いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
1 / 15

1.何を言ってるんだ?

しおりを挟む
 少し前に、城内で大きな断末魔みたいな叫び声が聞こえた。その時は怖かったけど、なんなのか分からなかった。そしてしばらくして、それはある魔法使いに、城で働く魔法使いが襲われた時の悲鳴だと聞かされた。城の噂なんて信じないけど……
 しばらくして、その時聞いた、恐ろしく残酷な魔法使いだと言われている男に初めて魔法の道具を見せに行くことになった時は、正直、縮み上がるくらいに怖かった。

 僕は、領主様の城で働かされている、魔法使いのフェイヴェレル。一応貴族の出身の魔法使いだけど、いつも失敗ばかり。

 その日は、城で魔物の討伐に関する会議が開かれることになっていて、それに出席するために来る伯爵様に、城で管理している魔法の道具を見せる役割を言いつけられて、少し張り切っていた。普段領主様が大切なお客様の相手を言いつけることなんて、ほとんどないから。

 夕方ごろに来るって話だったのに、その人が来たのは昼過ぎ。僕はびっくりしたけど、領主様にすぐに用意するように言われ、慌てて倉庫に走った。

 そしたら魔法の道具は今朝の魔物討伐で損傷していて、なんとか修復したけど、安全の確認をお願いしたら先輩の魔法使いには散々嫌味を言われて、それを見ていた使用人に、お茶を出す役目を押し付けられた。

 失敗ばかりの僕を、他の魔法使いも貴族も使用人たちまで心底見下している。だから、そんなこともいつものことだ。それに、魔法の道具の話ができるのは少し嬉しかったし、珍しくその日は、気持ちが弾んでいた。

 だけど、お茶を入れていたら、その客が、屋敷の地下室に魔法使いたちを磔にしては拷問し、その魔力を吸い取ると言われている魔法使いだと聞かされたんだから、怖すぎる!

 客として城を訪れた伯爵家の魔法使いのヴァソレリューズ様は、世界中全ての魔法を一通り使えるらしく、その中でも得意なのは、相手から魔法を吸い出す吸収の魔法。吸血鬼族としての力も持っていて、魔力と人の命が大好物なんだとか……

 実際に城内を歩いていた魔法使いが捕まって、魔力を吸い出されそうになったこともあるらしい。城中に恐ろしい悲鳴が響き渡っていたことは、僕でも覚えてる。

 僕……襲われたりしない……よな…………魔法の道具も修復したばかりだし……

 そんなことを考えながら、僕は、ワゴンにお茶とお菓子と、魔法の道具を入れた小さな箱を乗せて、緊張しながら、その人のいる部屋に向かった。

 部屋のドアをノックすると、すぐに「どうぞ」と言う優しい声が聞こえる。恐ろしい噂話からは予測できない、穏やかな声だ。

「し、失礼します……」

 中に入ると、そこに来ていたのは、背の高い魔法使いだった。黒いローブを着て、金色の長い髪がなびき、美しい目がこちらを向く。微笑んだ口元に、微かに牙が見えた。残酷なんて言葉の似合わない、穏やかな表情だ。

 その男は僕に振り向くと、「君は?」って聞いてきた。

「あ、えっと……領主様にお仕えしています、フェイヴェレルと申します。お茶とっ……魔法の道具をお持ちしました」

 まだ緊張しながら言うと、その男は「ふーーーーん」と言って、僕に近づいてくる。

 な、なにっ…………何の用!??

 一歩下がる僕だけど、彼は、僕の隣をすり抜けて、ワゴンの上の魔法の道具の入った箱を開いた。中には、歯車をいくつか組み合わせたような形の魔法の道具が数個詰まっている。

 なんだ……魔法の道具を見に行っただけか。

 ホッとする僕に、彼は振り向く。

「…………一つ一つ、安全を確認しながら持ってきてくれたの?」
「へっ……? は、はい……」

 相手は客なんだから、魔法の道具が暴走しないかの確認くらいする。そもそも城内でも、そういう決まりになっているんだ。

 けれど、彼はそれが嬉しいようで、魔法の道具の一つをつまみ上げる。するとそれは、淡く光り出した。僕が安全を確認した時に使った魔力が、魔法の道具の中にまだ残っているんだ。魔法の道具が動かないように、全部抜いておかなきゃいけないのに。

「も、申し訳ございません!!」

 慌ててその道具を取り上げようとしたけど、彼はそれを僕から遠ざけてしまう。

「謝ることないよ。ちょっと見せて」

 彼は、ずっとそれを眺めている。なんだか楽しそうだ。魔法の研究を続けているらしいけど、こういうものに興味があるのかな?

 だけど、彼がそれに顔を近づけようとしたから、びっくりした。

「あ、あのっ……魔力を抜いてからっ……」

 止めようとする僕を押し退けて、彼はそれにキスしていた。

 しかも、舐めている。まるで美味しいものを舐めているみたいに。

 な、何をしているんだ……??

