三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、学生になる

109 西地区の闇(5)

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「旦那様方、首尾は如何ですか?」

 馬車が停車してからおよそ10分、頃合いを見ていただろう御者が声を掛けてきた。

「もう終わったよ」と、私は子供らしい高い声で答えた。

 すると30秒も経たないうちに、馬車を取り囲むような足音が聞こえてきた。

「盗賊だ! 命が惜しければ金目の物を出せ!」

 突然馬車の戸が開き、目から下を布で覆った如何にも盗賊ですって風体の男が、剣を突きつけながら怒鳴った。

 ……盗賊って、自分を盗賊って名乗るの? 【闇烏】ってバレたくないから?

 まさか本当に盗賊が現れるなんて思ってなかった2人の子爵は、咄嗟のことに声も出せず完全に固まってしまう。

「へへ、可愛い顔をしたガキがいるじゃないか。金が無いならガキを差し出せ! そうすれば命だけは助けてやる」

 盗賊と名乗った男は下卑た笑みを浮かべ、私とアレス君を見て舌なめずりする。

 ……ギャー! 気持ち悪い。わざとらしいことを言うな!

「仮にも親として名乗りを上げたんだから、まさか僕たちを盗賊に渡したりしないよね? 持ってる有り金を出すよね?」

 恐怖で顔を引き攣らせている2人の子爵に、アレス君は縋るような視線を・・・向けたりせず、さあ、どうする?って目で問う。

「へへ、貴族の旦那を殺して金を奪い、ガキは売り飛ばせばいいんだ。死にたいなら構わないぜ」

 盗賊家業が板につき過ぎているから、常日頃からこういうことをしてきたに違いない男は、2人の子爵を追い込むように恐怖心を煽っていく。
 盗賊に遭遇したことがなかったのか、事務仕事の子爵はガタガタと震えて何も言うことができない。

「チッ、こっちに来いガキ!」と、業を煮やしたらしい男が、馬車の中に乗り込んできて、私とアレス君に手を伸ばす。

 敵を油断させるため、か弱い少女を演じてオーバーに叫ばなきゃ。

「やめてー! 助けて―!」

 私は叫びながら2人の子爵を見るけど、2人とも視線を合わせないよう顔を逸らした。

 ……お金で子供を買うような人間だもん、期待なんかしてないよ。

「やめろー! 手を出すなー!」

 アレス君も負けじと、感情の籠らないちょっと棒読み加減で叫ぶ。

 馬車の天井で動く気配がしたから、アレス君は盗賊の手を振り払いながら、再び「僕はお前たちを絶対に許さない!」って2人の子爵を見て叫び、私はアレス君の声に被せて「シリス、ステイ!」って、少し低い声で指示を出した。


 再開発地域を出て直ぐに「中央通りまで乗せてくれ」って大声で馬車を止める者が居た。
 御者は既に客が乗っていると言って断ったけど、馬車を止めた者は「確認するぜ」って言いながら勝手にドアを開けた。
 乗合馬車にはよくある光景だから、御者は強引な態度には出なかった。

 聞き覚えのある声だなーって思ったら、最速踏破者のリーダーだった。
 開けたドアの隙間から、少し離れた場所で無関係な人を装っているサブリーダーと光猫シリスの姿が見えた。
 私は慌てて首を横に振り、手を出さないでって目で訴えた。
 リーダーは「チッ、満員か」と吐き捨てるように言って、渋々ドアを閉めた。

 この馬車は普通の乗合馬車を装っているから、荷物置き場が馬車の上部にあって、客がいるように見せるためか大きなトランクが前と後ろに積んであったのを、馬車に乗る前に頭の袋を外され見ていた。
 そのトランクとトランクの間には、今、光猫のシリスが忍んでいる。

 王都の城壁を出て間もなく、天井に何かが乗るような音がして、パトリシアさんが「シリスが来たわよ」って教えてくれた。
 恐らく最速踏破者の皆は、私とアレス君が攫われたと聞き、いろいろ調べて動いてくれたんだろう。

 最速踏破者が動いているということは、ホッパーさんも動いているはず。
 そして犯人は【闇烏】だと気付いて、アロー公爵家にも知らせたはず。
 なのに、行動が遅いよホロル様! 屋敷の騎士とか警備の人とか、軍隊くらい動かしてよ!

 ……まさかこんな時でも、政治的駆け引きとか貴族的な利点とか考えてるの?


「殺すぞ!」と再び盗賊は恫喝し、私とアレス君は馬車の中から引き摺り出されてしまった。
 すると御者は、盗賊に目配せをして頷くと、馬車を発進させ遺跡の方へ逃げていった。
 50メートルくらい進んだ所で、金色の毛並みが美しいシリスは馬車から飛び降り、草むらに姿を隠した。

 ……ここまでは、聞いていた通りの段取りで進んでるわね。

 私とアレス君は、大きな麻袋にすっぽりと全身を入れられ、荷物のように肩に担がれ運ばれていく。

「貴族の奴ら、予想通りガキを渡しやしたね。今頃は、金を取られず逃げられたと胸を撫で下ろしてるんでしょうね。7人も必要なかったっすね」

「ああ、そうだな。でも気を抜くなよ。こっからは失敗できねえぞ。
 前回の依頼では母親は殺せたが5歳のガキには逃げられた。依頼主は前と同じ公爵関係の奴で、死体まで確認にくる念の入れようだ。
 あの時が5歳のガキで、また10歳にもならないガキ2人だ。世も末だぜ」

 ……はあ? 何の話? 5歳のガキ? 
 ……もしかして・・・こいつら、アレス君のお母さんの仇?

『アレス君、大丈夫かなぁ・・・思い出して怖くなったり泣いてないかなぁ』

『いや、許さん、殺す!』って呟いとったぞって、サーク爺が教えてくれた。

『これはもう、痛い目に遭わせるって計画じゃなく、半殺しでええんちゃう?』

『何言ってるのトキニさん、敵討ちなんだから正義の鉄槌を下さなきゃ』

『そうよねパトリシアさん、手加減なんて必要ないわよね』

 今日もパトリシアさんとマーガレットさんは、辛口で容赦なかった。

『サンタさん、300メートル後方からポッパー商会の馬車が、その200メートル後ろを【闇烏】の馬車がゆっくりと向かってきておるぞ』

 何故か皆より遠くまで離れることができるダイトンさんが、偵察から戻って2台の馬車が向かってくると教えてくれた。

 ……きっと1台は、最速踏破者の仲間たちだ。

 後で来る【依頼者】が誰なのか、絶対に顔を見て天誅を下す必要があるから、先にこの7人をなんとかしなきゃ。

「お、おトイレ。出ちゃうよ~」

 迫真の演技で叫びながら、私は足をバタバタさせる。 
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