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しおりを挟む翌朝、ウェリナは朝食のテーブルに現れなかった。これまで、いくら俺が拒んでも部屋に押しかけ、一緒にテーブルを囲んでいたウェリナが。
そのウェリナとは、結局、朝は一度も顔を合わせることがなかった。なにぶん広い屋敷で、その気になれば顔を合わさず出て行くこともできるのだ。これまでは、頼まなくともウェリナの方から挨拶に押しかけていたので気づかなかった。
朝食を終え、腹ごなしのつもりで散歩に出る。
中庭に出たところで、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「殿下ぁ!」
見ると、中庭のベンチに腰を下ろしたマリーが、満面の笑みで俺に手を振っている。
改めて、愛らしい女の子だと思う。可愛くて、胸も大きくて、男からすりゃ申し分のないビジュアルだ。中身はやや難ありだが、恋人にすればさぞ楽しいだろう。
きっとウェリナにもお似合いだ。
いや、違う。似合わないはずがないのだ。この世界は、そもそも二人が出会うためだけに存在するのだから。
わかっているのに。
「あ、ああ……おはよう。あれから、クモは出なかった?」
「はい! それに、新しい部屋はものすごく豪華で、ベッドもソファもふかふかなんです。天蓋つきのベッドなんて、まるでお姫様にでもなったみたいで。今朝なんて、これは夢の続きじゃないかって何度もほっぺたをつねったりもしたんですよ」
そして照れくさそうに舌を出すマリーは、まさに、俺が思い描くヒロイン像そのものだった。貧しい日々の中、それでもなおプリンセスを夢見る素朴で可憐なシンデレラ。彼女こそは、まさにヒロインになるべくして登場したキャラクターだろう。
やっぱり、この世界は二人のための……
「ところで殿下。つかぬことをお伺いしますが、その……イザベラ様との婚約は、結局、どうなさるおつもりですか?」
「は?」
イザベラ? 婚約? いや、急に何の話だ?
「ええと……イザベラ嬢がどうかしたの?」
するとマリーは、なぜか気まずそうに俯くと、やがて、おっかなびくり問うてくる。
「実は、その……いま市井では、もっぱら殿下とイザベラ様との婚約解消が噂されているんです。それは、ええと、本当なんでしょうか?」
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