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83.そばにいたい
しおりを挟むそんな風に言われたら、ますますレヴェリルインとは目を合わせられなくなる。だって、余計にドキドキするから。
けれど、また顔を背けてしまう僕を、レヴェリルインはずっと見下ろしていた。
「……もしかして、勝手に部屋を出たことを咎められると思っているのか?」
「へ!? えっと……あ、あのっ……! 申し訳ございませんでした…………」
「……俺はそういうことを言っているんじゃない。何かあったのなら、なぜさっさと俺を頼ってこない? さっさと俺のところに来ればいいものを」
「え……で、でも……」
僕、レヴェリルインの従者なんだ。それなのにレヴェリルインを頼るなんて、立場が逆じゃないか? あ、でも、ロウィフが部屋を出て行っちゃったこととか、僕の兄がいることとか、早く伝えたほうがよかったのかもしれない。
レヴェリルインは、僕の頭を丁寧に撫でている。
「頭にも傷があるぞ」
「そ、それは……昔のです……ひゃ!!」
ビクビクしていたこめかみに、柔らかいものが触れた。柔らかくて温かくて少し濡れていて、だけど触れたのは一瞬だけで、何をされたのか、すぐには気づけなかった。
ん……? えっと……く、唇で触れられたように感じたのは、気のせい……だよな? 僕がそんなことされるはずないよな……
まだ少し混乱しているけど、そこに自分で触れたら、自分がされたことも思い出せた。
やっぱりキスされたんだ!!
なんで!?? 何でそんなことされたんだ!??
なんで……キスなんて……
一瞬だったから、ちゃんと覚えてない。勿体ない……っ!! せっかくキスしてくれたのに!
何でそんなことされたのか全然わからない。
キスされたって思うたびにドキドキして、俯く僕を、レヴェリルインは、ずっと撫でていた。
「……なぜ、ギルドを出たんだ?」
「え……えっと…………」
どうしよう……せっかくレヴェリルインが聞いてくれているのに、僕はもう上の空だ。レヴェリルインが僕に話しているのに……!
どうしても、キスのことを思い出してしまう。
そんな僕に、レヴェリルインは優しい声で続けた。
「ロウィフのことなら、放っておいていい。あいつがここに来たところで、俺がなんとかする」
「……はい……」
「だいたい、なぜ屋敷に入ってきた? お前、ここに兄がいることには気づいていたのだろう?」
「……はい…………」
「……本当は、兄に会いたかったのか?」
「ち、違いますっ! ただ、その……あの…………あ、あの……僕、し、心配……だったんです……」
「心配? 何がだ?」
「……マスターが……」
うつむきながら、答えた。
こんなの、図々しいって分かってる。だって、レヴェリルインに比べて、僕は何にもできない。
だけど、心配なものは心配なんだ。
それに、どうしてもレヴェリルインのそばにいきたかった。多分、そういう下心がいっぱいあったんだ……
なんだか胸が痛い。自分の下心を自覚してしまって。僕は結局、レヴェリルインに会いたかったんだ。だから来たんだ。
僕が俯いていると、レヴェリルインは驚いて言った。
「……俺が心配……だったのか?」
「……は、はい……」
「そうか……」
怒られると思っていたのに、彼はずっと僕の頭を撫でている。な、なんだか、嬉しそう??
「帰ったら仕置きだぞ」
「はい……」
「部屋に呼んでずっと撫でていてやる」
「へっ……!?」
それって……仕置きでもなんでもない気がする。だってそれは、ずっとレヴェリルインのそばにいられるってことじゃないか。
信じられなくて見上げたら、レヴェリルインは、僕に微笑んでいた。
もっとそばにいてほしい。なんならさっきみたいに、強く抱きしめて欲しい。僕以外に近づかないで欲しい。僕以外と楽しそうにしないで欲しい。
どうかしてる。僕は従者なのに。精一杯仕えるって決めたのに、彼に対する感謝だって、今も変わっていないはずなのに、湧いてくる感情を彼に向けてしまう。
こんなの知られたら嫌われる。従者にしてもらえなくなる。そばに置いてもらえなくなる。だけど……どんどん湧いてくる気持ちは既に溢れている。気づかれるのだって、すぐなんじゃないかな……
何だか怖くなりそうな僕を連れて、レヴェリルインは帰路に着いた。
それから僕らは、ギルドに戻ってきた。アトウェントラとコエレシールは、バルアヴィフと一緒に、回収できた魔法具の調整をしていたらしく、回収した魔法具を慎重に運んでいた。
ロウィフは、後からやって来たドルニテットに捕まっていて、彼にウサギの姿のまま抱っこされていた。ラックトラートさんがそれを見て、勝ち誇ったように笑って「ロウィフが悪いことしようとするからです!」って言い出して、ウサギのままのロウィフと喧嘩になりそうになったり、帰り道は少し騒がしかった。
その間も、レヴェリルインは僕のそばにいてくれて、ただ歩いているだけの時間なのに、僕はすごく楽しかった。
冒険者ギルドに着く頃には、もう夜になっていて、受付の人も、僕らのことを心配していたらしい。ギルドのドアを開いたら、すぐに受付の人が飛び出してきた。
「レヴェリルインさまーー!! どこ行ってたんですか!! 心配したんですよ!!」
もうほとんど彼は泣き出しそうな勢いだ。よほど心配していたらしい。レヴェリルインに「大丈夫だ」っていわれて、泣きそうなままの顔を上げた。
「ま、魔法具の回収に行ったきり、全然帰らないから……な、何かあったのかと思いました……絶対街でトラブル起こしたんだと思って……」
それを聞いて、レヴェリルインは嫌そうな顔をする。
「……お前は何の心配をしていたんだ?」
「えーっと……レヴェリルイン様が王子殿下に腹を立てて城を爆破した話を聞いてから、ずっと色々心配してたんです……」
「……」
「あ!! それより、人魚族の人が、レヴェリルイン様に会いに来ていました。明日、海岸線の方に来てほしい、とのことです」
「行き違いになったのか?」
「はい……でも、海岸線には入っていいって言ってました。レヴェリルイン様のこと、待ってるそうです。ところで……レヴェリルイン様」
「なんだ?」
「実は……お願いしたいことがあるんです」
「お願い? 俺にか?」
「はい!! 最近、この辺りではひどく魔物が増えていて……負傷する冒険者たちが増えているんです。ですから……治療を手伝っていただけませんか? もちろん、報酬はお支払いいたします! どうですか?」
受付の人に聞かれて、レヴェリルインは少しして頷いた。
「代わりに、うまい食事を出すところを教えてほしい。俺の従者を休ませたいんだ」
レヴェリルインは、僕の頭を撫でてくれる。僕のために、そんなこと言ってくれているのか?
受付の人は、すぐにはいって返事をしていたけど、僕はレヴェリルインが一緒でないと嫌だ。
「あ、あの……マスター……」
「どうした?」
「あ、あの……できれば僕にも……手伝わせてください」
我ながら、何を言ってるんだろうって思った。だって、僕に回復の魔法は使えない。魔力もない。だけど、離れたくない。それに、僕は彼の従者なんだから、彼の力になりたい。
レヴェリルインは、僕を見下ろして微笑んでくれた。
「回復の魔法具なら、お前にも使えるはずだ。手伝ってくれるか?」
「はい!!」
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