普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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14.お礼を

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 レヴェリルインは、空を見上げたまま無言になってしまう。
 周りはまるで荒野みたいになっていて、石ころひとつない。
 そこにドルニテットが駆け寄ってきた。

「兄上!」
「ドルニテット……そこにいたのか。何をしていたんだ?」
「そんなことより、兄上! ご無事ですか!?」
「ああ。お前は?」
「……平気です。兄上が魔法で守ってくださいましたから……兄上も無事でよかった…………その隣にいる廃棄物も、腹立たしいほど頑丈だったようだな……」

 ドルニテットに睨まれて、僕は震え上がった。

 怖い……だけどこの人も、あの時僕を処分しなかったんだ。絶対にドルニテットは、僕を殺したかったはずなのに。

 じーっと見ていたら、僕の視線にドルニテットは気づいてしまったらしく、僕を睨みつけてくる。

「なんだ? 何か文句があるのか? 廃棄物め!」

 怖いけど、これまでより怖くない。それでも、怒鳴られるのはやっぱり怖くて、すぐに頭を下げた。

 けれど、ドルニテットは僕には興味がないみたい。すぐに僕じゃなくて、レヴェリルインに振り向く。

「兄上、ご無事で何よりです。これで心置きなく怒鳴れます」
「は……?」

 なんのことかわからないといった様子のレヴェリルインを、ドルニテットは、すうっと息を吸ってから怒鳴りつけた。

「一体どういうつもりですか!!?? 城ごと吹き飛ばすなんてっっ!! 正気の沙汰じゃないっっ!!! 他にやりようはいくらでもあったはずですっっ!! 狂人でもこんなことしないっっ!!」
「……落ち着け。誰もいなかったのは確認している」
「そうですか。で、城は? バルアヴィフが横領した金だって、返さなきゃならないんですよ!!!!」
「……それは分かっている」
「分かってませんっっ!!!! どうするんですか!!!! なんであんなことしたんですか!!??」
「腹が立ったんだ」
「……」

 腕を組んだままきっぱり言われて、さすがにドルニテットも黙る。

 しばらく風の音が響く。

 誰も話さなくて、さらに気まずい。

 な、なにか言った方がいいのかな……こ、こ、こ、このままじゃ、二人が喧嘩になってしまう。だ、だ、だけど、何を言ったらいいんだ??

 この城がこんな風になっちゃっても、レヴェリルインは僕を庇ってくれたんだから、何かしたい。
 だけど、この状況をなんとかする言葉も思いつかない……僕に城を元に戻すことはできないし……

 どうしていいか分からなくて、僕はほとんどパニックみたいになってしまう。な、な、な、何か言わなきゃっ……!

 本当は話したいことがあるんだ。
 お城がこんなことになっちゃって、王子まで怒らせちゃって、大丈夫なのか? って聞きたい。伯爵はどこへ行ったんだ? 横領って何? こんなことになって……これから、どうするんだ?

 何より……

 こんなことになっても、なんであの時、僕を処分しなかったんだ?

 僕の処分は決まっていた。ずっと前から。もしも失敗したら廃棄処分って、最初から言われていた。失敗作って分かった時に殺されるはずだったんだ。
 それなのに、失敗したのは自分だと言って、レヴェリルインは、僕の管理を買って出た。彼がそうしなかったら、僕は殺されていた。

 だから、あの時レヴェリルインに殺されていても、それはそれでよかった。それを恨みに思ったりしないし、むしろ、そこまで生かしておいてくれて、ありがたいと思う。

 僕さえ処分すれば、王子だって二人を助けてくれるって言ってたのに。
 それなのに、王子に逆らってまでそんなことするなんて……

 こっそり、レヴェリルインを見上げる。彼の考えていることは分からないけど、僕は、命を助けてもらったんだ。死ぬのはやっぱり怖くて、震えていたところを助けてもらったんだ。それは、ドルニテットも同じ。

 ビクビクしながら、僕は口を開いた。

「あっ……!! あ、あのっ!!」

 突然声を上げた僕に、二人が振り返る。普段、誰かと顔を合わせることもほとんどないのに、一斉に二人に見られて、僕は緊張のあまり、息が詰まりそうだった。

「あっ…………」

 言葉が途中で消える。あって言いたいわけじゃない。何か言いたいことがあったんだ。
 だけど、二人の視線を浴びて、言いたかったことは全部頭から消えた。

「あっ…………ぁのっ……!! あ……」

 じーっと、僕を見下ろしているレヴェリルインと目が合う。

 僕は、その場で頭を下げた。

「…………ぁ、あ……ありが……とぅ…………ござい、ます……っっ!!」

 なんとか声も出たけど、蚊の鳴くような声にもならない。

 ドルニテットは、レヴェリルインに振り向いた。そしてため息をつき、さっきよりずっと呆れているけど、落ち着いた口調で言った。

「これの方が身の程を弁えています。こうして城を破壊する原因を作ったことを詫びているではありませんか」
「城を破壊したのは俺だ。そいつじゃない」
「そうですね。そんなに怒らなくてもいいでしょう? あの王子はいつもああです。城で顔を合わせた時は、何を言われたって平気な顔をしてたのに」
「あの時は、お前の方が王子に魔法をかけようとしていたじゃないか」
「………………そうでしたか? どうせ城がこうなるなら、王子も吹っ飛ばせばよかったのに」
「それはさすがにまずいだろう」

 レヴェリルインが言って、ドルニテットもそうですねって言って、肩をすくめてる。

 二人の言い合いが終わってよかったけど、僕のお礼、二人に聞こえてない…………
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