手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

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本編

19.かつてないほど怒らせた

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 私がジュードに言われた通りベッドの上で大人しく待っていると、急いで部屋を出て行ったジュードが手に応急処置用の救急箱を持って戻って来た。

「リー、ちょっとジッとしてて」
「えっ? あ、うん……」

 どうやらエルフリーデの首筋に付けた傷の手当てをしてくれるようで、ジュードは救急箱から塗り薬を取り出して適量を指先に付けると、エルフリーデの傷にそっとなでるように優しく塗っていく。薬を薄くのばしながら気遣わしげにジュードが目を細めて聞いてきた。

「痛くない?」
「うん、平気。こんなのちょっとかすった程度だし手当てする必要は……」
「リーそれ以上は黙ってくれないかな? 僕も今回は少し気が立っているんだ」
「はい……」

 ピシャリと言われて黙るしかない。そうして手当をしている間ジュードは一言もしゃべらず、目も合わせてくれない。怖い顔をして黙々と手当を続けている。気まずくてエルフリーデはどうしても口を閉ざしていられなかった。

「あ、あのジュード? ごめんなさい驚かせて。わたしが悪いんだから傷のことそんなに気にしなくていいのよ? こんなの直ぐに治っちゃうしそこまでしなくてもだいじょう……」
「大丈夫じゃないよ。それにリーはどうしてこんな真夜中にそんな格好で僕の部屋に来たの?」
「ごめんなさい。でもね、わたしどうしてもジュードにその……」
「駄目だって言ったよね?」
「…………」

 手出しさせたかったとは言えない。とはいえこんな格好をしていれば言わずもがな、バレバレだ。ジュードはエルフリーデが言わずともハッキリと何をしようとしていたのか分かっていた。だから淡々とした感情のこもらない事務的な口調で返されてエルフリーデは言葉がない。所在なげにそわそわと落ち着かない気持ちで手当を受けながら、エルフリーデは今度こそ手当が終わるのを大人しく待った。

 そうしてまたもシーンと静まりかえった部屋の中で、エルフリーデの首筋にうっすらとできた傷口に包帯を巻いて手当を終えると、ジュードが固い声と鋭い眼光をエルフリーデに向けた。それも今まで向けられたことがないくらい怖い表情にエルフリーデは心臓がバクバクしてどうしようと胸を押さえた。

「これで傷自体はすぐに治ると思うけど、女の子が婚約者の部屋に侵入して傷作るなんて……まったくなんの冗談かと思うよ」
「そ、そうよねホント、ごめんなさい……」

 ジュードがエルフリーデの包帯が巻かれた首筋にそっと触れてきた。そうしていつものあきれたような口調で話し掛けられて少しだけホッとする。
 けれどまだエルフリーデは酷く動揺していた。何故ならジュードに悪ふざけをして注意されるなんてことはしょっちゅうでも、ここまでジュードに真顔で詰め寄られることは今迄一度もなかったからだ。

 ジュードによって付けられた傷自体はまったくたいしたことはない。申し訳程度に付けられた傷だった。けれど問題は傷の大小とかそういったことではない。ジュードはたとえかすり傷だろうがエルフリーデに剣の切っ先を向けて傷付けたことを酷く恥じていた。
 咄嗟とっさのこととはいえ大切な人に剣を向けて、エルフリーデだと気が付かずに攻撃対象として傷付けてしまった自分自身が何よりも許せなくてジュードは酷く悲しんでいたし落ち込んでいた。そしてそれに気付いていない目の前の婚約者にジュードは珍しく腹を立てていた。大切すぎてどうにかなってしまいそうなくらいジュードが心配していることを、それ程愛していることをエルフリーデは少しも気付いていないのだから。
 いつもだったらエルフリーデのやることなすこと全部、どんなに面倒なことでも仕方ないと笑って許してしまえるのに。今回ばかりは違っていた。ずっと先程から謝罪している大切な婚約者の言葉が届かないくらいに。ジュードは怒っていた。

「本当にごめんなさい……」
「僕はリーが大切だし、絶対に傷付けたりしたくないんだ」 
「……うん」

 目を合わせられなくてエルフリーデが気まずそうに別の方を見ているのを怒ったジュードは許さなかった。エルフリーデの頬に手を当ててクイッとジュードの方に顔を向けさせる。
 
「あっ……ジュード?」

 眉間みけんしわを寄せて怒っているというよりは後悔しているような、悔しそうなジュードの表情にエルフリーデは妙に胸がザワついて、そのいつになく強引なジュードの行動でようやくエルフリーデも気が付いた。ジュードをかつてないほど怒らせたことに。
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