夢の中の雪

東赤月

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日常

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 午後の授業が終わり、ホームルームが進行している教室で、僕は深谷彩花さんの心情を推測していた。
 深谷さんがどういった思いで部長の思惑にのったのかは定かではないけれど、部長の遊びやノリに付き合える程度にはくだけた性格をしている彼女のことだ、もしかしたら面白半分で付き合っているのかもしれない。
 だが僕がそれに付き合う義理は無い。面白い反応を求められていても、あの部長に対し弱みを握られることは避けたかった。
 頭の中で告白ドッキリの他にもいくつか実験(またの名を悪戯)の候補を挙げたところで、ホームルームが終わった。途端に教室が騒がしくなる。僕は手提げ鞄を肩にかけると、一際騒がしい集団の中にいる広太に声をかけた。広太は話をしていた級友に、ちょっと待って、と断ってからこちらを向く。
「どうした?」
「広太は今日、部室に行くのかどうか聞きたくって」
「……いや、行かないよ」
 僕が尋ねた途端に歯切れの悪い言い方になり、僕に向かって合掌する。面倒ごとに巻き込まれたくは無いのだろう。僕としては、一人で来て、とは言われていないことを利用し、二人で行って部長の思惑を外したかったのだが、仕方がない。
 見ると、先ほど広太と話していた何人かのクラスメイトらも、僕に向かって手を合わせていた。
 部長の噂はかなり広まっているとはいえ殆ど迷信としてしか伝わっていないはずなのに、まるで死地に赴く人間にするかのように接せられるのは何故だろう。広太が彼らにどのような説明をしたのかが気になった。
「ねえ、広太君の言ってたこと、本当かな」
「間違いないでしょ。ほら見て、あの通夜の如き空気」
「先輩から聞いた悪魔の肉体改造伝説は、本当だったの?」
「深谷さんに呼び出されたとなれば、例え罠だと分かっていても断れないからな。なんて周到なんだ……」
「こんなにも早く級友を一人失うことになるなんて……。くっ!」
「また一人、闇に引きずり込まれ帰らぬ身となる哀れな犠牲者が生まれるのか……」
 広太がしたらしき噂を背後に聞いた。どうやら他の噂をも利用して僕の危険をアピールしてくれたらしい。その配慮はとても有り難いのだが、改めて部長の悪戯の凄まじさを実感せざるを得ず、部室に行く気がどっと失せていった。
 試しに「アイルビーバック」と棒読み口調で言いつつ力なく親指を伸ばした右手を上げたら、数人が目頭を押さえて上を向いた。彼らの想像する僕の未来像が遠からず当たっているような気がして、さらに気分が重くなった。
 ため息と共に、教室を後にする。このまま逃げ出したい気分だったが、逃げた後日行われる部長の報復はより恐ろしいものだ。行くしかなかった。
 教室を出て、一旦職員室に向かう。部活動のため部室を使う場合、職員室から鍵を借りる必要があるためだ。部長が僕に待ちぼうけをさせるつもりで呼び出した可能性もあるので、先ずは鍵がちゃんと貸し出されているかどうかを確認する必要があった。
 職員室についた。失礼します、と断り、特に返事が返ってこないことを確認してから職員室の扉を開ける。入ってすぐ左側にある、鍵の貸し出し状況が記されたノートを見ると、文芸部の部室である視聴覚準備室の鍵は、深谷彩花の名義で既に借りられていた。それだけ確認してから、失礼しました、と言って職員室を出る。待ちぼうけをさせるつもりではないらしい。
 職員室から部室へと向かう間、窓からは校舎と隣接した屋外プールが見えた。水泳部と思われる生徒が水しぶきを上げて泳ぐ姿は何とも涼しげに見える。
 プールの向こうに見えるグラウンドでは、どこかの体育会系部員が走っていた。
 開け放たれた窓からは、蝉の合唱が飛び込んでくる。空気は熱気を帯び、何かを急かすかのように体温を上げる。
「夏、か」
 ため息と共に漏らした呟きは、蝉の声にかき消される。
 これが高校生となった僕の、新たな日常だった。
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