普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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47*レヴェリルイン視点*見張り

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「なにしてるんですか? 兄上」

 呆れたように言いながら、ドルニテットが近づいてくる。俺が小さな狼の姿になっているからだ。

 俺だって、好きでしてるんじゃない。正直、この姿になるのは、むしろ嫌いだ。まるで子犬じゃないか。

 だが、コフィレグトグスが怖がるのなら仕方がない。

 俺の隣のコフィレグトグスは、ぐっすり焚き火のそばで寝ている。俺が眠りの魔法をかけたからだ。毛布をかけてやったが、早くベッドに入れてあげた方がいい。彼はまだ、パジャマ姿のままだ。

 しかし。

 こうして、寝ている彼を直接そばで見るのは初めてだ。

 もう少しくらい、眺めていたい。

 彼は、椅子の代わりにした丸太の上で、可愛らしい寝息を立てている。
 そんな顔を見たら、ベッドになんて、運びたくなくなる。ずっとここに置いておきたい。俺のそばに。

 隣に座ったドルニテットが、つまらなさそうにため息をついた。

「……兄上は、それの何がいいんですか? 正直、俺は鬱陶しくてたまりません」
「可愛いじゃないか……これは……可愛くないところがない……」
「……兄上……」

 俺は、ずっとこうして、この男をそばに置きたかった。それが、やっと叶った。彼は、俺のそばにいる。

 寝顔を眺めるのも初めてなんだぞ。後少しだけ……そんな想いが湧いてきても仕方がないだろう。

「こっちじゃないと、コフィレグトグスが怖いと言うんだ」
「だったら、人の姿に戻ればいいのではないですか? そして、その鬱陶しい男と一緒に、テントの中にいてください。見張りなら俺がします」
「それはできない。なぜ俺が狼の姿になっているか、分からないのか?」
「……馬鹿王子の追っ手を警戒するのに、都合がいいからでしょう? その姿の方が、敵の気配を感じ取りやすいからじゃないんですか?」
「見張りなんて、使い魔に任せればいい。むしろ、結界を張るだけでいい。あの間抜けな王子くらい、簡単に騙せる」
「……じゃあ、なんでわざわざそんな格好で見張りなんて言いだしたんですか?」
「こっちじゃない姿でコフィレグトグスのそばにいると、自分を抑えられそうにない。あのままテントにいたら、押し倒していた」
「…………まじめに見張りしてると思ったら、そんな馬鹿みたいな理由だったんですか……」
「馬鹿とはなんだ。俺は今日、自分自身を抑えるのに必死だったんだ。こんなに可愛いコフィレグトグスが、ずっとそばにいて……」
「可愛い? 何がですか? 四六時中、呆きもせずにうじうじうじうじうじうじうじうじ、俺はイライラしてたまりませんでした。兄上がいなかったら、吊るして鞭で打ってやったのに。具体的に、何がどう可愛いんですか?」
「今日は、たくさん俺と話してくれただろう?」
「俺にはなんて言ってるのか解明すらできませんでした」
「俺に感謝してるらしいぞ」
「でしょうね。命を助けてもらってるんですから」
「俺と見張りがしたいらしいぞ」
「むしろ従者なんだから、その男がするべきでは?」
「しかもちょっと俺に逆らっていたぞ」
「え? いつですか?」
「杖は受け取れないと言っていたじゃないか」
「……まさか兄上、喜んでたんですか?」
「どう扱ってもいいらしいぞ」
「……それで? わざわざ隣に置いた男に、眠りの魔法をかけて眠らせて毛布をかけて、忠犬のように見張りですか……我が兄ながら、なんて情けない」
「情けないとはなんだ」
「押し倒しそうだったと言うなら、そのまま勢いに任せて犯してしまえばよかったんです」
「馬鹿言え。やらせろと言って、はいと言われたら、どうするんだ」
「どうって……やればいいじゃないですか」
「冗談じゃない。そんな時にまでいつもの調子で、はい、と言われたら、俺はしばらく立ち直れない」
「…………面倒くさい……本当に、これの何がどういいんですか?」
「いちいち考えすぎて、うるうるした目で俺を見上げていたじゃないか」
「……獲物っぽいところがいいということですか?」

 言われて、隣のコフィレグトグスを見下ろした。
 彼は毛布に包まれて、無防備な顔で寝ている。そばにいる俺が、こんなことを考えているなんて、思いもしないんだろう。

 小動物のような姿で眠る彼は、確かに獲物っぽいと言われればそうなのかもしれない。長く見ていると、我慢できなくなりそうだ。

 せっかく手に入れた獲物だ。本当は、今すぐにでも自分のものにしたい。今すぐ毛布もパジャマも剥ぎ取って、泣き叫ぶ彼の体に食いつきたい。
 けれど、そんなことをして、「はい」だの、「好きに扱え」だのと言われたら、俺は……寝込むかもしれない。
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