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第2章 国
第77話 秘める思い
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◇
「はぁ~、俺ってほんと役立たず」
役立たずのラッド、なんでファムについていかなかったんだ?
そう、心の中で自問自答してうなだれる。
「ん、ラッドは偉いよ。無理やりついていかなかったのも強さだと思う」
「レイブン? 珍しいな。お前が揶揄ってこないなんて」
食堂の席に座ってうなだれる俺をレイブンが慰めてくれる。
こんな彼女を見たことがない。今日は雨が降るのかな?
「からかうのはファム様がいる時だけ、大好きな人を笑わせるためにね」
「……はぁ~、そうですか」
レイブンの答えにでっかいため息をつく。呆れるような答え、聞かなけりゃよかった。
「ん、ラッドも好きだよ。男の中で一番」
「はぁ? はぁ~、ファムはいないぞ。まったく」
レイブンが顔を赤くさせてからかってくる。芸が細かいな。
さっきの答えもこのためだったのか。ん? それならファムがいない時に言わないか? ど、どういうことだ?
「からかってるわけじゃない。私はラッドが好き」
「……はぁ!? ななな、なに言ってんだよ!? 本気か?」
「本気も本気。でも、ラッドはファム様が好き。第二婦人でいいよ」
頭がこんがらがっているとレイブンが続けて告白してくる。
俺がファムのことを好きなんて、なんでわかったんだ!?
「おおお、俺がファムを好きってなんでわかったんだ!?」
「兄さん? そこを聞くの?」
「ユマ!?」
食堂には俺とレイブンしかいないと思ったら厨房の方からみんなが顔を覗かせてくる。みんな厨房にいて聞き耳を立てていたのか。
ユマが得意げに話し始める。
「最初ファム姉さんを連れて来た時に気が付いてたよ」
「「気づいてた~!」」
ユマの声に双子が元気よく答えてニヤニヤしている。俺って最初からファムを好きだったのか? いやいや、最初からではなかったはずだ。……たぶん。
でも、ファムを尊敬していた。俺よりも小さくて幼いのにしっかりしていて。まるでお母さん、姉ちゃんみたいで。
俺が盗みがダメなことを優しく教えてくれた。俺達を路上から救ってくれた。……俺はファムが好きだ。
「ラッド兄ちゃんは分かりやすいからな~」
「ん」
ドンタとドロップまでからかってくる。初めての経験だ。みんなに弱みを握られたような、そんな気分になる。
「ラッド兄ちゃん。私達は応援してるんだよ。別にからかってるわけじゃないの」
「ネーナ?」
「ファムお姉ちゃんってすぐにどっか行っちゃうでしょ? ラッド兄ちゃんと恋仲になれば帰ってきてくれるはずだよ。だから頑張って」
ネーナはそう言って俺のおでこをつついてくる。
彼女の言っていることもわかる。俺も感じていた。
ファムはいつか、俺たちの元を離れてしまう。
あれだけの強さがあればどこへでも行けるんだから。
今もそうだ、俺が守らなくてもすべてを解決してしまう。
「お~い。子供達。食べ物を持ってきてくれ。フーラが起きた」
兄弟たちに励まされているとラッセルさんが食堂にやってきた。すぐにネネさんがスープを手渡す。
「フーラさんは大丈夫なんですか?」
「少し混乱してるが大丈夫そうだ」
ユマの問いかけに答えるラッセルさん。みんなでホッとしているとフーラさんの寝ていた部屋から大きな音が聞こえてくる。
凄い音が何度も何度も聞こえてきて、扉が壊れて飛んでくる。
「皆さん! 逃げてください!」
ランスさんが飛び出してきて声を上げる。
その時、風が飛んできて壁に二つの穴が開いた。何が起こってるのか全然見えない。
「止まってんじゃねえ! お前達! ダンジョンに逃げとけ!」
驚きとまどっているとラッセルさんに背中を叩かれる。俺はすぐに双子を抱き上げてダンジョンへと走る。
「ふふふ、あははは。ファム~、兄貴の仇……」
背後からそんな声が聞こえてくる。振り向くのも怖い。俺は弱い。
「ゼロ! 食い止めるぞ」
「はい」
「力を合わせましょう」
ラッセルさんとゼロさん、ランスさんの声も聞こえてきて、鉄と鉄のぶつかるような音が聞こえてくる。
「早く入って! 入ってこれないようにするから!」
「そんなことができるのかイーター?」
「あくまでも緊急用だよ。地面に埋まるだけ、掘られたら入られちゃう」
イーターがダンジョンの入り口で待っていてくれた。兄弟たちを全員ダンジョンに入れると俺は振り返る。
「俺だって戦える」
「がはは。その意気はよし。だが、ここは大人に任せなさい」
「ブルース様!?」
振り返って大剣を握るとブルース様がでかい手で頭を撫でてくれる。いつの間にかメリナ様達も来てくれてた。
「久しぶりの実戦じゃな。死闘か、懐かしい」
大きな盾と剣を構えるブルース様。その姿だけで強さを感じる。でも、ファムよりは強さを感じない。
「ラッドと言ったかな。死なない程度に見ていなさい。見ることも強さとなる。見て戦いなさい」
「は、はい!」
ブルース様の大きな背中について家の中に入る。戦いの音がどんどん近づいてく。怖い、でも、俺は強くなるんだ。ファムの横に立てるくらい強く。
◇
「はぁ~、俺ってほんと役立たず」
役立たずのラッド、なんでファムについていかなかったんだ?
