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「――殿下」
ああ、まただ。
また俺は間違えている。この状況で何を優先すべきか。
すでに時刻は深夜に差しかかっている。が、王宮から漏れる光とざわめきは、なお落ち着く気配を見せない。今夜の催しはオールでやる大変豪勢なものらしく、貴族たちは入れ替わり立ち代わりフロアに参集しては、踊ったりワンチャンを狙ったり、あるいは、貴族の本分である人脈作りに勤しむなどしている。
俺はというと、そろそろ帰りたいと訴えるイザベラの意を汲み、アルカディアの紋章がついた専用の二頭立て馬車でイザベラを彼女の屋敷へと送っていた。
王子の紋章がついた馬車での送迎。これもドレスと同様、イザベラへのアピールを兼ねたウェリナへの牽制だ。周囲にも、王太子は婚約者を大事にできる甲斐性ある男だとアピールできるだろう。
全ては、俺が生き延びるために。
だからこそ見送りの車中でも、イザベラへのもてなしを第一に考えなきゃいけない。――わかっている。なのに、気づくと俺はウェリナのことばかり考えている。
「あ、ああ……今日はすまなかったね。随分と引っ張り回してしまった」
するとイザベラは、驚いたように黒い大粒の瞳を見開き、いえ、と小さく被りを振る。
少し疲れて見えるのは、舞踏会で俺の挨拶回りに散々つき合わされたせいだ。王太子ということもあり、俺に挨拶を求める客は絶えなかった。そうした連中に、ここぞとばかりにイザベラとの仲をアピールしていたのだが、それが体力的に堪えたのだろう。
そのイザベラは、どこか躊躇うように、おず、と切り出す。
「その……ウェリントン公爵の言ではありませんが、やはり、以前とは別人のようで、正直、驚きました」
「えっ」
しまった。
寮で同室だったウェリナはともかく、イザベラにまで勘付かれてしまったとは。さすがに派手にやりすぎたか。
「あ、ああ……公爵にも話したとおり、僕もいい加減、王太子としてきちんとしなきゃと思ってね。後継ぎが情けないと、国民にも不安を与えてしまうだろ?」
とは言ったものの、実のところ、アルカディアがポンコツだろうが国民はどうだっていいのだ。というのも、この国にはアルカディアの五つ下にもう一人、王子が控えている。それも、アルカディアじゃ比較にならんほど出来の良い王子が。
第二王子リチャード。
噂によれば、相当に出来の良い王子らしく、文武両道、眉目秀麗、おまけに血統まで折り紙つきときている。彼のご母堂は四公の一角、火のモーフィアス家の出身で、王家と四公の血を同時に引き継ぐリチャードは、まさに血統書つきのサラブレッドといえるだろう。
その点、アルカディアの母親は貴族といっても四公の生まれではなく、血統の面ではやや弱い。
能力どころか血統ですら劣るアホの王太子。
俺がこの物語の読者なら、そんなアホさっさと叩き出してリチャードを王太子に据えりゃいいじゃねぇかと憤っただろう。が、当のアルカディアに転生しちまった身としては、その流れだけは許すわけにはいかないのだった。
読者の皆様には気の毒だが、ここは俺が王座を獲らせていただく。
だって破滅ルートは御免だもの。生き残りたいんだもの。
見ると、イザベラは「でもリチャード王子がいらっしゃるじゃないの」とでも言いたげな冷めた目をしている。
確かに、今までの婚約者の行状を踏まえると、そういう反応になりますわね……。
「と……とにかく、今後は王太子としてしっかりやっていく! 君のことも大事にする! だから……まぁ、その、気長に見守ってはくれないかな……」
するとイザベラは、形の良いくちびるをにっと左右に引く。ただ……相変わらずその目はこれっぽっちも笑っていない。
「ええ。もちろんですわ」
どうやら俺の『脱バカ王子! 破滅を回避して悪役令嬢と幸せになるぞ!』計画はなかなか波乱含みのようだ。
