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三章 感情に蓋をして
20-3 汚さないで
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しかし、そこに爆弾を落としたのは――彼女たちの友人である女性だった。
(どうして、暁月くんがそこで出て来るんだ?)
困惑する僕に、彼女たちは「それもそうね」と納得した顔をしている。
分かっていないのは僕だけだったらしい。
彼女たちの雰囲気がガラリと変わった。どこかニヤついた顔で僕を見る。
噂話が大好きな彼女たちが情報を得る時の、期待に満ちた顔だ。
「えっと、それはどういう……」
「あらやだ、隠さなくたっていいのよ~」
「そうよ。蜜希くん、あの子のこと気に入ってるんでしょう?」
「みんな『凛くんは蜜希くんの新しい番相手なんじゃないかー』って噂してたのよ」
ドクン。
心臓が嫌な音を鳴らす。
吹き出る汗を感じながら、僕は喉の奥に突っかかりを感じていた。
彼女たちは真偽など関係ないとばかりに話を進めていく。
最初から怪しいと思ってたとか、何度か一緒に出掛けているのを見かけたとか――そんな、他愛もない事実を、それっぽく。色眼鏡をかけて口にする。
(……みんな、そんなふうに見てたんだ)
僕は目が回るようだった。
湧き上がるのは――黒い憤り。
こっそり噛み締めていた奥歯がギリっと音を立てた。
「それで、本当はどうなの?」
「……暁月くんのことは、友人としてしか見てないですよ」
「またまたぁ、いいのよ、本当のこと言っちゃってっ!」
「私達、口は硬い方だしっ」
世界一信用の出来ない言葉に、僕はもう笑うしかなかった。
(何も、知らないくせに)
彼が優しい理由も、頑張り屋なところも知らないくせに。
暁月くんのことは、確かに好きだ。
でもそれは、恋愛とか、そういう意味じゃない。
それでも、暁月くんとの日々は僕にとっては家族と過ごしているような、大切な時間だった。
新しい弟が出来た、というとちょっと違うけど。
そんな温かくてかけがえのない日常。
宝箱に仕舞って、大切にしておきたいと思っていたものを、彼女たちは土足で踏み荒らしている。
『恋愛』という下心を、色眼鏡に塗りたくって僕達を見ていた。
(僕と暁月くんの大切な日々を、そんな陳腐な言葉で汚さないでくれ)
オメガだからと差別しなかった。
オメガなのにと見下したりしなかった。
そんな彼の優しさを、そんな低俗な言葉で片付けないでくれ。
「ッ、ぁーーーー」
「蜜希くーん、お待たせ~!」
口を開いた瞬間。遮るようにかなさんの声が店中に響いた。
はっとして振り返れば、髪を振り乱したかなさんが申し訳なさそうにこちらを見ている。その手には注文していたものを持っていた。
「すみませんっ」と意味もなく口走って、箱を受け取りに行く。
ありがとうございます、と頭を下げれば、「遅くなってごめんなさいね」と逆に謝られてしまった。
それからレジでお金と領収書を引き換えて、僕は商品を受け取る。
振り返れば、奥様方がこちらを見ていた。
間を開けたことで冷静になった頭を下げる。面には笑顔を張り付けて。
「すみません、それじゃあ俺はこれで」
「お遣いの途中にごめんなさいね~」
「いえいえ」
「またお邪魔するわね」
ありがとうございます、と告げて、僕は店を出る。
早足で店から遠ざかり、周囲を見渡す。誰もいないのを確認して――僕は大きく息を吐き出した。
「あー……危なかった……」
もう少しで、怒りに飲まれそうになった。
店の中で声を荒げるなんて、バレたら説教じゃ済まないかもしれない。
「いつもならもっと上手く躱せたんだけどなぁ……」
両親のこと、番の晃のこと、暁月くんのこと。
全てが重なって、降り積もってしまったのだろう。僕のポーカーフェイスもまだまだだな。
深く呼吸をして、気持ちを入れ替える。
ふと手のひらに痛みを感じて手を見れば、くっきりと爪の痕が付いていた。ちょっと血も滲んでいる。
これじゃあ仕込みの手伝いは出来なさそうだ。
僕は言い訳を考えながら、とぼとぼと帰路を歩いていく。
頭の中にこびりついた黒い感情。
心に広がる泥中に沈みそうになる自分を奮い立たせ、僕は旅館の敷居を跨いだ。
無性に暁月くんに会いたいのに、今ここに彼がいないことが、心底悔しかった。
(どうして、暁月くんがそこで出て来るんだ?)
