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腐女神と勘違い
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悠理はその後服部から説教され、部屋へ戻ると、大人しく鍵をかけてベッドに入った。
それはきっと、夢だ。
悠理は気付くと、白いだだっ広い所にいた。目の前には、白いゆったりとした服を着た女性が椅子に座って悠理を見ていた。
「敷島悠理ね。どうかしら」
唐突にどうかと訊かれて、悠理は首を傾げた。
(誰だ、こいつは。それに、どうとか訊かれてもな)
そう考えると、その女性は頬に手を当てて笑った。
「あら、いやだわ。私ったら気がせいちゃって」
悠理はそれに、ややギョッとし、警戒した。
(今、喋ってないよな)
「ええ。喋ってないわよ」
「考えただけでわかるんですか」
「勿論。わたしは女神ですもの」
胸を張る。
(女神ねえ。威厳がないけどな)
「何ですって!?」
「あ、本当に聞こえた」
女神はそこでコホンと咳払いをして、表情を改めた。
「改めて、敷島悠理さん。あなたは死んだ時の事を覚えていますか」
悠理は、ああ、と小さく息を吐いて苦笑した。
「やっぱり死んだんだな。
で、皆はどうなったんです。それとあの化学物質は」
女神は柔らかく笑った。
「部屋を密閉容器化したおかげで、外に漏れる事もなく、研究所の被害だけで済みました」
悠理はほっとした。
「ですが、あなたは爆発の衝撃で何本もの骨が折れ、内臓が破裂し、化学物質を吸い込んだ上に全身に浴びて、体の外からも内からもただれて組織が溶けて、亡くなりました」
言い難そうに女神が言うが、悠理は頷いた。
「どうせそれで苦しむ前に心停止して死んでたんだろうし、別に気にしませんよ。
でも、やはりな。あれを安定化するだけではまだ危険だ。万が一の時に備えて何か手を打たないと、とてもじゃないが実用化は不可能だ」
考え込む悠理だったが、はっと我に返った。
「そうか。もう俺には関係なかったな」
女神は、いたわるような顔をして、悠理を見ていた。
「それで、同僚達は」
「シェルターへの避難が間に合いましたので、骨折や打撲はありましたが、どうにか」
「そうですか。それは良かった」
「それでですね」
「はい」
「どうですか」
そこで、最初に戻った。
「どう、とは?」
「自分の身を捨てての行為に、転生か転移をして報いようという事になりましたので、転移させてみました」
目を輝かせる女神とは反対に、悠理の目が座って行く。
「まさか、あの、列車事故とか何とかいう学校とかは」
「はい!あなたのリクエストに応えてみました!」
「どこが!?」
「だって、言ったじゃないですか。今度はネコになりたいって」
女神がキラキラとした目で言う。
「猫?ああ、言ったな。次はのんびりと……」
「……あれ?」
「ネコ?」
悠理と女神は見つめ合った。男と女が7秒見つめ合ったら恋に落ちると言った者がいるが、恋など生まれはしなかった。代わりに殺意が生まれた。
「あんたのせいか!」
「だって、ネコって言うから、てっきりそっちだとぉ」
「猫って言ったら大抵はキャットを思い浮かべるだろう!?」
「だって、最近BLにはまってるんですものぉ!」
「知るか!」
悠理は頭を抱えた。
「それで、こんな危険な世界の普通ではない男子校に?」
「ええ。立派なネコになっていただこうと。うふふ」
(うふふじゃない。頭が痛い……)
「じゃあせめて、学生時代と同じく、伊達眼鏡も準備しておいて欲しかったな」
「美少年風ヒラヒラ耽美ブラウスは入れておいたわよ」
「あれはそういう意味か。誰が着るのかと思った。全くいらん。
それより、悪魔とか滅力とかいうのは何だ?」
既に悠理の頭に、女神に対する敬意とか感謝という気持ちはない。
「ほかにも立派なネコを目指していただけるBL世界はあったんですよ。でも、あの薬品を浴びたので神の力で修復したら、普通の範疇ではない能力を持つ事になってしまって。それで、この世界ならちょうど、能力も生かせるし、ネコにもなれるし」
「ネコから離れろ」
悠理は力なくそう言った。
悠理が願ったのは、平和に、のんびりと、怠惰をむさぼる猫のように生きるという事だ。決して、悪魔と戦うために身を張り、狙って来る男と戦うためではない。
「どうしてこうなった……」
女神は、勘違いしたことにやや焦ったようだが、誤魔化そうと必死になった。
「その、あれですよ。今は男女別ですけど、学校を出ると普通に男女共いますし」
ピクリと悠理の肩が動く。
「でも、前の人生だって、美人すぎて彼女がいなかったんだから、己を知って、立派なネコを目指せばいいと思うけど」
「放っておいてくれ、腐女神め!」
悠理はもう、血を吐きそうだった。
「ま、まあ、そういうわけですから。ええっと、あの悪魔は、便宜上悪魔と人間が呼んでいますが、新種の生物です。ヒトにとって代わろうとしている新しい生物ですが、あれはほかの生命体を食いつくして己も滅ぶだけで、先がありません。滅してくださいね」
「……また忙しいのか……しかも危険……」
「まあ、その、せめて学生の2年間は、今を楽しむというのでどうでしょう?」
「ああ?」
「では!良い人生を!」
「あ、待てこの腐女神!」
しかし女神は笑って手を振り、悠理の視界はかすんで行った。
「くそ、この腐女神め!
