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34.逃亡ですか?
しおりを挟むそれから、ラウティさんが僕の全身をコーディネートしてくれて、なんとか服が決まった。横でラックトラートさんも見ていて、なんだか楽しそう。着替えた僕を見て拍手してくれる。
「似合いますねーー!! レヴェリルイン様と二人で並んでると、まるで兄弟です!!」
き、兄弟?? 僕と、レヴェリルインが??
隣を見上げると、レヴェリルインはすごく嫌そう。
「兄弟はやめろ……」
「そんな嫌そうにしないでください!! 伯爵様……いえ、お兄さんは今、どうしておられるのです!?」
「馬になって荷物を運んでいる」
「それは何かお仕事をしているということですか? 馬……ということは馬車ですか? なるほど……馬車にこっそり乗り込んで、逃走の最中、ということでしょうか? あの伯爵が死ぬとは思えません……今からどこに行かれるんですか!? このまま負けたまま、なんてことないですよね!?」
「うるさい。俺の言ったことはそのままの意味だ」
「なるほど! 馬に変身して逃亡ですか!?」
「違う。少し黙れ」
「でも、このままいくと、クリウールト殿下の言うことが全部本当になっちゃいますよ?」
「…………とにかく、黙れ」
「……」
レヴェリルインに睨みつけられて、ラックトラートさんは黙ってしまう。だけど、震えながらも負けずに、小声で言った。
「そ、そんな怖い顔しないで…………ぼ、僕らも困ってるんです…………このままだと僕ら、魔法使いに追い出されちゃいます……」
「……これから城に戻る。ちょうどいいからついてこい」
「いいんですか!?」
すぐに顔を明るくするラックトラートさん。背後では、警備隊の人が頭を抱えている。
レヴェリルインは、僕に振り向いて言った。
「帰るぞ」
「は、はい! マスター!!」
見上げたレヴェリルインは、なんだか嬉しそう。
ラウティさんが駆け寄ってきて、僕のフードにリボンをつけてくれた。
「守護の効果がある魔法具です。サービス品なので、ここにつけておきますね」
「え…………え??」
「大した力はありませんが……お守りくらいに思っておいてください」
「は、はい……」
「服、似合ってます」
「え……?」
「何か不具合があれば、連絡してください。すぐに直しますから」
「は、はい……」
話していたら、背後からレヴェリルインに呼ばれてしまう。
「行くぞ。コフィレグトグス」
「は、はい!!」
慌てて駆け寄る僕。
お店の外まで、ラウティさんが送ってくれる。店の外まで来ると、彼は持っていた紙袋を全部レヴェリルインに渡して、ペコっと頭を下げた。
「本日はありがとうございました! レヴェリルイン様!! また何かあれば、いつでもお立ち寄りください!」
「ああ……街は今、混乱している。お前も十分気をつけろよ」
「僕の心配より、自分の心配してください。このままじゃ、反逆者ですよ?」
「俺の心配はいい。これからは……好きにする」
「…………何かある前に、僕に連絡してくださいね。商品持って逃げますから」
「……俺をなんだと思っているんだ? 街を破壊するような真似はしない」
そう言って、レヴェリルインは笑って、ラウティさんに背を向ける。僕もついて行こうとしたら、ラウティさんは手を振ってくれた。
僕に服を選んでくれて、リボンもつけてくれた……なんでそうしてくれるのか分からないけど、僕のことを、他の人と同じように扱ってくれたんだ。僕、何もできないのに……すごく嬉しかった。
「あっ……あのっ…………!」
焦って声を出したら、思いの外大きな声が出た。ラウティさんがキョトンとしていて、ますます緊張する。
「あっ……の……あ、ああ、ありがとう……ございました…………! ふ、服……え、選んでもらって……ありがとう……ございました……」
なんとかお礼を言うと、ラウティさんは、にっこり笑って、また来てくださいって言ってくれた。
まだ緊張してるけど……ちゃんと伝えられてよかった。
立ち止まっていた僕に、ラックトラートさんが駆け寄ってくる。
「何話してたんですか?」
「え……?」
「逃亡計画ですか!?」
「ち、違っ……」
慌てる僕の方に、レヴェリルインも戻ってきてくれる。その後ろには、ドルニテットと、馬のままの伯爵もいた。
伯爵は本当に馬みたいに背中に荷物を乗せられている。それがまさか本当に伯爵とは思わないらしいラックトラートさんが、やけに嬉しそうに声を上げた。
「馬まで準備していたんですか!? やっぱり……」
「おい、勘違いするなよ。これは伯爵だ」
そうレヴェリルインが答えても、「またまたー」なんて言って、手帳に何か書いている。楽しそうな彼とは違い、警備隊の人は、ずっとレヴェリルインたちを睨んでいた。
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