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第42話 忠実な侍女からの手紙
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「……なんだって!?」
執務室の外にまで、カイルの仰天した声が響いた。
カイルに手紙を渡した当のエドアルドも驚いて、カイルを見つめている。
「え? いったい、何が……」
「この手紙だよ。お前、いつこの手紙を預かったんだ?」
エドアルドも動転して、声が震える。
「昨日の朝です。ネティさんから、大事な手紙だから、明日になってからカイル様に渡してほしいと言われて。カイル様、いったい何が書いてあったんです!?」
カイルはため息をついた。
「アレシアとネティはリオベルデに帰った」
「はい!?」
「……すぐ行って、アレシアの部屋を改めてみろ。おそらく、宮殿を出てからずいぶん経っていると思うが……」
そうして、急いでエドアルドがアレシアの部屋に行くと、そこにはすでに2人の姿はなかった。
警護の騎士や侍女、門番などあちこちに聞き込みをすると、昨日の朝、いつも通りに神殿に向かうアレシアとネティの姿があったという話を聞く。
エドアルドは眉を寄せた。
それはおかしい。
エドアルドは神殿に確認していて、昨日、アレシアが来なかったことを知っている。
それに、アレシアとネティが歩いて神殿に向かう姿は、カイルの執務室の窓から見えるのだ。
カイルはいつもこっそりとアレシアの様子を目で追っていて、エドアルドもそんな主人の視線をたどって、アレシアとネティが神殿に歩いていくのを見ている。
昨日は、2人の姿を見かけることはなかった。
リオベルデ王国王女にして、女神神殿の姫巫女アレシアの忠実な侍女であるネティは、帝国皇帝カイルに、こんな手紙を書き残していた。
「恐れ多くも皇帝陛下に申し上げます。
私の主人、アレシア様は王国に帰る決意をなさいました。
アレシア様が皇帝陛下の婚約者である以上、おいさめするべきところ、アレシア様は婚約を返上したいとのご意志でした。
そのご意志は固く、揺らぐことはないように見受け、急いでこのお手紙を認めております。
アレシア様はアレシア様なのです。他にどう言えば良いのでしょうか。
アレシア様のお言葉をお伝えいたします。
『わたくしとカイル様は、幼い頃からの婚約に縛られていましたが、もうその必要はないと判断いたしました。
皇家の呪いはなくなりました。どうか心から愛する方と結婚してください。あなたの幸せを心から祈っています』」
そう結ばれていた。
「アレシア……なんでそうなる!?」
愕然とするカイル。
結婚する必要がもうない、というアレシアらしい言い方に、カイルの頭の中は混乱しきって、ガンガンと鳴り響く。
しかし、私達の気持ちは、感情はどうなるのだ?
心が通じたと思ったのは、気のせいだったのだろうか?
カイルはアレシアにそう訴えたいが、肝心のアレシアはここにいない。
「私が愛しているのはーー今も愛しているのはーー(絶句)!」
「陛下」
「確かに私は、王国の王女の嫁入りの慣習をアレシアで最後にする。もし王女が国に留まり祈ることを選ぶなら、王国を選べるように。そう言った。しかし、それはアレシアとの婚約を解消するという意味ではない。仮の話で……将来においては、つまり次の世代以降という意味合いで」
エドアルドは無言。
「……真相が解明したからには婚約解消だとアレシアは考えたらしい」
カイルはため息をつく。
エドアルドもまた、カイルに気づかれないように、長い長いため息をついた。
(本当にアレシア様は……)
行動力もあり、思いやりがあってとても賢い人なのに。どうして恋愛感情の機敏にはこんなに疎いのだろうか。
しかし、今はここにもう1人の当事者がいる。
エドアルドは気持ちを切り替えると、カイルに向き直った。
「私が愛しているのは……と仰っていましたが、そう、アレシア様にお伝えになったのですか?」
「ぐ」
カイルが急に青くなって、言葉を詰まらせた。
「……王国の王女の嫁入りの『慣習』をアレシア様で最後にする、と仰ったのですか?」
「あ……」
エドアルドは恐る恐る言った。
「アレシア様は、カイル様がご自身を愛しているとは思っておらず、最後の『慣習』を全うしようとされている、と思ったのでは……」
「……」
カイルが自分は何かを失敗したのかと、必死であれこれ頭の中で考えている様子を見て、エドアルドは言った。
「陛下、すぐお迎えに行ってください。その他に選択肢はありますか?」
次の瞬間、カイルはピシっと立ち上がった。
「急ぎ旅の準備を! 緑の谷へ向かう」
カイルは苦笑した。
「お前の言う通りだ。彼女にもわかるように、言葉で説明しないといけないからな。すぐリオベルデに向かおう」
