夢の中の雪

東赤月

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深谷さんの家

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「着いたぞ」
「ここですか」
 僕たちは比較的大きな家の前で立ち止まった。住宅街とは少し離れた場所にある、落ち着いた雰囲気を持った木造家屋だ。屋根も瓦で敷き詰められていて、庭も広そうな、古き良き日本家屋といった感じである。
「凄いですね。深谷さんはこんな場所に住んでいるんですか」
「父が中々売れている純文学の作家だそうじゃからな。一般人よりかは財を持っておるのじゃろう」
「どこで知ったんです、それ?」
「それとなく彩花に聞いたのじゃよ」
 部長の情報量の多さに一種の恐怖を感じた。ある意味、深谷さんより恐ろしく思える。
「さあ、入るぞ」
 部長は、ここに至るまでと変わらぬ足取りで敷地内に入る。何とも頼もしい人だ。僕も続いて足を踏み入れる。
 ぞわ、と毛が逆立つ。
 僕は一歩足を踏み入れた形で固まってしまった。空気の質が、その意味が、境界を超えることで変わったと感じた。急激に体が冷えたように思え、汗が凍ってしまったんじゃないかと錯覚する。持っていた多少の余裕も吹き飛んだ。さっきまでは大きい屋敷だとしか思っていなかったのに、今じゃ本当に妖怪が出る屋敷だと言われても信じてしまいそうな、そんなおぞましい雰囲気が漂っている。
 自然と、首だけが動き、その原因を探そうとする。そして、見た。
 見て、しまった。
 深谷さんが、二階の窓越しにこちらを見ていた。口元を歪ませ、微笑んでいた。とても、とても嬉しそうに。
「何をしておる、真」
 はっとして、呼びかけられた方を見ると、部長が玄関の前に立ちこちらを見ていた。
「その、深谷さんが」
 ちらと目だけで窺うと、既に深谷さんの姿は見えなかった。空気が少し軽くなる。体温も戻ってきたようだった。
「とりあえず、来い」
 部長が手招きする。僕は足が動くことを確認してから歩みを再開して、部長の前に着く。
 玄関も綺麗だった。雨や直射日光を避けるための屋根があり、景観を損ねるようなものも殆どなかった。何故か扉のすぐそばに口の縛られたビニール袋が置いてあったが。
「すごい殺気じゃったのう」
 小声で部長が言う。深谷さんに聞かれぬようにするためなのだろう。
「え、部長も感じたんですか」
 倣うように、僕も小声で話す。
「うむ。殺る気満々じゃったの」
「笑顔で言われても笑えませんよ」
「とはいえあれでも常人には気付けぬ。ああいう殺気をと呼べるようなものを人混みの中で発することでお主のような霊力の強い人間を探すのじゃ」
「でも僕、学校の中に限らず最近あんな怖い経験をしたことなんてありませんよ」
「彩花に対する認識の違いからじゃ。当時のお主は霊力の存在も知らなかったじゃろうし、彩花に対して恐れなぞ抱いておらなかったじゃろうから、気付きにくかっただけじゃよ」
 意識の問題、ということだろうか。それだけでああも印象が変わるとは、にわかには信じられないが、部長が言うならそうなのだろう。
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