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「こんやくかいしょう」
へぇ何それおいしいの? ――じゃなくて。いや何で!? 何がどうしてどうなれば、俺とイザベラの婚約が解消って話になるんだ?
俺に婚約解消の意志がないのは、もはや繰り返すまでもない。
イザベラとの婚約解消は、王太子としては完全におしまいルート。それだけならまだしも、ウェリナとのイチャラブスローライフに至っては是非ともご免被りたい。
しかし、なぜに今更そんな噂が……?
てっきりイザベラとの関係は、順調に修復できているものとばかり思い込んでいた。舞踏会でもエスコートを許され、贈ったドレスを身につけてもくれた。……ひょっとして、この期に及んで悪役令嬢モノの強制力が働いているのか? そんで俺は、バカ王子として破滅の道を……
「いやいやいや、それはない! だって俺、彼女のこと超愛してるし? っつーか、どこソースだよそれ……」
「ソース? 目玉焼きにかけるやつですか?」
「違う違う。噂の火元はどこかって話」
「ああ、そっちのソースですか。いえ、私も噂で聞きかじった程度ですし。ただ……」
「ただ?」
「同じ修道院の友達が言うには、イザベラ様が殿下との関係を気に病んでいらっしゃるのは事実だそうです。襲撃事件のあと、教会でイザベラ様が司祭様に懺悔なさるのを見たと申していました」
それって……要するに教会が火元ってこと? 実際、イザベラの相談内容をべらべら漏らすマリーといい、コンプライアンスがまるでなっちゃいない。
「あ、そう。ふーん。で?」
俺のムカつきに当然気づくはずもないマリーは、相変わらずの神妙顔で続ける。
「はい。殿下が襲撃を受けられたのが、イザベラ様をお屋敷へ見送られた帰りということもあり、たいへん責任を感じておられるようです。まして表向き、殿下は生死の境を彷徨うほどの危険な状況とされていますし」
言われてみれば。
むしろ、そこまで気が回らなかった俺自身の無神経さが憎い。考えてみれば、俺はいかに生き延びるか、そればかり考えていた。俺の言動で周囲が何を思い、あるいは傷つくか、ほとんど注意を払ってこなかった。イザベラに対しても……それにウェリナにも。
――これで満足か。
昨晩のあれは……傷ついていたんだろうか。あいつなりに……
「そういうことなら、さっそくイザベラに手紙を書こう。心配いらないと」
するとマリーは、なぜか怪訝な顔をする。
「手紙、ですか? イザベラ様に、殿下が?」
「えっ。ああ……それが何か?」
「あ、いえ……噂では、殿下はイザベラ様を嫌っておられるとのことでしたので、正直、意外、と申しますか」
それはきっと、アルカディア時代の話が尾を引いているんだろう。
確かに、あの頃の二人のイメージを引きずるなら、婚約破棄説が浮上するのも無理はない。
「心を入れ替えたんだよ。あんなにも聡明で美しい婚約者を、毛嫌いする理由があると思うかい?」
「ですよねぇ! イザベラ様ってば本当に素敵な方で、先月も、大量の薬草を教会に寄付してくださったんですよ! あそこのお父様は、ザ・お金持ちって感じで鼻につくんですけど、イザベラ様はお家のことなんかちっとも鼻にかけなくて。本当に、お優しい方なんです」
「うんうん、だよなぁ」
さすがは俺の婚約者。やはり俺は、イザベラと結ばれるべきなんだ。そうに違いない。
とにかく、ここは早急に手を打とう。まずはイザベラに手紙を書き、俺の無事を伝える。もちろん婚約解消の意志がないこともきっちり伝える。
そうして俺は、予定通りイザベラと結婚する。ウェリナはもちろんマリーと。
それこそが、世界が望む正しいシナリオなのだ。
へぇ何それおいしいの? ――じゃなくて。いや何で!? 何がどうしてどうなれば、俺とイザベラの婚約が解消って話になるんだ?
俺に婚約解消の意志がないのは、もはや繰り返すまでもない。
イザベラとの婚約解消は、王太子としては完全におしまいルート。それだけならまだしも、ウェリナとのイチャラブスローライフに至っては是非ともご免被りたい。
しかし、なぜに今更そんな噂が……?
てっきりイザベラとの関係は、順調に修復できているものとばかり思い込んでいた。舞踏会でもエスコートを許され、贈ったドレスを身につけてもくれた。……ひょっとして、この期に及んで悪役令嬢モノの強制力が働いているのか? そんで俺は、バカ王子として破滅の道を……
「いやいやいや、それはない! だって俺、彼女のこと超愛してるし? っつーか、どこソースだよそれ……」
「ソース? 目玉焼きにかけるやつですか?」
「違う違う。噂の火元はどこかって話」
「ああ、そっちのソースですか。いえ、私も噂で聞きかじった程度ですし。ただ……」
「ただ?」
「同じ修道院の友達が言うには、イザベラ様が殿下との関係を気に病んでいらっしゃるのは事実だそうです。襲撃事件のあと、教会でイザベラ様が司祭様に懺悔なさるのを見たと申していました」
それって……要するに教会が火元ってこと? 実際、イザベラの相談内容をべらべら漏らすマリーといい、コンプライアンスがまるでなっちゃいない。
「あ、そう。ふーん。で?」
俺のムカつきに当然気づくはずもないマリーは、相変わらずの神妙顔で続ける。
「はい。殿下が襲撃を受けられたのが、イザベラ様をお屋敷へ見送られた帰りということもあり、たいへん責任を感じておられるようです。まして表向き、殿下は生死の境を彷徨うほどの危険な状況とされていますし」
言われてみれば。
むしろ、そこまで気が回らなかった俺自身の無神経さが憎い。考えてみれば、俺はいかに生き延びるか、そればかり考えていた。俺の言動で周囲が何を思い、あるいは傷つくか、ほとんど注意を払ってこなかった。イザベラに対しても……それにウェリナにも。
――これで満足か。
昨晩のあれは……傷ついていたんだろうか。あいつなりに……
「そういうことなら、さっそくイザベラに手紙を書こう。心配いらないと」
するとマリーは、なぜか怪訝な顔をする。
「手紙、ですか? イザベラ様に、殿下が?」
「えっ。ああ……それが何か?」
「あ、いえ……噂では、殿下はイザベラ様を嫌っておられるとのことでしたので、正直、意外、と申しますか」
それはきっと、アルカディア時代の話が尾を引いているんだろう。
確かに、あの頃の二人のイメージを引きずるなら、婚約破棄説が浮上するのも無理はない。
「心を入れ替えたんだよ。あんなにも聡明で美しい婚約者を、毛嫌いする理由があると思うかい?」
「ですよねぇ! イザベラ様ってば本当に素敵な方で、先月も、大量の薬草を教会に寄付してくださったんですよ! あそこのお父様は、ザ・お金持ちって感じで鼻につくんですけど、イザベラ様はお家のことなんかちっとも鼻にかけなくて。本当に、お優しい方なんです」
「うんうん、だよなぁ」
さすがは俺の婚約者。やはり俺は、イザベラと結ばれるべきなんだ。そうに違いない。
とにかく、ここは早急に手を打とう。まずはイザベラに手紙を書き、俺の無事を伝える。もちろん婚約解消の意志がないこともきっちり伝える。
そうして俺は、予定通りイザベラと結婚する。ウェリナはもちろんマリーと。
それこそが、世界が望む正しいシナリオなのだ。
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