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15.とりあえず
しおりを挟む「すぐに夜が来る。それまでに、必要なものを買いに行くか」
そう言って、レヴェリルインは僕の手を取った。
お城が吹き飛んだから、夜が来る前に、寝床の用意をしなきゃならない。それには、街へ行くしかない。
城はなくなったけど、魔法の練習や魔法の研究のための広い敷地はそのまま。いくつも魔法の植物が育つそこを抜けていけば、すぐに街に着くはずだ。
「お前のことは、俺が連れて行く。離れるなよ」
「は、はい!」
すぐに僕は返事をしたけど、ぎゅっと握られた手が気になる。
な、なんで、手を握られているんだろう……もしかして、逃げると思われているのか? 僕、そんなことしないのに……
あ、だけど、今日はもう何度もレヴェリルインの命令に逆らっている。だから信用されないのか。僕が何度も命令に背いて、レヴェリルインは怒ってるみたいだったし、覚えてろって言われている。
信用されないのも当然。それどころか、そんな風にレヴェリルインを不安にさせたりして、僕は……
またも襲ってくる自己嫌悪。僕は廃棄物だ……
このままにしたくない。レヴェリルインも、不安なままでいたくないはずだ。
だったら、逃げませんって伝えたい。
だけど、見上げたレヴェリルインは、ドルニテットと、これから街の方へ行く話をしている。僕が入り込む隙なんてない。
そもそも僕は、何度もレヴェリルインの命令に背いて、王子の方に走っている。そんな僕が、今更信じて欲しいと言ったところで、そんなの無理だろう。
どうしよう……
考えていたら、なんだか手があったかい。手を握られているからだ。レヴェリルインに手を握られるのは初めてじゃないけど、なんだかくすぐったくて、落ち着かなくなる。
そうだ。これなら、信じてもらえるかも……っ!
僕は握られた手を、ぎゅっと握り返した。逃げないって伝えたつもりだった。
レヴェリルインの手を握るのは、初めてじゃない。だけど、僕から握り返したのは初めて。
な、なんだか緊張する。そして不安になる。
握り返したりして、よかったのかな……余計に不快な思いをさせてるんじゃないか?
おどおどしながら見上げたら、レヴェリルインは、僕を見下ろして、微笑んだ。
レヴェリルインの笑顔を見たのって、初めてじゃないか? 城では僕の前では、ほとんど話さない人だった。あまり一緒にいることもなかった。
そんな風に距離があったはずの彼が、優しそうに笑うのを見たら、もう怖くはないはずなのに、ひどくドキドキした。
すぐに彼の顔を見ていられなくなって、僕は顔を背けてしまう。
そんな風に笑ってくれるなら、手を握ってよかった……
「これから街へ買い物に行く。道すがら、お前に説明しないといけないこともあるしな」
「はい」
レヴェリルインの口調が、いつもより明るい気がする。笑顔でいるからかな……
レヴェリルインは、僕の前で、数枚の金貨を投げて見せた。
「少しなら、金もある。とりあえず、今日眠るための屋根と……食事。それに、布団も必要か……それと」
レヴェリルインは、僕のことをまじまじと見つめていた。そして、僕が着ていた服を掴む。
な、何??? 僕は、何か変か!??
焦る僕だけど、レヴェリルインはまた微笑んで言った。
「お前の服を買おう」
「………………え……」
服? 僕の……?
びっくりしたけど、聞き間違いなんかじゃない。僕はしばらく固まって、何度も首を横に振った。
だって、お城がクレーターになっちゃって、今日寝るための屋根や布団、食事が必要なのは分かるけど、その次に僕の服を買うのはおかしい。
僕は素っ裸でいるわけではなくて、服ならもう着ている。そんなものより、絶対に先に揃えた方がいいものがある。この辺りは魔物も多いんだから、少なくとも魔物避けの魔法具はないと、レヴェリルインたちが危ないじゃないか。
だけど、レヴェリルインは、ドルニテットと一緒に話しながら、街の方に向かって歩き出してしまった。
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