嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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8.君を虐げた奴らは、俺が全部

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 ……落ち着け。

 まだ、そうと決まったわけじゃない。

 相手は王族。貴族たちの力が欲しい時もあるだろう。そのために、策略に乗らなくてはならないこともあるはず。

 僕は怒っているんだ。貴族たちに乗せられて、勝手にこんなことして! どんな事情があるにせよ、僕に一言くらい相談しろ!!

「危ないよ。馬車が動く」

 言われて、僕は大人しく座った。馬車の中で転んで怪我はしたくない。

 すると、殿下は僕に、ワイングラスを差し出してきた。

「お酒は飲む?」
「…………は? いりませんよ」

 何言ってんだ、こいつ。

 罪人に酒を出してどうする?

 ……もしかして、酔わせて魔法を使えなくして、拘束しやすくすることが目的か? そうでなければ、毒でも入っているのかもしれない。正気を失わせて、尋問しやすくするとか!

 そんなところだろう。クズめ……!!

「そんなもの、僕の口にはあいません。出直してきたらどうですか?」
「分かった。別の酒を手に入れてくるね」
「い、いりません!!!!」

 慌てて、止める。だってすぐに殿下が立ちあがろうとするから。

 なんで僕が断ったくらいで、新しい酒を用意するんだよ!

「酒なんているか!! こんな時にっ……!! 僕の屋敷はどうなるんだ!! 屋敷にいたみんなはっ…………僕を舐めるなよっっ!! 勝手に屋敷の取り壊しなんて決めてっ……何が断罪しに来たんじゃない、だ!! そんなこと、信じられるものかっっ!!!! 恩知らずで恥知らずの嘘つき王子めっっ!!」
「…………」

 つい、感情のままに叫んでしまった。

 落ち着け……何をしているんだ。冷静さを欠くなんて。これこそ隙じゃないか。

 くそ……焦っているのか? こんなことをしていたら、見くびられる。僕がしっかりしなきゃ……僕に仕えてくれたみんなだって、あの屋敷だって守れない。

 それなのに、僕に「恩知らずで恥知らずの嘘つき」と言われた王子は、キョトンとして、僕を見上げていた。

 なんなんだよっ…………

 その顔が少し悲しそうにも見えて来て、僕の方が悪いことをしたような気になる。僕、何もしてないのに。

 それなのに、王子は僕を見上げて言う。

「……本当に俺は、そんなことをしに来たんじゃない。これまで、辛い思いをさせてごめん……」
「な、馴れ馴れしく話すなっ……! 僕はっ……!」
「君が貴族たちに不当に扱われ、蔑まれて、苦しい思いをして来たことは知っている」
「……だからなんですか!? 同情か!? 必要ないわっっ!!」
「そんなんじゃない。これから、君を虐げた貴族どもを全て断罪しに行く」
「…………は?」

 ……何を言っているんだ、この王子は。

 虐げた貴族を全て断罪って……そんなこと、できるわけない。

 だって、今は王家にとって大事な時。第一王子殿下が即位するまでは、敵対していても、あまり貴族たちの怒りは買いたくないはず。王の周りで育った奸臣たちも、まだ力を持っているはずだ。有力貴族たちは味方につけておきたいはずだ。

 どう考えても、僕を切り捨てて断罪し、貴族たちの機嫌をとりつつ、自分達に力を貸すように交渉するのが得策だろう。僕でなくても、結界の維持はできるんだから。

 切り捨てられたいわけではないが、王家にとってはそれが最善の策のはず。元々僕は、揉め事を起こして捨てられた魔法使いだ。いなくなっても、どうってことないだろ!

 それなのに……

 王子は僕に手を差し出す。

「本当だよ。だから、俺と来て欲しい」
「…………来てって……どこに…………」
「君らを蔑んで、手を出した貴族どもの首を……全部切り落としに行く」
「………………」

 そんなこと、できるわけない。

 彼は王子だ。これから、大臣になることも決まっている。きっと、即位する第一王子殿下のそばで、一番の側近となって、治世に関わり立派に王族として敬われていくんだ。

 そんな彼が、こんな国のはずれに追いやられた嫌われ者のクズの魔法使いを迎えに来て、僕に手を出した貴族を断罪するって? みんな有力貴族じゃないか。そんなこと、できるはずがない。

 ……冗談で言っているのか? それとも、僕をからかっているのか?

「ふっ……ふざけるなっっ!! そんなこと、誰が信じるものか!! 貴様は王子だろうっ……! そんなこと、できるはずがないっっ!! 僕をからかうなっっ!! こんな時にっっ!!」

 馬車に響いてうるさいほどに怒鳴るのに、殿下は怒り出したりしない。ただ、冷静な目で僕を見上げて、かぶりを振った。

「……信じてもらえないのも、仕方ないよね……これまで、俺たちの君に対する扱いは、ひどいものだった……」
「……い、いや…………別に、殿下に何かされたわけでは……」
「だから、信じてもらえるように頑張るよ。君からあの場所を奪うつもりなんてないから……今だけ俺と来て欲しい。君には絶対に手を出さないって、約束するから」
「…………」

 ……そんなふうに下手に出られると……

 言うことなんて聞くつもりはないけど、言い返せなくもなる。

 まさか、本気で言っているのか? 到底できるはずがないのに。

「……信用はしない。だ、だが……まあ、い、一緒に行くくらいは……い、行ってやらなくもない……です……」

 情けなく言って、座り直す僕。

 くそ……これだけ訳がわからないのは初めてだ!! 見くびられないようにせいぜい虚勢を張って気をつけていたのに、動揺ばかりだ。

 そんな僕とは違い、殿下はなんだか嬉しそう。

「ありがとう…………じゃあ、これも飲んでくれる?」

 そう言って、また酒の瓶の口を向けてくる。
 魔法で僕の前にワイングラスまで飛んできた。しつこいぞ……

「いりません……」
「じゃあ、ジュースにする? 国中の美味しい果物を使ったジュースを用意したんだ」

 そう言った彼の背後に、いくつも瓶が現れる。どれも、ジュースの瓶だ。多すぎて怖いんだが。

「い、いりません……」
「お茶もあるし、ミルクも用意したよ。あ、媚薬なんてのもあるんだけど……」
「いらないって言ってますよね!!??」

 なんなんださっきから!! 媚薬って何!? なんでそんなもん、僕が飲むんだよ!!

 意味が分からないし、次々何か出て来て怖い!!

「どれも必要ありません! そ、そうかっ……僕を馬鹿にしているんですね!? そんなもの、僕の口に会うはずがないだろう!!!!」
「…………そうか……そうだね。この程度じゃ、満足してもらえないよね……今すぐ、国中の飲み物を用意するね」
「はっ…………!???」
「待っててね。魔法で飛んで行ってくるから」
「まっっ……待って待って待って!! 待ってください!! あのっっ……もう十分です! 本当に十分です!! ありがとうございました!!」
「え……でも…………」
「ほ、本当に大丈夫です…………あの、喉乾いてないので…………すみません……」

 何を謝っているんだ、僕は。
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