それを聞いて、今度はなぜか、エドアルドが慌てだした。
「お待ちください!! 同行する随員を選ばなければなりませんし、用意するものもあります! 落ち着いてください、カイル様! 陛下!!」
執務室の外にまで、カイルの仰天した声が響いた。
カイルに手紙を渡した当のエドアルドも驚いて、カイルを見つめている。
「え? いったい、何が……」
「この手紙だよ。お前、いつこの手紙を預かったんだ?」
エドアルドも動転して、声が震える。
「昨日の朝です。ネティさんから、大事な手紙だから、明日になってからカイル様に渡してほしいと言われて。カイル様、いったい何が書いてあったんです!?」
カイルはため息をついた。
「アレシアとネティはリオベルデに帰った」
「はい!?」
「……すぐ行って、アレシアの部屋を改めてみろ。おそらく、宮殿を出てからずいぶん経っていると思うが……」
そうして、急いでエドアルドがアレシアの部屋に行くと、そこにはすでに2人の姿はなかった。
警護の騎士や侍女、門番などあちこちに聞き込みをすると、昨日の朝、いつも通りに神殿に向かうアレシアとネティの姿があったという話を聞く。
エドアルドは眉を寄せた。
それはおかしい。
エドアルドは神殿に確認していて、昨日、アレシアが来なかったことを知っている。
それに、アレシアとネティが歩いて神殿に向かう姿は、カイルの執務室の窓から見えるのだ。
カイルはいつもこっそりとアレシアの様子を目で追っていて、エドアルドもそんな主人の視線をたどって、アレシアとネティが神殿に歩いていくのを見ている。
昨日は、2人の姿を見かけることはなかった。
リオベルデ王国王女にして、女神神殿の姫巫女アレシアの忠実な侍女であるネティは、帝国皇帝カイルに、こんな手紙を書き残していた。
「恐れ多くも皇帝陛下に申し上げます。
私の主人、アレシア様は王国に帰る決意をなさいました。
アレシア様が皇帝陛下の婚約者である以上、おいさめするべきところ、アレシア様は婚約を返上したいとのご意志でした。
そのご意志は固く、揺らぐことはないように見受け、急いでこのお手紙を認めております。
アレシア様はアレシア様なのです。他にどう言えば良いのでしょうか。
アレシア様のお言葉をお伝えいたします。
『わたくしとカイル様は、幼い頃からの婚約に縛られていましたが、もうその必要はないと判断いたしました。
皇家の呪いはなくなりました。どうか心から愛する方と結婚してください。あなたの幸せを心から祈っています』」
そう結ばれていた。
「アレシア……なんでそうなる!?」
愕然とするカイル。
結婚する必要がもうない、というアレシアらしい言い方に、カイルの頭の中は混乱しきって、ガンガンと鳴り響く。
しかし、私達の気持ちは、感情はどうなるのだ?
心が通じたと思ったのは、気のせいだったのだろうか?
カイルはアレシアにそう訴えたいが、肝心のアレシアはここにいない。
「私が愛しているのはーー今も愛しているのはーー(絶句)!」
「陛下」
「確かに私は、王国の王女の嫁入りの慣習をアレシアで最後にする。もし王女が国に留まり祈ることを選ぶなら、王国を選べるように。そう言った。しかし、それはアレシアとの婚約を解消するという意味ではない。仮の話で……将来においては、つまり次の世代以降という意味合いで」
エドアルドは無言。
「……真相が解明したからには婚約解消だとアレシアは考えたらしい」
カイルはため息をつく。
エドアルドもまた、カイルに気づかれないように、長い長いため息をついた。
(本当にアレシア様は……)
行動力もあり、思いやりがあってとても賢い人なのに。どうして恋愛感情の機敏にはこんなに疎いのだろうか。
しかし、今はここにもう1人の当事者がいる。
エドアルドは気持ちを切り替えると、カイルに向き直った。
「私が愛しているのは……と仰っていましたが、そう、アレシア様にお伝えになったのですか?」
「ぐ」
カイルが急に青くなって、言葉を詰まらせた。
「……王国の王女の嫁入りの『慣習』をアレシア様で最後にする、と仰ったのですか?」
「あ……」
エドアルドは恐る恐る言った。
「アレシア様は、カイル様がご自身を愛しているとは思っておらず、最後の『慣習』を全うしようとされている、と思ったのでは……」
「……」
カイルが自分は何かを失敗したのかと、必死であれこれ頭の中で考えている様子を見て、エドアルドは言った。
「陛下、すぐお迎えに行ってください。その他に選択肢はありますか?」
次の瞬間、カイルはピシっと立ち上がった。
「急ぎ旅の準備を! 緑の谷へ向かう」
カイルは苦笑した。
「お前の言う通りだ。彼女にもわかるように、言葉で説明しないといけないからな。すぐリオベルデに向かおう」
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