困惑する僕に、彼女たちは「それもそうね」と納得した顔をしている。
分かっていないのは僕だけだったらしい。
彼女たちの雰囲気がガラリと変わった。どこかニヤついた顔で僕を見る。
噂話が大好きな彼女たちが情報を得る時の、期待に満ちた顔だ。
「えっと、それはどういう……」
「あらやだ、隠さなくたっていいのよ~」
「そうよ。蜜希くん、あの子のこと気に入ってるんでしょう?」
「みんな『凛くんは蜜希くんの新しい番相手なんじゃないかー』って噂してたのよ」
ドクン。
心臓が嫌な音を鳴らす。
吹き出る汗を感じながら、僕は喉の奥に突っかかりを感じていた。
彼女たちは真偽など関係ないとばかりに話を進めていく。
最初から怪しいと思ってたとか、何度か一緒に出掛けているのを見かけたとか――そんな、他愛もない事実を、それっぽく。色眼鏡をかけて口にする。
(……みんな、そんなふうに見てたんだ)
僕は目が回るようだった。
湧き上がるのは――黒い憤り。
こっそり噛み締めていた奥歯がギリっと音を立てた。
「それで、本当はどうなの?」
「……暁月くんのことは、友人としてしか見てないですよ」
「またまたぁ、いいのよ、本当のこと言っちゃってっ!」
「私達、口は硬い方だしっ」
世界一信用の出来ない言葉に、僕はもう笑うしかなかった。
(何も、知らないくせに)
彼が優しい理由も、頑張り屋なところも知らないくせに。
暁月くんのことは、確かに好きだ。
でもそれは、恋愛とか、そういう意味じゃない。
それでも、暁月くんとの日々は僕にとっては家族と過ごしているような、大切な時間だった。
新しい弟が出来た、というとちょっと違うけど。
そんな温かくてかけがえのない日常。
宝箱に仕舞って、大切にしておきたいと思っていたものを、彼女たちは土足で踏み荒らしている。
『恋愛』という下心を、色眼鏡に塗りたくって僕達を見ていた。
(僕と暁月くんの大切な日々を、そんな陳腐な言葉で汚さないでくれ)
オメガだからと差別しなかった。
オメガなのにと見下したりしなかった。
そんな彼の優しさを、そんな低俗な言葉で片付けないでくれ。
「ッ、ぁーーーー」
「蜜希くーん、お待たせ~!」
口を開いた瞬間。遮るようにかなさんの声が店中に響いた。
はっとして振り返れば、髪を振り乱したかなさんが申し訳なさそうにこちらを見ている。その手には注文していたものを持っていた。
「すみませんっ」と意味もなく口走って、箱を受け取りに行く。
ありがとうございます、と頭を下げれば、「遅くなってごめんなさいね」と逆に謝られてしまった。
それからレジでお金と領収書を引き換えて、僕は商品を受け取る。
振り返れば、奥様方がこちらを見ていた。
間を開けたことで冷静になった頭を下げる。面には笑顔を張り付けて。
「すみません、それじゃあ俺はこれで」
「お遣いの途中にごめんなさいね~」
「いえいえ」
「またお邪魔するわね」
ありがとうございます、と告げて、僕は店を出る。
早足で店から遠ざかり、周囲を見渡す。誰もいないのを確認して――僕は大きく息を吐き出した。
「あー……危なかった……」
もう少しで、怒りに飲まれそうになった。
店の中で声を荒げるなんて、バレたら説教じゃ済まないかもしれない。
「いつもならもっと上手く躱せたんだけどなぁ……」
両親のこと、番の晃のこと、暁月くんのこと。
全てが重なって、降り積もってしまったのだろう。僕のポーカーフェイスもまだまだだな。
深く呼吸をして、気持ちを入れ替える。
ふと手のひらに痛みを感じて手を見れば、くっきりと爪の痕が付いていた。ちょっと血も滲んでいる。
これじゃあ仕込みの手伝いは出来なさそうだ。
僕は言い訳を考えながら、とぼとぼと帰路を歩いていく。
頭の中にこびりついた黒い感情。
心に広がる泥中に沈みそうになる自分を奮い立たせ、僕は旅館の敷居を跨いだ。
無性に暁月くんに会いたいのに、今ここに彼がいないことが、心底悔しかった。
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