ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
1 / 57
第一章 ゲームの世界へ

第1話 ランカ

しおりを挟む
「やった~、ラストダンジョン攻略成功!」

 僕の名前は白川 蘭華(シラカワ ランカ)。
 女みたいな名前とよくからかわれる中学生。顔も女の子みたいとよく言われるから僕はあんまり好きじゃない名前だ。
 こんな僕も得意なことがある。それはアルステードオンラインと言われるゲームだ。オンラインアクションRPGゲームで有名なこのゲームは、全世界同時接続数10億人のモンスターゲーム。
 一人称視点で、剣と魔法の世界のゲーム。グラフィックも綺麗、他の追従を許さない最高のゲームだ。
 今、僕は現段階の最後のダンジョンのボスを倒して声をあげる。パーティーメンバーとハイタッチをして喜びを分かち合う。学校じゃ味わえない体験がここにはある。

「じゃあお疲れ~」

「お疲れ様~ランカ」

 一般的には6人のパーティーで挑むダンジョン。クリアして5人の仲間がログアウト。ゲームを終えて現実世界へと帰っていく。僕はそれを見送って大きなため息をついた。

「みんな現実に生きてるんだよな~」

 みんなは現実で仕事をもっているんだよな。僕は現実に生きていない。といっても息をしていないわけじゃない。学校に行っても、空気のような存在だからだ。まあそれも、顔が女の子みたいだから前髪を伸ばしているせいなんだけどね。自分でいうのもなんだけど幽霊みたいだな。はは……

「ログアウトしたくないな~」

 現実に戻りたくない。そう思って声をあげる。ゲームの中の虚空へと消える僕の声。その声がログに残って虚しさを更に強めてくる。

『それなら来てみる?』

「え!?」

 ログを見つめていると目の前に真っ白なローブを着る女性が現れた。サラサラな長い金髪をたなびかせて僕の頬に触れた。

「わっ!? ぼ、僕の体!?」

 女性に触れられると、視界が現実世界に戻った。VRヘッドギアを間抜けに被る僕が動かずにコントローラーを握ってる。幽体離脱?

『あなたの精神を分身させました。親御さんが悲しむのは嫌でしょ?』

「!? あ、あなたは何者なんですか?」

 僕と同じ半透明な姿で現れる女性。僕は息をのんで質問した。

『私の名はアルステード』

「そ、それって!?」

 僕がやっていたゲームの世界の名だ。物語には神なんて出てこなかったけど、この人がゲームの世界の神?

『では行きましょう。あなたの望む私の”中へ”』

「え!? ”中”って」

 彼女の声を聞いて驚いていると僕を抱き寄せてくる。彼女のお腹に顔をうずめると、スッと透き通る。そして、急な浮遊感に襲われる。

「う、わ~!」

 浮遊感の正体は空に投げ出されたからだった。大空から急降下で地面へと迫る。怖い……だけど。

「あ、アルステードオンラインの世界だ」

 落ちている中、ふと目に入った風景。大きな城壁に守られた町、始まりの町オルコッド。また僕はこの世界を最初から始められるのか。嬉しいような悲しいような。

「って始める前に死にそうだけどね~~~~~~~!」

 急降下しながら叫ぶ。恐怖で顔を両手で覆いながら地面に衝突する。あ、死んだこれ。

「あ、あれ!? だ、大丈夫だ……。そ、そうか、アルステードオンラインは着地ダメージはないんだったな」

 アクションゲームでありがちな、どんな高さから落ちてもダメージ0。恐怖は同じだからトラウマになりそうだけどね、ははは。ってそんなわけない、最初だけだ。二度とあんな高さから飛び降りないぞ!

