51 / 165
第二章 黒煙

第七話 黒煙龍のクコ

しおりを挟む
「治してなのじゃ~」

 あの日から僕は端仕事にせいを出して街の掃除をしています。毎日毎日黒煙龍の幼女が話しかけてきてしつこいったらない。でも、嫌がらせをするわけでもないので思ったよりもいい子なのが伺える。

「クコ?こんな所でどうしたんだい」
「あっ、ワティスさん」

 黒煙龍がクコと呼ばれてワティスと呼んだ綺麗な服を着たおじさんの所へ駆けていった。黒煙龍はクコと名乗っているようでとても仲がよさそう、頭を撫でられて目を細めている。

「あの冒険者さんと遊んでたの~」
「そうか、すいませんね。うちの姪が」
「・・あっいえいえ、僕も子供は好きですから」

 ワティスさんと僕はペコペコとお辞儀をしながら挨拶を交わす。この人は事情を知らないみたい、どういった経緯でこんな関係になったのかしらないけどワティスさんは凄く良い人なのがわかった。

「クコ、お口が汚れているよ」
「えへへ、ありがと~」

 黒煙龍はパンを食べていたんだけどそれが頬に付いていたようでワティスさんに注意されている。黒煙龍はにこやかに笑ってまるでほんとの家族のようだ。

「私は仕事にいくからね。あまりルークさんに迷惑をかけないようにね」

 僕とワティスさんは自己紹介をしあった。幼女を知らない人に任せるのは危ないもんね。

 ワティスさんは白い豪華な建物へと入っていった。

「とても良い人だね」
「ああ、知らないわらわをこの街にいれてくれた人じゃ。盗賊に襲われたと思って甲斐甲斐しくも面倒を見てくれているのじゃ。恩を返す為にも早く眼を治して欲しいのじゃ」

 やっぱり、盗賊を襲ったのは黒煙龍だったみたいだね。
 ワティスさんとの関係を見ると助けてもいいかな~って思うけど、治ったら豹変するんじゃないだろうか。とても悩みます。

「早くわらわが治らんと困るんじゃがな~」
「そう言われてもユアンに復讐するんでしょ?兄としてそれは見過ごせないよ」
「復讐か・・それならわらわの方にも言い分はあるぞ。儂はあの山でのんびり暮らしておったのじゃ食い物も魔力を使わなければ抑えられるからの一日一匹の魔物で過ごしておったのじゃ。そこへ鎧を着た騎士が来てな、心臓をよこせとか抜かしたもんだから食らってやったのよ。そうしたら複数の人間達がわらわを倒そうと襲ってきよった。全く迷惑この上ないことじゃ」

 騎士の人が心臓を欲しがったのか、という事は黒煙龍は正当防衛・・・でも食べちゃうのはよくないよね。てかやっぱり怖い存在なんだな。

「誰かを殺したらやっぱりその人の属している国とかから目をつけられちゃうよ。僕も前の街で目立っちゃって困った事があるもの」
「そういうもんかの~。わらわは同族が討たれても復讐なぞ考えた事もないが、しいていえばライバルが減ったと考えるのだが」

 龍の常識を話されても困る。でもそんなに冷たい龍なのにワティスさんに向ける目はとても信頼のおけるものだった。何かあったのかな?

「それにしてはワティスさんには温かい目をしていたね。何だかお父さんを見るような」
「・・・信頼のおける者は大事にしたいとは思う。ハッキリと言ってしまうと龍とはあまりいい存在ではない。数えられるほどの者しか良い心を持った者はいないのだ。ただでさえ少ない我ら龍種であるのにともに食らい合っておるしな」

 なんだか悲しいな。争い合っているから死んでも知らないか。ワティスさんへは特大の信頼を置いているって事だね。

「じゃから治して」
「そんな潤いを帯びた目で見てもダメな物はダメだよ。取りあえず信頼のおける人がギルドにもいるだろうからその人と話してからだよ」
「わらわのことを話すのか?」
「この街にいる事は話さないよ。混乱するだろうからメイさんもそのつもりで手紙を書いたはず、対話ができたらどうするか聞いて判断を仰ぐって感じかな」

 黒煙龍のクコは頷いてホッとしている。やっぱり、それほど人を憎んでいるわけじゃないみたい。

 クコと話ながら残りの掃除を済ましていく。今日は6か所の掃除をしました。見違えるようにピカピカになって何だか誇らしい。もちろん、素材もいっぱい、素材だけでお城が出来ちゃうほど手に入りました。アイテムバッグがいっぱいになってしまうかと思ったけどまだまだ警告の色は緑です。



