やっぱりねこになりたい

JUN

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浴場パニック

 夕食を食べ終えた悠理は、トレイを返却し、部屋へ戻ってから大浴場へ向かった。
 なぜか、ほかの生徒達が、走りまわっている。
「何だ?見たいテレビでもあるのかな。ま、高校生だからな」
 悠理はそう言って、浴場の脱衣室に入った。
「おお、空いてるな」
 脱衣かごはほとんどが空いている。
 悠理は鼻歌気分で服を脱ぎ、風呂場に入った。先に数人が入っているのが、湯気の向こうに見える。
 悠理は髪と体を洗い、湯船に浸かった。
 そして、ギョッとした。
「鼻血!?」
 先に湯船にいた生徒が、鼻血を垂らしていた。
 その生徒がフラフラと立ち上がった時、ガラリと扉が開いて、飛び込むように生徒達が入って来た。
(ああ。この時間は混むのかな)
 悠理は呑気にそう考えたが、彼らは浴室内をサッと見回して悠理と目を合わせると、手早く体を洗って浴槽に入って来る。
 そしてなぜか、悠理のそばに入って来た。
(何だ?ここは何かあるのか?泡が出るとか、電気が出るとか)
 悠理は困惑していたが、後ろと左右を囲まれて、今度は不安になって来た。
(特等席を新入りがって締め上げられるのか?因縁をつけられるのも面倒だな。今すぐもう上がろうか)
 しかし上がろうとする悠理の腕を、左右の生徒が掴んだ。
(これは、あれか?逃げられると思ってるのか、ってやつか)
 どうしたものかと思っていると、後ろにピタリと誰かがくっついて来た。
(え。そんなに混んで来たか?)
 少し振り返って、悠理は驚きのあまり叫びそうになった。
 後ろの奴が、赤い顔をして、鼻の穴を広げ、やけに息を荒くして、湯の中で何かしている。
「え!?」
 腰に、湯の中にいてさえ熱い何かが当たる。
(何だこれ。考えたくないけど、何だこれ!?)
 おろおろとしているうちに、彼は悩まし気に息を詰め、次に大きく息を吐いて、満足そうに笑った。
「お、おまっ!」
 言いかけたが、左右からグッと引っ張られ、太ももを撫でられた。
「ギャア!?」
 悠理は半ばパニックになった。
 その時、扉が開いて、次の生徒が入って来た。
 雑談していたが、悠理を見ると目を丸くし、次いで股間を隠して叫んだ。
「なんで女子が!?」
 それで悠理も悲しい事を思い出した。高校2年生までは美少女としか見られなかったという事を。
「女子なわけないだろ!」
 悠理は左右の腕を振り切って、立ち上がった。
「うわああああ!!ああ?」
 そいつらは目を塞ぎ、指の隙間から悠理を見て、愕然とした。
「ああ、そりゃあ、そうか」
 しかし悠理の左右と後ろの3人、ほか数人は、鼻血を出して前かがみになった。
 その背後から、キリッとした生徒が現れた。
「何の騒ぎだ!」
「ひええ!会長!」
 その生徒は浴場の中を見回し、悠理を見て、察した。
 悠理は面白くなかったが、それがわかった。
 しかし、左右から抑えつけられていた事が良くなかったのか、急に立ち上がった事が良くなかったのか、目の前が暗くなって、意識がなくなった。

 意識が戻ったわけじゃないが、悠理は周囲の音を拾っていた。
「お前ら、イタズラにも程があるぞ」
「だって、女子より女子みたいな顔してるから、つい」
「ついで公共の浴槽の中に変なものを出すな!それと、本人に悪いと思え!」
「だって、この学校だし、いずれは、なあ?」
「お前ら、反省する気がないようだな」
「済みませんでした、生徒会長!」
 そこで悠理は目を開けた。
 最後に目があったキリッとした背の高い学生が、生徒数人を正座させて叱りつけていた。
「あ、目が覚めたか」
 起き上がると、温くなったタオルが額からずり落ちた。
「こいつらが不愉快な思いをさせたな。すまん。
 俺は生徒会長の沖川和臣だ。ここは実質的には男子校みたいなもので、しかもそうそうこの島から外出もさせてもらえないもんだから、こういう、同性でどうこうという輩も多い。
 俺はそれを悪いとは言わんが、どうだ」
 悠理はきっぱりと断言した。
「俺は嫌ですね。他人は気にしませんが」
 沖川は頷いた。
「そうか。だったら、断固として抵抗していい。最低必要限の暴力も許可する。それと、俺に報告しろ。嫌がる相手に何かするのは犯罪だ。厳しく処断する」
 正座していた生徒達が、絶望的な顔をした。
 そして悠理も、絶望的な気分になっていた。
(なんてところに俺は来たんだ?最悪だ)
 悠理はガックリと肩を落とした。

 その後悠理は、財布を持って売店に行った。
(今日は久しぶりに飲んじゃおう。こんなにゆっくりできるのはいつぶりかなあ)
 そんな事を思いながら、ショーケースを開けて缶ビールを数本取り出した。
(つまみもちょっと欲しいかな。かまぼこと、魚肉ソーセージでいいか)
 やはりビールとつまみを選んでいた自衛官に目礼し、レジへ行く。
 が、レジの人は困ったように悠理の顔を見て、レジを打たない。
(んん?何だろうな?)
 傾けた悠理の頭を、誰かの手がガッシリと鷲掴みにした。
「痛い痛い痛い!何!?誰!?」
「俺だ」
 低い声で、後ろから声がかかって来る。
「服部先生?何ですか、もう?」
「堂々とアルコールを買おうとはいい度胸だな。え?」
「は?ハッ!?」
 悠理は思い出した。今の自分は高校生である。ビールも、吸わないがタバコもだめ。未成年者だ。
「えっと、これは、つい」
「つい?」
「うわわわわ。間違えた」
 レジの人や売り場でこちらを呆然と見ていた自衛官達の視線の意味が、やっとわかったのだった。



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