「もう二度とごめんだ。えっとまずは状況把握っと」

 心の中で思ったことを口に出して確認作業に入る。ゲーム画面と同じアイコンが視線の端に見える。ないのはアイテムショートカットくらいか。

「インベントリは普通に使える。中身はなしか……」

 強くてニューゲームとはいかないようだな。ステータスも1レベルの表示だ。
 ステータスはこんな感じか。



名前 ランカ 大根剣士
 
 レベル 1

 HP 10
 MP 5
 
 STR 8
 DEF 8
 DEX 8
 AGI 10
 INT 9
 MND 9



「職業スキルツリーとアイテム強化に合成。他も全部機能してるな」

 職業は安定の初期職業【大根剣士】だな。初期の職業は同じなようだ。アルステードオンラインのアイテム強化は同じアイテムを重ねることで強化ができる。面白いところは薬草でも伝説の剣でも同じってところだな。つまりは伝説の剣を量産できれば更に強い、【プラス】のついた伝説の剣ができるってわけ。伝説の剣がそんなにポンポン出来るわけがないので僕は4番目の剣を強化したんだよな~。

「はぁ~。本当に最初からだ。でも、嬉しがってる僕が確かにいる」

 遠くにあるオルコッドを見据えて呟く。
 ある程度状況確認出来たので始まりの町へと歩みを進める。

「あ、冒険者達かな?」

 街道を進んでいると大剣や杖を持った人たちが歩いてくる。なぜかニヤニヤと僕を見てきた。

「大根かよ」

 通り過ぎる瞬間、そんな声が聞こえてくる。なるほど、舐められてたわけね。そうか、職業は頭の上に出ちゃうから隠せないのか。

 グッと怒りがこみあげてくるけれど、今は言わせておこう。こんな始まりの町にいるような冒険者、相手にするだけ無駄だ。
 でも、分かったことがある。今見た人の中に見たことのある人がいた。職業【大剣使い】の【アドラー】だ。アドラーはアルステードオンラインのNPCで仲間にすることも出来る。何が言いたいかと言うと。

「NPCが生きてるんだ……」

 フルフルと震えながら呟く。美麗なグラフィックのアルステードオンラインの、NPCが生きてる世界にやってきたんだ、僕は……。感動で震えが止まらない。

「ようこそオルコッドへ。冒険証はもってるか?」

 オルコッドの入口にやってくると兵士に声をかけられる。アルステードオンラインでは話しかけてくることはなかった。やっぱり感動する。

「あ、すみません。初めてで」

「初めて? 田舎から来たってことか?」

「あ、そうです」

 思わず初めて何て言ってしまった。失敗失敗。ちゃんとロールプレイングをしないとな。ちゃんと演じなくちゃ。

「俺も田舎から来たからわかるぞ~。しかしこまったな。本当は町に入るのに冒険証が必要なんだが、持ってないと銀貨一枚をもらう決まりなんだ」

 何度か頷いて共感してくれる兵士さん。困った様子で話していると兵士さんはポンと手を叩いた。

「俺が立て替えておいてやろう。それで冒険者でもなんでもなって稼いで返してくれればいい」

「え? いいんですか?」

「ああ、銀貨一枚なら今日中に返せるだろう……。たぶん」

 兵士さんはそういって僕の頭を撫でてくれる。たぶんというのが気になるけど。

「はい! ありがとうございます。僕はランカといいます、お名前を聞いてもいいですか?」

「おう。俺の名前はルガーだ。毎日門番の仕事をしてる。ここにいなかったら家か酒場で仲間と飲んでる。今日中とは言ったがいつでもいいからな嬢ちゃん」

「嬢ちゃん? ……ブスッ」

 いい人だな~と思って名前を聞いたらルガーさんが僕を女の子と思っているのが分かった。思わず睨みつけると彼はびっくりした顔になる。
 僕はすぐに振り返って彼から離れていく。

「まったく! 失礼しちゃうよ! 僕のどこが女の子なのさ!」

 彼が見えなくなって大きな声で呟く。
 確かに初期装備の【ただの革の鎧】は体のラインがハッキリわかる装備だから、女の子みたいに見えるのは仕方ないかもしれないけどさ。
 ぶつくさと呟きながら道路を歩いていく。幾百幾千と歩いたオルコッドの街並み。ゲームでも綺麗だったけれど、石造りの家々は芸術品みたいだ。
 あ~、ゲームの世界に来たんだな。心の中で呟いて冒険者ギルドへと歩みを進める。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...