ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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21.すでに危機

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 それからしばらくの間、城の中は少し騒がしくなった。
 ベリレフェク様のことは、領主様が言い争いの末に自分に手を上げようとした、処罰としてここで働かせると言って、強引に引き取った。

 ベリレフェク様は、あれからは大人しく、回復の魔法使いとして働いている。城の部隊が魔物を討伐しに出かける日が増えていたから、彼のような腕のいい魔法使いがいるとありがたいようで、最初は警戒していたみんなも、次第に彼を頼りにするようになっていた。

 中止になった夜会も、近々開かれるらしい。けれど、魔物の増加のせいで、なかなか日程は決まらなかった。

 その間に、僕は領主様に魔法の道具のことを教えてもらった。

 強化はよくしていたけど、領主様は僕が知らないことをたくさん知っていて、話すのが楽しい。
 たまに怖いことを言い出すことと、やけに距離が近いことは困るけど……

 それに、僕がベリレフェク様と話していると、やけに機嫌が悪いような気がする……
 ベリレフェク様とは、たまに回復の魔法の話をするくらいなのに。

 だけど、たまに王家のことを聞きたくて、僕の方から彼と話をしに行くこともある。だって、主人公と王子がすでに出会っているのか、気になるんだ。

 僕は悪役として断罪されるなんて嫌だし、領主様や他のみんながそうなるのも嫌だ。

 要は、領地の魔物の勢いを抑えることができて、領主様が断罪されなければいい。
 領地の魔物を追い払い、王都の惨事を防ぐことができれば、領地も救えて王都だって無事でいられるはずなんだ。

 だけど、そんなに簡単にはいかないらしい。

 倉庫で魔法の道具の確認をしつつ回復の魔法の話をしていたら、ベリレフェク様が小さな瓶を出して言った。

「……これを見てくれ」

 言われて振り向く僕。

 ベリレフェク様が使うものはだいたいいつも似たような形をしていて、僕ではどれがどれだか判別がつかないことが多い。
 今回も、いつもと似たようなものに見えるけど……

「……なんですか? 回復の魔法の道具ですか?」

 僕がたずねると、ベリレフェク様は首を横に振る。

「いいや。研究中の毒の魔法の道具だ」
「紛らわしいです!!」

 ドジな僕がいるところで、そういうものをちらつかせるのはやめてほしい。

 すると、魔法の道具の整理をしていた領主様が手を止めて振り向いた。

「……おい。そいつの気をひくようなものを出すな。なんの真似だ…………」
「王家の前に、どこかの気に入らない男で試してみようと思っている。瓶を開けても構わないか?」
「……やってみろ。それより先に、その頭を首が吹き飛ぶぞ」
「……」

 二人とも、無言で睨み合ってる。

 主人公とか魔物が来るより先に、すでに危機に陥っている気がする……
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