嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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9.なんでそんなことを

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 結局大人しくジュースを受け取った僕。魔力で毒が入ってないか調べても、やっぱり何も入ってない。

 何してるんだろう……僕……

 こんなことしなくても、断ればいいのに……今日は早朝から忙しかったから、魔力だってあんまり残ってないのに、僕は本当に一体、何をしているんだ……

「そんなことしなくても、こっちの媚薬にすればいいのに」
「…………いりません」

 殿下はさっきから媚薬を進めてくるし……

 なんでここで媚薬が出てくるんだよ。訳がわからない。媚薬と見せかけて毒が入ってないか調べたけど、本当に、ただの媚薬だ。

 なんで僕に媚薬を飲ませようとしてるんだよ……それを使って僕をどうするつもりなんだよ。それでやりたくなった僕に襲われたら、殿下はどうするつもりなんだろう。

 しばらく会わないうちに、訳わからなくなったな……殿下。

 毒が入ってないって分かったのに、なんだか怖くて、あんまりジュースも飲みたくない。

 じっとワイングラスを見下ろしていたら、急に腕が軽くなった。回復の魔法をかけられたんだ。正面に座った殿下に。

「……なんの真似ですか?」
「痛そうにしていたから。炎の魔法で負った火傷、もう痛くない?」
「………………え?」
「火傷。したんだろ? この先にある砦で」
「………………なんで……」

 なんで、砦のことまで知ってるんだ? だってそれ、今朝のことだ。殿下はまだ僕の屋敷にだって到着してない時間のことだぞ。それなのに……

「今日は約束の時間に来るのが遅かったみたいだけど……なんで?」
「…………そんなこと……どうでもいいですよね?」

 確かに僕は、殿下が来ると言っていた時間に、あの屋敷に帰ることができなかった。だけど、なんで今さらそんなこと言うんだ?

「その件なら謝りましたよね? 遅れたことは申し訳ございません。罰があると言うなら受けますよ?」
「そうじゃない……砦の魔法使いに、足止めされていたんだろ?」
「………………え?」

 驚いて、顔を上げた。

 殿下はじっと、僕の方を見つめている。特に怒っているような顔じゃなくて、ただじっと見つめられて、僕は怖くなりそうだった。

「この先の砦で、頼まれていた結界の道具を渡す時に、難癖をつけられて、砦から出してもらえなかったんだよね?」
「…………」

 確かにそうだが……なぜそれを、王子殿下が知っているんだ?

 だって、ここについたばかりだろ?

 砦に来ていたのか?

 いや……そんなはずない。あの砦には、確かに僕と、砦を管理する貴族、そいつの従者たちしかいなかった。殿下があそこであったことを知っているはずがない。

 これまでも、たまにそう言うことされていたし、貴族たちの噂で聞いたのかな? 王都の貴族に逆らった馬鹿な魔法使いが嫌がらせされてるぞーって。

 別にいいけど。だけど、そんなことは殿下に関係ないだろう。

 それなのに殿下は、首を傾げて言う。

「違うの? 砦に行って聞いて来たんだけど?」
「……砦に? なんでわざわざそんなことしてるんですか……」
「…………王城で、色々聞いていたから」
「…………」

 色々? あ、僕の噂をか。

 聞いたの? あれを?

 だったらますます、僕になんか会いにくるなよ。だって、どうせひどい噂だったはずだ。王都の貴族たちが、僕のことを口汚く罵ってるの、全部知ってるんだからな。

 それなのに……よく僕と同じ馬車に乗ったな……どう言うつもりだ?

 だって多分、すぐに魔法で攻撃してくるわがままな役立たず……くらいのことを言われているはず。やってもいない僕の悪事の数々だって、広まっているはずだ。

 それなのに、僕と同じ馬車に乗ったりして、怖くないのか? 悪人と恐れられた僕が、拘束されたことに腹を立てて、魔法を撃つかもしれないのに。
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