「ここがお前達の泊ってる宿屋かの?」

 掃除を終えて宿屋に帰ってきたんだけど黒煙龍のクコもついて来てしまった。まだダメだと言っているのに治してとしつこいったらないです。

「嗜む子牛亭か、中々に住宅から離れているからわらわも気をつけなくても大丈夫そうじゃな」
「流石に龍にはならないでよ」

 畑で見えないとはいえ、龍のサイズになったら流石に見えちゃうからね。

「わかっておるわ。しかし、欠損も治せるようなお主がこんな宿屋に泊っておるのか?」

 僕の事を何か勘違いしているのかおかしなことを言っています。別に僕はお金持ちじゃないんだけどな。

「僕はお金持ちじゃないよ」
「そうじゃそれじゃ。人の世とはおかしな世界じゃな。強くてもお金が無くては暮らせん、お主のように能力を持っていても大っぴらにできずに影に隠れてしまう。何ともおかしな世界じゃ」

 今までの僕の行動を見ていてクコは隠していると思ったようだ。そんなにわかりやすいのかな?

「ルークさんお帰りなさい」

 宿屋に入るとカルロ君が迎えてくれた。

「何じゃこの可愛い存在は!」
「あう、この人は誰ですか?」

 クコがカルロ君に近づき撫でまわしている。確かにカルロ君は可愛いが撫でまわし過ぎです。

「お主も可愛いと思ったがそれ以上がいようとは」

 クコもモナーナとメイさんみたいなことを言っている。何でそこで僕が出てくるんだろう。リバーハブ村は若い人が少なかったからよくわからなかったけど僕って可愛いのかな?ユアンの方が可愛いと思うけどな~。

「ルークさん・・助けて」
「カルロ君、僕には無理だよ。飽きるまで撫でられて」
「そんな~」

 カルロ君はうなだれながらクコに撫でられている。傍目には子供同士で抱き合っているように見えるので何だか微笑ましい。

「じゃあ、ルーク君、カルロの代わりに掃除を頼んだよ」
「ええ~、製作しようと思ったのに」
「お願いします」

 因果応報、カルロ君をクコの手から守れなかったせいで僕は宿屋の掃除をしなくちゃいけなくなりました。

 やると決まったら僕は100%の力でやっていきます。水の湧く桶を置いてモップ掛け、僕のスキルのおかげでモップをかけるとモップが触った範囲から半径1mほどが綺麗になっていく、普通にモップをかけても取れないような油汚れもするっとモップに吸い込まれて行く。スキルって凄い。

「いや~見事な掃除技術だな。うちにほしいよ」
「いえいえ、スキルのおかげです」
「スキルって事はそれだけ掃除をしているって事だろ。それならそれはルーク君の力だよ」

 そうなのかな。僕の力か、掃除なんてしょうもない事だけど僕の唯一誇れることなのかも。他の力は反則で得られた事だから誇れないけど掃除や洗濯は僕の努力の結晶なんだよな~。

「ただいまー」
「もどりました」

 モナーナとメイさんが帰ってきた。確か二人でコボルト討伐に向かうとか言っていたけど。僕は遠慮したんだよね。だって、ワーウルフをあれだけ倒したら骨とか毛皮とかいっぱいあるから要らないもん。討伐の合間にメイさんは情報を収集しているわけだ。すごいな~。

「いや~モナーナさんの魔法は何なんでしょうか」
「流石に強すぎるよルーク」

 モナーナの杖が凄い力を見せてしまったようです。ワーウルフとの戦いの後、モナーナも魔法を学んでいる。エアーショットだけじゃなくて火の魔法も学んだらしい、まだ見せてもらっていないので何が使えるのか僕はわかりません。モナーナは火の属性にも適性があったんだね。

「ただ火を出すだけのファイアですら業火のようでしたよ」
「火の魔法系は怖くて使えないね」

 どうやら、風の魔法よりも威力が目に見えて、つよくなっていて危なっかしくて使えないみたい。

「しかも、あのローブですよ。何ですかあれ」
「火の魔法で草が燃えたんだけどそれを吸い取ったんだよ。どういう事なの?」

 細かい説明をしていなかった事でローブに驚いたようです。まさか、僕も火の魔法で燃えた火も吸収するとは思いませんでした。

「って黒煙龍がいる」
「ついてきちゃった。クコって呼んであげて、クコって名乗ってるんだってさ」

 メイさんが驚いていたので黒煙龍の事を伝えると狼狽えていました。少しするとカルロ君とクコの抱き合う姿にメロメロで微笑んでいたから大丈夫でしょう。
しおりを挟む
感想 296

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...