夢の中の雪

東赤月

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部長の姿

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「儂は専門家じゃ。大船に乗った気でおるがよい」
「それでも、僕より一つしか年が違わない、女の子じゃないですか」
「ほう」
 部長は再び足を止めて振り返った。僕が視線を戻すと、その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「儂じゃ不服か?」
「そういうわけじゃないですよ。ただ……」
 少しの間、口籠る。僕が言おうとしている言葉は素人意見そのもので、部長にとっては煩わしいものかもしれないから躊躇った。けれども、僕は自分の気持ちを伝えたかった。
「部長から見れば、深谷さんから僕を守ることは、当然のことをしているだけかもしれませんが、僕にとっては、部長に命を救われているも同然なんです。そんな、助けられるだけの何も知らない第三者としては、部長はとても凄い人のように思えます。ですが、同時にとても大変なことも当然のように受け止めて、それを平気だと言えてしまう、そんな危なっかしさを感じるんです。全部自分だけで引き受けてしまうような、独力のみで解決しようとするような、そんな人に映ってしまうんです。だからその、おこがましいと思われるかもしれませんが、無理はしないで欲しいんです。僕程度が何をしたって微力にすらならないかもしれませんが、何か協力がしたいんです。助けられるだけじゃ嫌なんです。可能な限り、貴女の力になりたいんです」
 緊張からか、饒舌になってしまった。言わなくていいことまで言ってしまった気がする。
 少しばかり後悔している僕に対し、部長は一つ頷いて言った。
「確かにおこがましいな」
 ぐさ、と僕の心に言葉のナイフが刺さる。覚悟はしていたつもりだったけれど、中々こたえた。
「儂が自分の力だけで無理してでも物事を解決しようとしていると思い込むのは自由じゃが、何の力を持たない人間が下手に手伝うと逆効果を生む可能性があることは知っておろう。自分の非力を自覚してまで手伝いたいと言うのは、非力でも何か出来ると勘違いしている愚か者だけじゃ」
 部長の言葉に、僕は何も返すことができない。貸せるほどの力を持たない僕は、全てを部長に任せるしかない。当然だ。
 分かっていたはずなのに、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。他人に頼ってばかりいる自分を、自尊心が許せなかったのだろうか。誇れるほどの力も持たないくせに。
「すみませんでした」
 深々と頭を下げる。このまま置いて行かれても文句は言えないと思った。僕は、馬鹿だった。
「謝らずともよい。お主の善意は嬉しいぞ」
 ふふふっ、と笑う部長はいつもと同じだった。まるで動じない理由を部長の過去に見た気がして、益々申し訳なく思う。
 僕のような素人の的外れな意見を、部長は何度も言われてきたのだろう。その度に今のような反応をして、一般人と自分との見解の違いを悟っていったのだろう。
 僕は部長にとって、どうしようもなく一般人になってしまった。見限られて、しまった。
「それに、儂はお主を非力じゃとは思っておらぬよ」
「えっ」
 驚き、頭を上げる。
「でなければ儂の仕事につき合わせたりはせぬさ」
「あ……」
 今更ながら、僕は今自分がどこに向かおうとしているのか思い出す。そうだ。僕は部長の手伝いをするために、今ここにいるのだった。それは、僕の力が少ないながらも部長の助けになると認めてくれたからだろう。囮としてではあるが、手助けには変わりないはずだ。
「さあ、いつまでも落ち込んでいる場合ではないぞ。まだ問題は解決しておらん。謝罪も後悔もその後にするのじゃな」
「……はい。ありがとうございます」
 僕はもう一度、大きく頭を下げた。
 申し訳なさと、感謝を込めて。
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