逃げた先に、運命

夢鴉

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四章 散らばった真実をかき集めて

21-1 不機嫌パーティ開催中

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「だあああ!!」

 俺は力の限りの声を上げた。
 キョトンとした兄貴の目が、俺を見つめる。

「なに、急に大声出して」
「急じゃねぇよ! つーかなんだ、この状況は!」
「何って……パーティ?」
「そんな顔で開くパーティなんて、古今東西どこにも存在しねぇんだよ!」

 カラオケのチャチなカップに入ったメロンソーダを啜っているのは、宵月蜜希――俺の兄。
 パーティを開いていると宣う彼の顔は、ここに来てから一切変わらない。不機嫌顔だ。

 俺は腕を組んで、兄貴を睨みつける。
 兄貴は素知らぬ顔でジュースを啜っていた。



「朝陽、カラオケ行かない?」

 それはもう、唐突に。
 朝起きて、飯を食っている最中に言われた俺は、目を瞬かせた。

「行かない?」
「行く」

 人生で初の兄貴の誘いに、俺は即答する。
(まさか兄貴からカラオケに誘われるなんて)
 柄にもなくワクワクした気持ちを抱えながら、いざカラオケに来てみれば――このザマ。

「何さ、その顔は。もしかして、パーティ楽しくない?」
「だぁから、俺はこれをパーティだなんて認めねぇって言ってんだろ」

 いや、そうじゃなくて。

 俺は兄貴を見る。
 目が合うなり、にこりと微笑まれた。弟に作り笑いすんな。気持ち悪ィ。
(まあ、十中八九、アイツが関係してんだろうけど)
 それを口にするのは癪に障るので、出来れば口にしたくない。

 ――暁月凜。
 知らないうちに、家の離れに住み着いた、有能アルファ。
 アルファらしい能力血の高さを見せびらかしながら、兄貴の事を狙う不届き者。俺の印象はそんなものだ。

(そういや、いつの間にかいなくなっていたな)
 多少驚きはするが、兄貴ほどじゃない。
 煮え切らない雰囲気でいる兄貴を横目に見る。やけ食いまでするなんて、まるで晃さんがいなくなった時みたいじゃねぇか。

 まあ、その時の兄貴に比べれば、今は随分マシだけど。

「ったく。ストレス発散に付き合って欲しいなら、最初から言やぁいいだろうが」
「んー? 何のこと? 僕は久しぶりに朝陽と遊びたかっただけだよ」
「そうやって誤魔化し続けてっから、身動き取れなくなったんじゃねーの」

 兄貴は少し面食らったように声を飲み込んだ。
 かと思えば、「そんなんじゃないし」と視線を逸らす。拗ねたガキみたいな反応すんじゃねーよ。
 俺は呆れに息を吐いて、頬杖をついた。
 デカいテレビ画面の中で、最新のアーティストが曲の宣伝をしている。グループ名を見てみるが、知らないグループだった。

「んで? なんでそんなイライラしてんだよ」
「イライラなんかしてないよ。ただちょっとむしゃくしゃしてるってだけ」
「変わんねーだろそれ」

 イライラとむしゃくしゃに違いなんてあんのか。俺にはわからない。

「どーせアイツのことだろ。わかってんだよ」
「違うよ」
「『アイツ』でその顔が出てる時点でそうだろ」

 俺は吐き捨てる。
 兄貴は「違うって言ってんじゃん。疑り深いなぁ」と眉を下げた。一回鏡を見てから、同じことを言って欲しい。

「はぁ……アイツのどこがいいんだか」
「だから、そんなんじゃないって言ってるでしょ。ていうか、暁月くんに失礼だから」
「やっぱ暁月なんじゃねぇか」

 兄貴はとうとう口を噤んでしまった。
 俺は久しぶりに兄貴との会話で勝利を得た気がして、ちょっと嬉しかった。口では兄貴に勝てるのなんて、母さんくらいしかいないし。

(つっても、めんどくせぇもんには変わりねぇんだよなァ)
 一見素直そうに見えて『す』の字も持たない兄貴の本性を知っているからか、余計にそう思ってしまう。大切な時にこそ口を噤んでしまうタイプだと言えば、伝わるだろうか。

