5 / 14
第一章
5
しおりを挟む「僕が4歳の年に、同じ教会の前に捨てられていたのが、葵くんです。 吉野という姓は、神父様から頂きました。…僕も立花の家に養子に入るまでは、吉野秋と名乗っていました」
秋は静かに、葵について語り始めた。
同じ教会に捨てられ保護された秋と葵は、秋が6歳、葵が2歳の年まで、その教会の吉野神父に育てられた。
「神父様が突然病で倒れ、僕達は別々の児童養護施設へと、引き取られました」
それから何年も離れ離れになっていたが、秋が10歳の時に移った孤児院で、再び再開したという。
同じ吉野姓だった事と、教会出身だという事で互いを認識した秋と葵は、秋がオメガ性だと分かるまで孤児院で仲良く過ごしていたそうだ。
「12歳のバース検査でオメガだと診断された僕は、その後すぐにオメガ保護施設に移されたので、葵くんともそれっきり……」
そうだった。秋も実の親の顔さえ知らないで育った子だ。きっと葵の事を弟の様に可愛がったのだろう。おそらく葵も、秋の事を兄の様に慕っていたに違いない。
さっきまであんなに明るく元気だった仔犬が、今は耳を垂らした悄気げた姿に見える。
「あの葵くんが、人様の物を勝手に持ち出すなんて。 僕には信じられないんです」
「ああ、分かってるよ」
「でももし、それが事実なら。僕が、僕がきちんと𠮟りますから!だから、だから…っ」
「秋…」
ああ…、もう。そうだよな。こうなったら俺の番探しより、葵の捜索を優先するしかないよな。
「分かった。本腰入れて、葵を探してみよう」
「そうだな。それがいい」
玲一も同意か。こいつ、どうも秋には弱いみたいだな。まぁ、分からなくもない。
本当ですかと、やっと明るい表情を見せた秋に、三十路男3人が癒やされた。
「あ、でも。 宗次さんの番さんも、絶対みつけましょう! ね!」
さすが仔犬。何処までも前向きだ。
▽
▼
▽
その報せは案外早くやって来た。
秋と約束を交わしてから半月後、双葉を経由して警察から連絡が入った。
「…え? 子供が持っていた?」
警察から『例の盗難品が出てきました』と連絡を受け現物を確かめに来ると、そこには見知らぬベータの中年男性がいた。
取調室の隣から、マジックミラーを通して男の顔を眺める。人の良さそうな凡庸な人物。肩を丸め縮こまり困り果てた様子で、言い訳とも取れる話しを繰り返している。
あの男が、葵から無理矢理石を奪ったとは考え難いが…。
「どうにも話が胡散臭くて、とりあえず勾留して取り調べてはいるんですが…」
担当刑事はそう言うと、金庫の中にあったあのアメジストの原石を差し出して来た。
それは記憶のままの状態で、見た限り傷1つ付いてない。
売らなかったのか。 それとも、誰かに取り上げられたのか…。
勾留中の男から事情を聞きたい。これの元の持ち主が、今どうしているのか。果たして聞き出せるだろうか。
「持っていたのは確か、子供だと聞いたのだが…」
「ええ。小さな女の子です」
ますます頭が混乱する。警察が拘束しているのは見ず知らずの中年男性で、けれど持っていたのは小さな女の子? この犯人らしい男の子供か?
まさか、自分の子供を使って葵に近付き、スキを見て盗んだのか?
そう考えたら腹の底がスッと冷えた。許せない。無意識にアルファのオーラが漏れ出す。
側にいた若い刑事が肩を震わす。すぐに気付き、気持ちを落ち着かせた。
「ああ、すまない…。もう、大丈夫だ」
「ぃ、…いえ」
大人気ない…。つい、怒りで我を忘れかけた。
アルファの怒りのオーラは、ベータやオメガには耐え難い恐怖を与えてしまう。同じアルファでも下位種ならば、俺のオーラに怯えるのも無理は無いか…。欠陥品とはいえ、仮にも宝条家の上位アルファ種だからな。
ほっと息をつく若い刑事を見て、申し訳ない気持ちになる。と同時に、脳裏に葵が浮かんだ。あの子も酷く怯えていたな。
父と兄の大喧嘩に巻き込まれた葵が、俺の部屋に飛び込んで来たのを思い出した。ガタガタと震える小さな身体が可哀想で、落ち着くまで抱きかかえてやったっけ…。その内、泣きながら眠ってしまった葵を抱いたまま、俺もそのまま眠っちまったんだよな。
そういえば……、あの後どうしたっけ? 確か朝起きた時には一人だったと思うが。どうにも記憶が曖昧だ。
「あのぉ、宝条さん?」
「ん? ああ…、悪いな。考え事をしていた」
「いえ。それで、どうされますか?保護された子供には、お会いになりますか?」
男の事情は警察に任せて、子供の方に会ってみるか。
「ええ。 お願いします」
小さな女の子なら、俺より玲一の方が、怖がらせずに話が出来るかもしれないな。
扉の外で待機していた玲一に、何でもいいから葵に関する情報を聞き出してくれと頼み、子供が保護されている待機室へと向かった。
135
あなたにおすすめの小説
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる