欠陥αは運命を追う

豆ちよこ

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第一章

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「僕が4歳の年に、同じ教会の前に捨てられていたのが、葵くんです。 吉野という姓は、神父様から頂きました。…僕も立花の家に養子に入るまでは、吉野秋と名乗っていました」


 秋は静かに、葵について語り始めた。


 同じ教会に捨てられ保護された秋と葵は、秋が6歳、葵が2歳の年まで、その教会の吉野神父に育てられた。
 

「神父様が突然病で倒れ、僕達は別々の児童養護施設へと、引き取られました」


 それから何年も離れ離れになっていたが、秋が10歳の時に移った孤児院で、再び再開したという。
 同じ吉野姓だった事と、教会出身だという事で互いを認識した秋と葵は、秋がオメガ性だと分かるまで孤児院で仲良く過ごしていたそうだ。

「12歳のバース検査でオメガだと診断された僕は、その後すぐにオメガ保護施設に移されたので、葵くんともそれっきり……」

 そうだった。秋も実の親の顔さえ知らないで育った子だ。きっと葵の事を弟の様に可愛がったのだろう。おそらく葵も、秋の事を兄の様に慕っていたに違いない。
 さっきまであんなに明るく元気だった仔犬が、今は耳を垂らした悄気げた姿に見える。

「あの葵くんが、人様の物を勝手に持ち出すなんて。 僕には信じられないんです」
「ああ、分かってるよ」
 
「でももし、それが事実なら。僕が、僕がきちんと𠮟りますから!だから、だから…っ」
「秋…」

 ああ…、もう。そうだよな。こうなったら俺の番探しより、葵の捜索を優先するしかないよな。

「分かった。本腰入れて、葵を探してみよう」
「そうだな。それがいい」

 玲一も同意か。こいつ、どうも秋には弱いみたいだな。まぁ、分からなくもない。
 本当ですかと、やっと明るい表情を見せた秋に、三十路男3人が癒やされた。
 

「あ、でも。 宗次さんの番さんも、絶対みつけましょう! ね!」


 さすが仔犬。何処までも前向きだ。















 その報せは案外早くやって来た。
 秋と約束を交わしてから半月後、双葉を経由して警察から連絡が入った。



「…え? 子供が持っていた?」

 警察から『例の盗難品が出てきました』と連絡を受け現物を確かめに来ると、そこには見知らぬベータの中年男性がいた。
 取調室の隣から、マジックミラーを通して男の顔を眺める。人の良さそうな凡庸な人物。肩を丸め縮こまり困り果てた様子で、言い訳とも取れる話しを繰り返している。
 あの男が、葵から無理矢理石を奪ったとは考え難いが…。

「どうにも話が胡散臭くて、とりあえず勾留して取り調べてはいるんですが…」

 担当刑事はそう言うと、金庫の中にあったあのアメジストの原石を差し出して来た。
 それは記憶のままの状態で、見た限り傷1つ付いてない。
 売らなかったのか。 それとも、誰かに取り上げられたのか…。
 勾留中の男から事情を聞きたい。これの元の持ち主が、今どうしているのか。果たして聞き出せるだろうか。

「持っていたのは確か、子供だと聞いたのだが…」
「ええ。小さな女の子です」

 ますます頭が混乱する。警察が拘束しているのは見ず知らずの中年男性で、けれど持っていたのは小さな女の子? この犯人らしい男の子供か?
 まさか、自分の子供を使って葵に近付き、スキを見て盗んだのか?
 そう考えたら腹の底がスッと冷えた。許せない。無意識にアルファのオーラが漏れ出す。
 側にいた若い刑事が肩を震わす。すぐに気付き、気持ちを落ち着かせた。

「ああ、すまない…。もう、大丈夫だ」
「ぃ、…いえ」

 大人気ない…。つい、怒りで我を忘れかけた。
 アルファの怒りのオーラは、ベータやオメガには耐え難い恐怖を与えてしまう。同じアルファでも下位種ならば、俺のオーラに怯えるのも無理は無いか…。欠陥品とはいえ、仮にも宝条家の上位アルファ種だからな。

 ほっと息をつく若い刑事を見て、申し訳ない気持ちになる。と同時に、脳裏に葵が浮かんだ。あの子も酷く怯えていたな。
 父と兄の大喧嘩に巻き込まれた葵が、俺の部屋に飛び込んで来たのを思い出した。ガタガタと震える小さな身体が可哀想で、落ち着くまで抱きかかえてやったっけ…。その内、泣きながら眠ってしまった葵を抱いたまま、俺もそのまま眠っちまったんだよな。
 そういえば……、あの後どうしたっけ? 確か朝起きた時には一人だったと思うが。どうにも記憶が曖昧だ。

「あのぉ、宝条さん?」

「ん? ああ…、悪いな。考え事をしていた」
「いえ。それで、どうされますか?保護された子供には、お会いになりますか?」
 
 男の事情は警察に任せて、子供の方に会ってみるか。

「ええ。 お願いします」

 小さな女の子なら、俺より玲一の方が、怖がらせずに話が出来るかもしれないな。
 扉の外で待機していた玲一に、何でもいいから葵に関する情報を聞き出してくれと頼み、子供が保護されている待機室へと向かった。

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