「……朝陽はさ。帰ること、聞いてたんだよね?」

 何の話だ、と言いかけて踏み止まる。
 ああなるほどな。そういうことか。

「仲間外れにされたのか、兄貴」
「うるさいなぁ」

 心底嫌そうな声に、俺はなんだかおかしくなって笑いそうになった。
 こういう時の兄貴ほど、わかりやすいものはない。

「寂しいとか言うんじゃねぇだろうな?」
「そんなんじゃないよ。ただ、挨拶もなしにっていうのはひどいと思わない?」

 まあ、確かに。
 暁月が兄貴に何も言っていなかったのは、意外だった。

「僕はさ、感謝して欲しいとか思ってるわけじゃないんだ。本当に。ただ、恩人に対して一言もないっていうのは、違うじゃん?」

 長々と話し始めた兄貴に、俺は「はぁ」と力なく返事をする。
 別にどうでもいいじゃねぇか、とは口が裂けても言えない。俺だって命はまだ惜しいし。

「朝陽だって、礼儀はしっかりするようにって教わってるでしょ?」
「そりゃあ、まあ」
「それをあの子は怠ったんだよ。怒られて当然でしょ?」

 一理ある。
 俺は何も言わず耳を傾け続けた。
 何をどう聞いても、ハブられたのが寂しかったと言っているようにしか聞こえないが、それはまあ、置いておいて。

「大体さぁ、荷物も置いてったままだし、服とかも放置したまんま。誰が片付けたと思う? 僕だからね?」
「は? アイツ荷物おいてったのかよ」
「うん。たーくさん、ね」

 たこ焼きを口に放り込み、ピザに手を伸ばす兄貴。
 頬が膨れているのが、怒りを表しているように見える。

 いや、そんなことより。

「なあ。それ、おかしくねぇか?」
「んぇ?」

 ピザを頬張りながら返事をする兄貴に、「食いながら返事すんな」と眉を寄せる。
 兄貴は首を傾げる。でかい、満月みたいな目が俺をじっと見つめる。

「おかしいって、何が?」
「兄貴は旅行に行った先に、荷物全部置いてくのかよ」
「んー? まあ、確かに。それは僕も疑問に思ったけど、いらないものだったんじゃない?」

 兄貴曰く、置いていった荷物はこっちで買った服や消耗品、そして暁月が最初から持っていたトートバッグだったらしい。
 要らない物があったとして、それを旅行先に置いていく気持ちは正直解らない。
 だが、それよりも引っ掛かるのは、アイツが元々持っていた荷物まで置いて行ったことだった。

「バッグの中身は見たか?」
「うん、もちろん。ちらっとだけどね」
「貴重品とかは? 入ってなかったのかよ?」
「え? うーん、お財布とスマホは入ってたけど」

(いや、入ってんのかよ)
 俺は心の中で突っ込んでしまった。その二つがあって、よく疑問に思わなかったな、この人。

 どれだけへぼな探偵でもわかるだろうに。つーか下手したら子供でも分かるだろう。
 俺は心底深いため息が零れた。
「朝陽? どうしたの?」と兄貴が言う。ここまで言っててもわからないなんて、逆に尊敬してしまうくらい鈍いんじゃないか。いやまあ、兄貴が鈍いなんてこと、もっと昔から知ってるけど。

「どう考えても、その二つがいらなくなることはねえだろ」
「え?」
「兄貴は財布とスマホが入ったカバンを、出先に『いらないから』って置いていくのかよ」
「……あ」

 兄貴が声を上げる。どうやら、ようやく理解したらしい。

 兄貴は数回瞬きを繰り返すと、「え、え?」と困惑した声を零す。
 注文した唐揚げとポテトくらいしかないのに、きょろきょろと忙しなく手元を見ていた。

「え、でも、じゃあなんで……?」
「んなの知るかよ。知りたきゃ聞きに行けばいいじゃねえか」
「えっ」
「大学くらい兄貴でも知ってんだろ」

 暁月は確か大学生だと言っていた。しかもかなり上のランクの大学だ。
 同じアルファの俺が、逆立ちしても入ることはできないであろう場所に、アイツは平然とした顔でいるのかと思うとだんだん苛ついて来た。

(考えんのやめよ)
 俺は頭を振って、思考を散らす。
 とりあえず、相手は大学生だ。大学に行けば会えるのは確実だろう。

「何なら連絡して迎えに来てもらえばいいんじゃねえの?」
「……らない」
「あ?」

「知らない。暁月くんの大学も、連絡先も」
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