俺は(可愛い人だな)と内心呟いた。
もう『帰る』なんて言葉は、腹の底に落ちていた。
蜜希さんの言葉に、ハッとする。
落ちていた意識が引っ張り上げられた気分だった。
蜜希さんは窓を閉めると、ご丁寧にカーテンを閉めた。
足元の本を踏まないよう、慎重にこっちへ渡って来る。
俺はその様子を見つめていた。
「よいっしょっと。ふぅ」
「あの……ここ、蜜希さんの部屋なんですか?」
廊下に出て来て一息を付く蜜希さんに、俺は問いかける。
蜜希さんは目をぱちくりとさせて、「なんで?」と質問を質問で返した。
「いえ、何となくそう思いまして」
「ええ~? 本当にぃ~?」
「?」
「僕の部屋だって知って、一体何をするつもりだったの?」
ニヤニヤと笑いながら言う蜜希さん。
その言葉と意図に気が付いて、俺はカッと顔が赤くなる。
「なっ! 何もしませんよっ!」
「ええ~、うっそだぁ」
「嘘じゃないです!」
(なんでそういうことになるんだ!)
俺は憤慨する。蜜希さんは「ごめんごめん、冗談だよ」と言って笑った。
屈託のない笑顔に、俺はムッとする。
蜜希さんはそうだなぁ、と呟いた。
「ここは、僕の部屋じゃないよ」
「えっ。そうなんですか?」
「うん」
蜜希さんは頷く。
「でも、大事な場所だよ。掃除しようって思ってて、ずっと出来てないくらいには」
蜜希さんの目が、近くの本棚を見つめる。
……確かに。
言われてみれば、この部屋はどの場所よりも埃が分厚く募っている。
(掃除が出来ない)
それは言葉のまま受け取ってもいいものなのだろうか。
それとも、何か理由があるのか。
俺は蜜希さんを見た。
(また、あの目だ)
寂しそうな、どこか遠くに行ってしまいそうな目。
今を見ていないその視線に、俺は小さな苛立ちを覚えた。
「掃除したいなら、俺が手伝いましょうか?」
「暁月くんが?」
「はい」
間髪入れずに頷く。
蜜希さんは少し驚いた後、破顔した。
「えぇ? 足の踏み場もなさそうな家に住んでる君が? 掃除何か出来るの?」
「うっ……あ、あれは、ちょっと荒れてただけで……元々、小さい頃から自分の部屋の掃除は自分でしてましたし、大丈夫です」
「ふーん?」
「何ですか」
「いや、ほんとかなぁって思って」
ニヤニヤ。ニヤニヤ。
蜜希さんは揶揄うように俺を見る。
(絶対に信じてないだろ)
「本当ですよ。……って言っても、部屋の写真もないんで証明は難しいですけど」
「ふふふ。何もそこまでしなくていいのに」
蜜希さんは笑う。
俺を見て、「暁月くんは真面目だねえ」と俺の頭を撫でた。
(なっ!?)
――何で撫でられた、今!?
俺は瞠目する。
戸惑いに体が後ろに傾いた。
蜜希さんは特に何も言わず、手を下ろすと目を伏せた。
「でも、いいよ。この部屋はまだ、このままでいい」
蜜希さんの顔に、影が落ちる。
長いまつ毛が濃く影を作り、俺は場違いにも『綺麗だ』と感じた。
(そんなに、大切な場所なのか)
俺はそれ以上食い下がることはしなかった。
「さ、そっちの部屋に戻ろうか」と蜜希さんが言う。
俺は頷き、本の部屋の扉を閉めた。
もう一方の狭い部屋に入り、俺たちは腰を下ろす。
「一応、この部屋軽く掃除してみたけど、どうだろ。何かあったら言ってね」
「いえ。こんなことまでしてもらって、ありがとうございます」
「いーえー」
「旅館に泊れなかったの、申し訳なかったからね」と蜜希さんは笑う。
その笑顔に、俺は「気にしないでください」と答える。
「それで? どうする? もう寝る? トランプとかいろいろ持ってきたけど」
「ふはっ。寝る気ないじゃないですか」
ワクワクした表情を浮かべる蜜希さん。
手に持っているカードゲームの数々に、俺は吹き出した。
(なんでこの人が楽しそうなんだろう)
そう思ったが悪い気はしない。
「カードゲーム、やります?」と告げれば、蜜希さんの顔が輝く。
無邪気な、いい笑顔だ。
元気に頷く蜜希さんに、俺は(可愛い人だな)と内心呟いた。
もう『帰る』なんて言葉は、腹の底に落ちていた。
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