ああ、まただ。
また俺は間違えている。この状況で何を優先すべきか。
すでに時刻は深夜に差しかかっている。が、王宮から漏れる光とざわめきは、なお落ち着く気配を見せない。今夜の催しはオールでやる大変豪勢なものらしく、貴族たちは入れ替わり立ち代わりフロアに参集しては、踊ったりワンチャンを狙ったり、あるいは、貴族の本分である人脈作りに勤しむなどしている。
俺はというと、そろそろ帰りたいと訴えるイザベラの意を汲み、アルカディアの紋章がついた専用の二頭立て馬車でイザベラを彼女の屋敷へと送っていた。
王子の紋章がついた馬車での送迎。これもドレスと同様、イザベラへのアピールを兼ねたウェリナへの牽制だ。周囲にも、王太子は婚約者を大事にできる甲斐性ある男だとアピールできるだろう。
全ては、俺が生き延びるために。
だからこそ見送りの車中でも、イザベラへのもてなしを第一に考えなきゃいけない。――わかっている。なのに、気づくと俺はウェリナのことばかり考えている。
「あ、ああ……今日はすまなかったね。随分と引っ張り回してしまった」
するとイザベラは、驚いたように黒い大粒の瞳を見開き、いえ、と小さく被りを振る。
少し疲れて見えるのは、舞踏会で俺の挨拶回りに散々つき合わされたせいだ。王太子ということもあり、俺に挨拶を求める客は絶えなかった。そうした連中に、ここぞとばかりにイザベラとの仲をアピールしていたのだが、それが体力的に堪えたのだろう。
そのイザベラは、どこか躊躇うように、おず、と切り出す。
「その……ウェリントン公爵の言ではありませんが、やはり、以前とは別人のようで、正直、驚きました」
「えっ」
しまった。
寮で同室だったウェリナはともかく、イザベラにまで勘付かれてしまったとは。さすがに派手にやりすぎたか。
「あ、ああ……公爵にも話したとおり、僕もいい加減、王太子としてきちんとしなきゃと思ってね。後継ぎが情けないと、国民にも不安を与えてしまうだろ?」
とは言ったものの、実のところ、アルカディアがポンコツだろうが国民はどうだっていいのだ。というのも、この国にはアルカディアの五つ下にもう一人、王子が控えている。それも、アルカディアじゃ比較にならんほど出来の良い王子が。
第二王子リチャード。
噂によれば、相当に出来の良い王子らしく、文武両道、眉目秀麗、おまけに血統まで折り紙つきときている。彼のご母堂は四公の一角、火のモーフィアス家の出身で、王家と四公の血を同時に引き継ぐリチャードは、まさに血統書つきのサラブレッドといえるだろう。
その点、アルカディアの母親は貴族といっても四公の生まれではなく、血統の面ではやや弱い。
能力どころか血統ですら劣るアホの王太子。
俺がこの物語の読者なら、そんなアホさっさと叩き出してリチャードを王太子に据えりゃいいじゃねぇかと憤っただろう。が、当のアルカディアに転生しちまった身としては、その流れだけは許すわけにはいかないのだった。
読者の皆様には気の毒だが、ここは俺が王座を獲らせていただく。
だって破滅ルートは御免だもの。生き残りたいんだもの。
見ると、イザベラは「でもリチャード王子がいらっしゃるじゃないの」とでも言いたげな冷めた目をしている。
確かに、今までの婚約者の行状を踏まえると、そういう反応になりますわね……。
「と……とにかく、今後は王太子としてしっかりやっていく! 君のことも大事にする! だから……まぁ、その、気長に見守ってはくれないかな……」
するとイザベラは、形の良いくちびるをにっと左右に引く。ただ……相変わらずその目はこれっぽっちも笑っていない。
「ええ。もちろんですわ」
どうやら俺の『脱バカ王子! 破滅を回避して悪役令嬢と幸せになるぞ!』計画はなかなか波乱含みのようだ。
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