あ……」
カーテン越しに朝の光が差し込む中、悠理は最悪な気分で目を覚ました。
それはきっと、夢だ。
悠理は気付くと、白いだだっ広い所にいた。目の前には、白いゆったりとした服を着た女性が椅子に座って悠理を見ていた。
「敷島悠理ね。どうかしら」
唐突にどうかと訊かれて、悠理は首を傾げた。
(誰だ、こいつは。それに、どうとか訊かれてもな)
そう考えると、その女性は頬に手を当てて笑った。
「あら、いやだわ。私ったら気がせいちゃって」
悠理はそれに、ややギョッとし、警戒した。
(今、喋ってないよな)
「ええ。喋ってないわよ」
「考えただけでわかるんですか」
「勿論。わたしは女神ですもの」
胸を張る。
(女神ねえ。威厳がないけどな)
「何ですって!?」
「あ、本当に聞こえた」
女神はそこでコホンと咳払いをして、表情を改めた。
「改めて、敷島悠理さん。あなたは死んだ時の事を覚えていますか」
悠理は、ああ、と小さく息を吐いて苦笑した。
「やっぱり死んだんだな。
で、皆はどうなったんです。それとあの化学物質は」
女神は柔らかく笑った。
「部屋を密閉容器化したおかげで、外に漏れる事もなく、研究所の被害だけで済みました」
悠理はほっとした。
「ですが、あなたは爆発の衝撃で何本もの骨が折れ、内臓が破裂し、化学物質を吸い込んだ上に全身に浴びて、体の外からも内からもただれて組織が溶けて、亡くなりました」
言い難そうに女神が言うが、悠理は頷いた。
「どうせそれで苦しむ前に心停止して死んでたんだろうし、別に気にしませんよ。
でも、やはりな。あれを安定化するだけではまだ危険だ。万が一の時に備えて何か手を打たないと、とてもじゃないが実用化は不可能だ」
考え込む悠理だったが、はっと我に返った。
「そうか。もう俺には関係なかったな」
女神は、いたわるような顔をして、悠理を見ていた。
「それで、同僚達は」
「シェルターへの避難が間に合いましたので、骨折や打撲はありましたが、どうにか」
「そうですか。それは良かった」
「それでですね」
「はい」
「どうですか」
そこで、最初に戻った。
「どう、とは?」
「自分の身を捨てての行為に、転生か転移をして報いようという事になりましたので、転移させてみました」
目を輝かせる女神とは反対に、悠理の目が座って行く。
「まさか、あの、列車事故とか何とかいう学校とかは」
「はい!あなたのリクエストに応えてみました!」
「どこが!?」
「だって、言ったじゃないですか。今度はネコになりたいって」
女神がキラキラとした目で言う。
「猫?ああ、言ったな。次はのんびりと……」
「……あれ?」
「ネコ?」
悠理と女神は見つめ合った。男と女が7秒見つめ合ったら恋に落ちると言った者がいるが、恋など生まれはしなかった。代わりに殺意が生まれた。
「あんたのせいか!」
「だって、ネコって言うから、てっきりそっちだとぉ」
「猫って言ったら大抵はキャットを思い浮かべるだろう!?」
「だって、最近BLにはまってるんですものぉ!」
「知るか!」
悠理は頭を抱えた。
「それで、こんな危険な世界の普通ではない男子校に?」
「ええ。立派なネコになっていただこうと。うふふ」
(うふふじゃない。頭が痛い……)
「じゃあせめて、学生時代と同じく、伊達眼鏡も準備しておいて欲しかったな」
「美少年風ヒラヒラ耽美ブラウスは入れておいたわよ」
「あれはそういう意味か。誰が着るのかと思った。全くいらん。
それより、悪魔とか滅力とかいうのは何だ?」
既に悠理の頭に、女神に対する敬意とか感謝という気持ちはない。
「ほかにも立派なネコを目指していただけるBL世界はあったんですよ。でも、あの薬品を浴びたので神の力で修復したら、普通の範疇ではない能力を持つ事になってしまって。それで、この世界ならちょうど、能力も生かせるし、ネコにもなれるし」
「ネコから離れろ」
悠理は力なくそう言った。
悠理が願ったのは、平和に、のんびりと、怠惰をむさぼる猫のように生きるという事だ。決して、悪魔と戦うために身を張り、狙って来る男と戦うためではない。
「どうしてこうなった……」
女神は、勘違いしたことにやや焦ったようだが、誤魔化そうと必死になった。
「その、あれですよ。今は男女別ですけど、学校を出ると普通に男女共いますし」
ピクリと悠理の肩が動く。
「でも、前の人生だって、美人すぎて彼女がいなかったんだから、己を知って、立派なネコを目指せばいいと思うけど」
「放っておいてくれ、腐女神め!」
悠理はもう、血を吐きそうだった。
「ま、まあ、そういうわけですから。ええっと、あの悪魔は、便宜上悪魔と人間が呼んでいますが、新種の生物です。ヒトにとって代わろうとしている新しい生物ですが、あれはほかの生命体を食いつくして己も滅ぶだけで、先がありません。滅してくださいね」
「……また忙しいのか……しかも危険……」
「まあ、その、せめて学生の2年間は、今を楽しむというのでどうでしょう?」
「ああ?」
「では!良い人生を!」
「あ、待てこの腐女神!」
しかし女神は笑って手を振り、悠理の視界はかすんで行った。
「くそ、この腐女神め!
あ……」
カーテン越しに朝の光が差し込む中、悠理は最悪な気分で目を覚ました。
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