 不思議だったけど、彼がその魔法の道具に舌を当てると、その魔法の道具から魔力の光が消えていく。

「本当だ…………魔力を感じる」
「………………」

 これが、この人の魔力を吸収する魔法か……?

 ちょっとびっくりしたけど、魔力目当てに人に襲いかかって強引に魔力を奪う人は結構いる。だけど、そんなことをしそうな気配はないし……単に、本当に魔力が好きな人ってだけなのかな……

 そして彼は、僕に振り向いた。

「こっちに来て」
「え…………」

 なんで?

 あんまり行きたくないんだが……

 だけど戸惑っていたら、彼は僕に近づいていた。

「ちょっと魔力の確認をするだけ」
「ま、魔力…………? わっ……!!」

 驚く僕の手を握り、彼は強く引き寄せる。そして、僕の手の甲をペロっと舐めた。

「えっ………………………」
「……本当だ。同じ味がする」

 その怪しげな目で、彼は僕を見上げていた。その目はやけに満足げだけど……

「…………っっっっ!!??」

 慌てて、手を引っ込めた。

 な、何っ…………!?

 魔力を抜かれたような感じはない。だけど、だったらなんで舐めるんだ!!??

 僕はひどく驚いているのに、そいつはなんでもないことみたいに軽く謝った。

「ごめんごめん。あまりに美味しそうだったから」
「………………」

 美味しそうって…………僕じゃないよね? 魔力は抜かれてないし……新鮮そうに見えたとか、そんな意味!? 新鮮…………って……何? な、何をされたんだ、僕!

 混乱しそうな僕に、その人はにっこり笑う。

「今度来た時にも、魔法の道具を見せてほしい」
「え…………」
「約束だよ?」

 ……あんまり来たくない……それに、そんなことは僕に決められない。

「……約束は、できません。僕には、それを決めることができないんです。領主様に確認していただかないと…………」
「領主が許可したら、君が持って来てくれるの?」
「え…………? えっと……はい…………」

 領主様なら、すぐに僕を差し出しそうだけど……

 僕が「はい」って答えたら、彼は嬉しそうだ。お菓子が並んだテーブルを指差して言う。

「そこに座って」
「へ!?」

 びっくりした。座る? 僕が??

「一緒にお菓子を食べながら、魔法の道具の話を聞かせてほしい」
「…………」

 この人……何言ってるんだ? 僕と? お菓子を食べたい?

 そのテーブルに並んでいるものは、領主様とお客様のもので、僕のものではない。

 それに、さっきされたこともあって、ちょっと怖いんだが。

 戸惑う僕に、彼は再度席に座ることを勧める。よく分からないけど、僕が拒否することは許されていないし……

 恐る恐る椅子に座ると、領主様が来るまでの間、彼はいろいろな魔法の話をしてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?

こたま
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…

竜神様の番

田舎
BL
いつかX内で呟いた、 『えーん、えーん…💦 竜人の攻めが長いこと探してた番の人間くんを探して(半強制的)に結婚したのに、ツンデレどころかクーデレが過ぎてたせいで、ある日人間くんが「離縁します」と置き手紙残して失踪…! 後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』 という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。 「番」とは何かも知らされず、 選択肢すら与えられなかった人間リオと、 大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。 ちゃんとハッピーエンドです。

天使、養育中!

ユーリ
BL
紬はひょんなことから天使の子供を養育することとなった。しかもなぜか、付き合ってもいない同僚と天使の子を夫婦として育てることになり…? 「紬、家族になろう」優しいパパ×不器用なママ「僕はキミの奥さんになった覚えはないよ…」ーー「ボクはパパとママのむすこなのです!」無邪気な天使に振り回される!

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

記憶喪失になったら弟の恋人になった

天霧 ロウ
BL
ギウリは種違いの弟であるトラドのことが性的に好きだ。そして酔ったフリの勢いでトラドにキスをしてしまった。とっさにごまかしたものの気まずい雰囲気になり、それ以来、ギウリはトラドを避けるような生活をしていた。 そんなある日、酒を飲んだ帰りに路地裏で老婆から「忘れたい記憶を消せる薬を売るよ」と言われる。半信半疑で買ったギウリは家に帰るとその薬を飲み干し意識を失った。 そして目覚めたときには自分の名前以外なにも覚えていなかった。 見覚えのない場所に戸惑っていれば、トラドが訪れた末に「俺たちは兄弟だけど、恋人なの忘れたのか?」と寂しそうに告げてきたのだった。 トラド×ギウリ (ファンタジー/弟×兄/魔物×半魔/ブラコン×鈍感/両片思い/溺愛/人外/記憶喪失/カントボーイ/ハッピーエンド/お人好し受/甘々/腹黒攻/美形×地味)

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

処理中です...