そう、心の中で自問自答してうなだれる。
「ん、ラッドは偉いよ。無理やりついていかなかったのも強さだと思う」
「レイブン? 珍しいな。お前が揶揄ってこないなんて」
食堂の席に座ってうなだれる俺をレイブンが慰めてくれる。
こんな彼女を見たことがない。今日は雨が降るのかな?
「からかうのはファム様がいる時だけ、大好きな人を笑わせるためにね」
「……はぁ~、そうですか」
レイブンの答えにでっかいため息をつく。呆れるような答え、聞かなけりゃよかった。
「ん、ラッドも好きだよ。男の中で一番」
「はぁ? はぁ~、ファムはいないぞ。まったく」
レイブンが顔を赤くさせてからかってくる。芸が細かいな。
さっきの答えもこのためだったのか。ん? それならファムがいない時に言わないか? ど、どういうことだ?
「からかってるわけじゃない。私はラッドが好き」
「……はぁ!? ななな、なに言ってんだよ!? 本気か?」
「本気も本気。でも、ラッドはファム様が好き。第二婦人でいいよ」
頭がこんがらがっているとレイブンが続けて告白してくる。
俺がファムのことを好きなんて、なんでわかったんだ!?
「おおお、俺がファムを好きってなんでわかったんだ!?」
「兄さん? そこを聞くの?」
「ユマ!?」
食堂には俺とレイブンしかいないと思ったら厨房の方からみんなが顔を覗かせてくる。みんな厨房にいて聞き耳を立てていたのか。
ユマが得意げに話し始める。
「最初ファム姉さんを連れて来た時に気が付いてたよ」
「「気づいてた~!」」
ユマの声に双子が元気よく答えてニヤニヤしている。俺って最初からファムを好きだったのか? いやいや、最初からではなかったはずだ。……たぶん。
でも、ファムを尊敬していた。俺よりも小さくて幼いのにしっかりしていて。まるでお母さん、姉ちゃんみたいで。
俺が盗みがダメなことを優しく教えてくれた。俺達を路上から救ってくれた。……俺はファムが好きだ。
「ラッド兄ちゃんは分かりやすいからな~」
「ん」
ドンタとドロップまでからかってくる。初めての経験だ。みんなに弱みを握られたような、そんな気分になる。
「ラッド兄ちゃん。私達は応援してるんだよ。別にからかってるわけじゃないの」
「ネーナ?」
「ファムお姉ちゃんってすぐにどっか行っちゃうでしょ? ラッド兄ちゃんと恋仲になれば帰ってきてくれるはずだよ。だから頑張って」
ネーナはそう言って俺のおでこをつついてくる。
彼女の言っていることもわかる。俺も感じていた。
ファムはいつか、俺たちの元を離れてしまう。
あれだけの強さがあればどこへでも行けるんだから。
今もそうだ、俺が守らなくてもすべてを解決してしまう。
「お~い。子供達。食べ物を持ってきてくれ。フーラが起きた」
兄弟たちに励まされているとラッセルさんが食堂にやってきた。すぐにネネさんがスープを手渡す。
「フーラさんは大丈夫なんですか?」
「少し混乱してるが大丈夫そうだ」
ユマの問いかけに答えるラッセルさん。みんなでホッとしているとフーラさんの寝ていた部屋から大きな音が聞こえてくる。
凄い音が何度も何度も聞こえてきて、扉が壊れて飛んでくる。
「皆さん! 逃げてください!」
ランスさんが飛び出してきて声を上げる。
その時、風が飛んできて壁に二つの穴が開いた。何が起こってるのか全然見えない。
「止まってんじゃねえ! お前達! ダンジョンに逃げとけ!」
驚きとまどっているとラッセルさんに背中を叩かれる。俺はすぐに双子を抱き上げてダンジョンへと走る。
「ふふふ、あははは。ファム~、兄貴の仇……」
背後からそんな声が聞こえてくる。振り向くのも怖い。俺は弱い。
「ゼロ! 食い止めるぞ」
「はい」
「力を合わせましょう」
ラッセルさんとゼロさん、ランスさんの声も聞こえてきて、鉄と鉄のぶつかるような音が聞こえてくる。
「早く入って! 入ってこれないようにするから!」
「そんなことができるのかイーター?」
「あくまでも緊急用だよ。地面に埋まるだけ、掘られたら入られちゃう」
イーターがダンジョンの入り口で待っていてくれた。兄弟たちを全員ダンジョンに入れると俺は振り返る。
「俺だって戦える」
「がはは。その意気はよし。だが、ここは大人に任せなさい」
「ブルース様!?」
振り返って大剣を握るとブルース様がでかい手で頭を撫でてくれる。いつの間にかメリナ様達も来てくれてた。
「久しぶりの実戦じゃな。死闘か、懐かしい」
大きな盾と剣を構えるブルース様。その姿だけで強さを感じる。でも、ファムよりは強さを感じない。
「ラッドと言ったかな。死なない程度に見ていなさい。見ることも強さとなる。見て戦いなさい」
「は、はい!」
ブルース様の大きな背中について家の中に入る。戦いの音がどんどん近づいてく。怖い、でも、俺は強くなるんだ。ファムの横に立てるくらい強く。
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