手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

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本編

20.ジュードが悪い

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 エルフリーデの包帯が巻かれた首筋に手をやりながら、ジュードは言い聞かせるようにエルフリーデの顔をのぞき込んだ。

「言わなくても僕がどんなにリーのこと大切に思っているのか知ってるでしょ?」
「うん……」
「こんな傷、僕に付けさせてどういうつもり?」

 エルフリーデの首筋に触れているジュードの手は怒気どきを含んだ言葉に反して優しい。その壊れ物を扱うような触れ方と対称的な硬く低い声。エルフリーデはここまで酷く怒ったジュードの顔を初めて見た。

「一週間ほど姿を見なかったからようやく諦めたのかと思ってたのに……どうしてリーはこんな無茶ばかりするの? 僕を心労で殺すき?」
「ちっちがう! 違うのよ!」
「ならどうして?」

 今までも無茶なことを沢山したし、心配させることばかりしてジュードを困らせてきた。けれどこんなに攻撃的で責める口調のジュードは初めてだった。天使のように綺麗な容貌ようぼうが今日は自分への怒りで曇っている。海のように澄んだ青緑色の瞳が金の髪と合わさってすごい迫力だ。

「だってジュードがあんまりわたしに感心なさそうだったから相手にして欲しかっただけで……」
「それで夜中に僕の部屋に忍び込んだの? それもまたそんな格好して……夜這い?」 
「あっ……」
「リー、君は真夜中に男の部屋に入ればどうなるか、少しも分からないの?」
「ジュード?」
「そうか、僕がそうなるように仕向けたんだったね」
「えっ? なに……」
「君が幼い頃から何も知らないようにそうなるように僕が君を育てた。だからリーが知らなくても当然なんだ。だけどまさか知らないまま突撃するくらいにそこまでリーが無謀だとは思ってもいなかったけど……。それとも知らないから無謀だってことすら気付いていないとか?」

 天使のような顔に暗くよどんだ底知れぬ魔王のような迫力。それも皮肉ひにくるような小馬鹿にしたジュードの口調に衝撃を受けつつ、その内容の意味を理解出来なくてエルフリーデは混乱の中にいた。こんなジュード今まで見たことがない。

「あ、の……? なに? えっと、育てたって?」
「つまり僕が言いたいのは、自分からこんな遅い時間帯に男の部屋に入るなんて何かあってもそれはリーの意思ってことになるんだよ? ってことだよ」

 分かってるの? とジュードに怖い顔で近寄られてもまだエルフリーデには少し余裕があった。優しい婚約者はいつも結局最後にはエルフリーデを許してくれていたという実績が重すぎて、あり過ぎて事の重大さがどうしてもエルフリーデには響かない。
 ジュードって怒るとこんな怖い顔するの? とか、綺麗な顔してる人は怒っても綺麗だなとか、そんな呑気のんきなことを考えている場合ではないのに。ジュードに大切に扱われ過ぎて育ったせいでエルフリーデはこうして怒られていても、まだジュードは許してくれるだろうという根拠のない余裕が頭の中で働いていて、本当の意味でジュードが望むような反省をしていなかった。だから言ってしまったのだ。少しの不満を。言ってはいけないことを。ついエルフリーデは口にしてしまった。

「な、なんでそんなに怒るのよ! こんなにさっきからずっとごめんなさいって謝っているじゃない! ジュードのバカっ!」
「リー! どうして君が怒るの? そもそも無断で侵入されたのは僕の方で、それも君はそんなあられもない格好で夜這いをかけにきた破廉恥はれんちな侵入者じゃないか」
「は、破廉恥はれんちな侵入者ぁっ!? なによぉっ! もとはと言えばわたしに手を出してくれないジュードが悪いんじゃない! だからこんな格好してまた来たって言うのに!」
「リーそれ、本気で言ってるの?」
「そうよ。ジュードが全部悪いんじゃないっ! 全部、わたしに手を出してくれないジュードのせいなんだからぁっ!」

 自分に手を出さない方が悪い。と、エルフリーデはとんでもない理屈を並び立て始めた。そして対するジュードはそのエルフリーデの身勝手な理屈を耳にして、表面上は口元に白い王子様の純白な笑みをたたえながらも、その内側からドス黒い底冷えする魔王のように冷徹れいてつな雰囲気を帯び始めていることに、このときエルフリーデはまだ気付いていなかった。 
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